第7話「最大の障壁」

ドナー選定にあたり、骨髄バンクでは最大5人のドナー候補を、同時進行で血液検査し、患者に最も適した候補をドナーに選定します。その5人に適合者が居なかった場合は、更に追加で検査する場合もあります。ドナーは自由意志によるボランティア行為という名目なので、ドナー候補者となっても自分が何人いる候補のうちの1人なのかも知らされません。ミョーなープレッシャーを与えないために。


ちなみに、同時進行が最大5人、システム上は適合者が現れるまで、患者はいくらでもバンクで追加候補を検索することが出来ます。が、増える分だけ、時間と患者負担金がかかります。財布事情や病状によって「コイツでいいか」と、最良ではないけれどその時点で最も適合した候補に決まることもあります。


ついでに言っておくと、白血病だと先ず化学療法で治せたら治して、無理やったら骨髄移植になりますが、肉親の方が適合しやすいんで多分肉親から検査します。んで肉親に全滅をくらうと骨髄バンク経由、国内に見つからなければ海外のバンクと連携、という流れです。金額は一概には言えませんが、5人を国内バンクで検索してその中の1人で骨髄移植までやって20万円が目安のようです。保険とか含めると知らん。


再検査の結果はすぐ届いて完璧な値、あとはドナー候補者の結果を医師が見比べて、適合者がいればその人が候補者からドナーへ格上げ、いなければ候補を追加であげて検査があるかもしれんので、ドナー候補者はひたすら待つのみ。


だったのだが、再検査くらったおかげで私が結果提出の最も遅い候補者だったようです。再検査結果の通知が来てすぐに、ドナーに格上げされたことをコーディネーターの本田さんから連絡を受けました。


ヒャッホーイ☆カヲル君が私をご指名だよ!カヲル君が私の骨髄液を!私の身体を!


合格率が2割あれば私は自分が合格するものと思えるおめでたい人間ですからね、ドナー選定されるものと思ってました。思って周囲に「ドナーやるんだー☆」と宣伝しまくってました。それでも実際選定されると嬉しいものですね。願わくは私、カヲル君が妥協したドナーではなく、「完璧だ」と喜ばれるドナーでありますように。


今後の予定は、親同席での最終同意、精密な健康診断、場合によっては貯血(自分の血を予め取っておいて採取の時に戻す)があって、入院と。とりあえず次のイベントは最終同意で、私と家族の二者が署名捺印するヤツです。


普段自分からは連絡を取らない親に、今回ばかりはマメに電話しています。最初に通知来たときも父母両方に直接話して同意してもらったし、検査の予定決定や検査当日も、各段階でキッチリ報告しています。加えて、ドナー選定から骨髄採取までの流れやドナーの負担、事故の事例やその対処、保証までがまとめられた「ドナーのためのハンドブック」を、骨髄バンクから直接実家に送付してもらっています。事務が出来てこそのホワイトドナーよね☆


母「読んでねぇ。」

アリス「…。」


母は以前、骨髄バンクに登録しようかと思ったが、年齢制限(54歳までだっけか)に引っかかり登録出来なかったのだと、私に通知が来た時に言ってました。通知が来たとき、つまり最初の段階でちゃんと連絡したとき、父も母も「やりゃーええが。」と即答してくれたので、ここまで順調に進めてきたのではあるが――


「危のうねえん?」

「何かあったらどげーんするん?」

「おめえがいちかばちかみてーなことはせんでもええ」

「子供が産めんよーになりゃーせんのか?」←まだ諦めてないらしい


…怒っていいかな?ダメよね。


ウチの親、善良でボランティア精神もある方だとは思うのですが、これ、無知が故の善良さ、素朴さ、気前のよさでありまして、苦手とするもの学習、具体的に「調べる」「読む」です。最新の電化製品買っても説明書を読まずに「わからない」と言い、他人に読ませて必要最小限の機能を教えてもらうタイプ。揃いも揃ってあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――


「こンの文盲バカ夫婦めー!心配ならハンドブック読め!HP調べろ!」

と言いたいところを飲み込もう。配偶者がいれば親じゃなくて配偶者の同意のみでいけるので、今人生で最も結婚したいよ。


「事故があった場合に備えてバンクの方で保険に加入してくれてね――」

「金の問題じゃねえ!」

「いやそうじゃなくて、保険が適用になる、つまり治療が要る事故の確率が約1%」

「…そげーに低いんか」


「ドナーの死者は世界の全ての事例でこれまでに5人、日本の骨髄バンク経由はゼロ」

「日本のバンク経由で移植する患者が年間1,300人くらい」

「バンク経由せずに兄弟とかでドナー見つかる人もいるから件数はもっと多い」

「日本のバンク経由の移植は累計で1万件を超えてる」


全部ハンドブックに書いてあります。ちょっと面倒臭くなってきた…。


「患者が死のうが、最優先されるのはドナーの安全」

「骨に針を刺して中の骨髄液取られるけど、すぐに元に戻る」

「腰の骨から取るだけだから、半身不随は無い。脊髄じゃない。」

「常識的に考えて欲しいんじゃけど、ドナーが危険に晒される確率高かったり、不妊になったりするんじゃったら、こんなボランティア事業は成立しないやろ。」


まじで面倒臭くなってきた…。


「ガンが治るなら、助けてあげてーが。」


この台詞、A.T.フィールドを無効化する最終決戦兵器です。というのも、父方の祖父は胃ガンで没、父の兄は肺ガンで没、母方の祖父は膵臓ガンで没、母の姉は胃ガンで完治、母の姉の夫(アリスから見て義伯父)はリンパ系のガンで昨年没という、ガン家系っぷりを近年発揮しておるのです。(白血病とか具体的な部位でなく)ガンが!治るなら!助けてあげたい!遺族には重く響くでぇ。←クズ


「そりゃあそうじゃな」

フン、チョロいモンよ。


バカというもの、感情に訴えられるならなびかせるのはたやすいことですが、バカであるが故に記憶力乏しく移り気で、理解していないからすぐに不信に陥り、そもそも理解する力が足りないというもの。これは、私の第一希望である、神戸で私が独りで同意し、その後地元で親が同意する、最終同意面談分割案が、非常に危ういということ。まぁこの可能性高いのはわかってたから、しゃーないね、私が実家に帰って彼らのボランティア精神煽り、地元で最終同意面接やってもらってサインに持ち込んでやろうじゃないの。


私は、バカが嫌いです。薄っぺらいボランティア精神で了承しておきながら、後になって「いちかばちか」などと愚かなことを言って意見を翻すバカが嫌いです。心配していると言いながら与えられた小冊子にすら目を通さないバカが嫌いです。私はバカが嫌いです。


「親は子供のことになるとバカにもなるモンじゃ」という読者様いますかね?ハンドブック読んで理解した上での反対なら私もバカとは言いませんよ。無知で感情的である者は親とか関係なくバカなんですよ。日本語のたやすい冊子すら子のために読めない者がバカでなくて何だろう。こんなものは愛情ではありませんよ。こいつらのはな、ただの所有欲ですよ。


その他の反応をご紹介しましょうか。

妹「絶対興味本位じゃろ」

友人1「人助け以上の何かがある気がする」

友人2「会社堂々と休めますね!」

友人3「アリスが模範的になると、裏があると勘ぐるのが常識だしねー」


おまえら…、理解があって嬉しい、けど、けどッ…!


イケメンの友人「偉い!!」

大好き!イケメンは違う!結婚しよう!!

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