第12話「ブラックドナー」

「ヘモグロビン値が12必要なところ、11.9でした。」


第二次検査の翌日のことである。コーディネーターの本田さん(仮名)から、再検査のお知らせです。余談ですが私、携帯には「コーディネーター本田」と登録しているので謎の組織からかかってきたふうに楽しんでいます。


あと尿検査もアウトくらったらしく、来週再検査である。食っちゃ寝ストレスフリーのお気楽生活と市販の鉄分ドリンクのグレーなドーピングで、何故に再検査せねばならんのかというと、メス特有の生理現象というものでしてね、ヘモ値が下がることが、ままあるらしいのよね。


まずい。非常に、まずい。ドナーやりたいのだよ私。ネタ的にオイシイし、面白そうだし、昨日(つまり第二次検査の日)に浮かれて入院用のタオルなんかも買っちゃったし。きっつい抗がん剤治療を目の前に控えたカヲル君(私は患者さんを勝手にそう呼んでいます)に申し訳もない。第一次検査も再検査くらったし、嗚呼この検査料金、いくらかかるんだろう?ホワイトドナーとは全てをスマートにやれる人のことで、私、限りなくブラックに近いんじゃなかろうか。ホワイトしたいのに。


…今思い返せば、生理で再検査など、全然、全ッ然ホワイト。


とりあえずグレーのドーピングを続行して、来週の再検査だ。そこでギリでも12を超えるなら、たぶん先生が鉄剤を処方してくれる、はず!本田さんからしたらよくあること、くらいのノリでした。1ヶ月を切って再検査って、私は気が気じゃないのに、大丈夫かしらん。


などと心配しながら後日血液と尿の再検査を受け、何のことはない、アッサリパスしながら、その結果が出た翌日、体調を崩す。


うわあああああああああ

うわあああああああああ

うわあああああああああ


叫びたいのはドナーとその家族の方であるが、私もドナー面白がってやってる手前、やっぱり叫びたいのである。何度も書きますが、手術まで、つまり移植まで1ヶ月を切っています。致死量の抗がん剤治療に入る直前だったのがせめてもの救いか(だいたい1~2週間前からやるらしい)。私、体調を崩すといっても死ぬよーな病気ではない。でも病院に行って薬もらって治療する必要のある症状で、治療さえすればサクッとよくなるもの。


この体調不良自体は軽く、そのへんの街医者で充分だが、ドナーである。あらゆる身体の不調は、どんな些細なことでもコーディネーターに連絡し、緊急を要すのならドナー担当の医師へ直通でも連絡をせよと言われてる。あと常にドナー手帳を携帯せよとも。


本田さんに連絡すると担当医師に連絡取ってくれて、結局入院予定の大病院で治療を受けることに。


この大病院、地域の基幹となる医療施設で、紹介状が無いと数千円の初診料を取られるトコである。私の場合は既に血液内科の医師による紹介があるのでそこらへんは大丈夫。なんだが、ここの医師はそういうトコなので基本的に重病人ばかり診てましてね、私がサクッとよくなるはずと思っているトコ、最悪の事態を想定しまくり、「○○科へも連絡しておくから今から行くように」と、とにかく大事に大事にしてくれるんですよ。薬だって最悪の事態を想定してキツいヤツを長い日数分処方されて飲みきってくださいときた。うぅ、副作用で腸がゆるい…。


そんでまた、手続きが結構煩雑っぽい。ドナーの個人の健康問題は骨髄移植の範疇外なので、健康保険使ってドナーが普通に診察料払って薬も薬局で買います。でも最初に血液内科の先生の紹介があってのことで、ドナーなんでヨロシクと言われればメモにも書かれるわけで、ドナーが骨髄移植の範囲内の検査や投薬は無料になるので、事務手続きが混乱したりするよ。


私も、この件で最初に会計したら0円て表示されて、本田さんにおかしくないですかと電話したらとりあえずそのままでってことになって、薬局で薬貰う間に薬局がまた骨髄バンクに電話して薬代どうなるのか確認し、その際に病院でも支払う必要があって、病院事務のミスだから後日でもいいので病院で再度会計してほしい、ときた。結局その日のうちに払ったけど。


通院2日目になって、本人としては完治の感触でも続けて処方されるキツめの薬、高い。ドナーとして今までもイロイロと検査だの手続きだのしてきたけれど、それっていつもコーディネーターの本田さんが先回りして待ち時間を可能な限り短縮してくれていたのだと、改めて実感。待ち時間長いんだもん。ヒマすぐる。ドナーやる人は、とにかく面倒くさいから、健康に気をつけるべきです。大変です。


病気って、「治った」て瞬間が難しい。投薬が終了したら完治かというとそうじゃないじゃん。たかが風邪だって、咳が全くでなくなる完治の瞬間なんて誰も知らんで。私のこの大したことのない体調不良に対し、ドナーですし、風邪でいうところの「咳が全くでなくなる完治の瞬間」で以って完治とすると臨まれ、そんな瞬間誰も知らんですよね、つまりは「このまま○○日経過したらいくら何でも完治」と設定、そんでね、骨髄バンクの規定では「完治より3週間は移植不可」とあり、骨髄採取、入院、延期、もしくは中止…!


どうなる?!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る