第4話「第一次検査」
コーディネーターの本田さん(仮名)から、検査は「神戸中央病院」と言われてて、中央とあるのに僻地北区の立地だということが判明して、しばらくげんなりしていました。テキトーに丸つけすぎたかと。内心、第一希望はポートアイランドにある中央市民病院で、ココ、IKEAのすぐ近くなんですわ。
仕事が忙しいようなら、昼からでも仕事に出られるよう、基本的に朝イチの予約を希望して、職場にもその旨伝えてあるとはいえ、休みに出来るなら休みたい。そんで休みに出来たなら遊べるトコで遊びたいのが本音。だから書面に神戸市立医療センター中央市民病院と書かれていたのでテンション上がる!ヒャッホーイ!
超満員のポートライナーに乗り、約束の時刻の9時に10分早く医療センターに到着した吉村、あれ?ここ病院よな?さっき乗ったのモノレールよな?ここ、未来じゃないよな?
本田さんは既に到着していて、総合案内前のベンチに座り、骨髄バンクの封筒を掲げて書き物をされていました。中年の物腰柔らかな女性。すぐわかったので簡単に挨拶をし、移動。この日の予定はコーディネーターによる移植の説明と、医師による問診、採血です。先ず待合ゾーン、てゆーかシネコンのロビーみたいなトコに座って、この日の担当医師を待ちます。
吉村、本田さんとちょいちょい雑談したような気がするんだけど、意識はもってかれてます、この未来に!
私の知ってる大病院といえば、20年以上前に喘息でかかった倉敷の川崎医大。狭い玄関くぐって、すし詰めの大きな待合室で待って、各科の通路にある椅子でも待って、総待ち時間3時間、一瞬の診察で、会計にすし詰め1時間の残業。以来、大病院とは待つものであり、病人が死にそうになりながら待っているものというイメージで敬遠していたのだが。
入口は広く吹き抜けホテルロビー、シネコンロビーの待合、銀行窓口のような診察券発行、支払は無人のATMみたいな機械ですって?!人は多いけど流動的で混雑をそれほど感じない。カーペットは染み一つなく、壁も窓も新しく、わかりやす表示の看板に、タリーズが入ってて病人ぽい人もそうでない人も優雅にお茶しとるやないの!私の知ってる病院と違う!あらゆるものが珍しい!面白い!
コーディネーターとして関西の大病院をイロイロご存知の本田さん曰く、ここは3、4年前に新築された、特にキレイな病院であるとか。神戸市の医療の拠点施設で、三宮のポートライナー始発駅には受付の発券機があって、待ち時間が少し短縮出来るとか何とか。そんなんきいたら私やってみたいと思うのだけれど、ドナー候補者は一般外来とは違うし、支払があるのかわからんしあるとしてもコーディネーターがやるやろから、あのATMも触る機会が無い。うぬぬ、残念。
しばらく待って、この日の担当医師である谷上先生(仮名)がやってきて、軽く挨拶した後STAFF ONLY奥の打合わせ室に通された。それで谷上先生は一旦退場し、コーディネーターの本田さんがドナーのためのハンドブックを見ながら私に説明してくれる。既に全部読んできた私にわからぬ点などない!ハンドブックはおろか、バンクのHPを嘗め回すように読み、それこそ医師向けやコーディネーターの給与なんかもよ、あまつさえドナーの2ch掲示板まで検索するホワイトドナーですもの!
説明が一段落すると谷上先生再登場して問診。何も特別な診察とかそんなんじゃなくて、ただ紙に書いてある質問を読んで、私が答えて、書き写すだけ。「医師がちゃんと絡んでいるか」が大切なのだろう。
文系の健康体、吉村からしたら、医者なんて遥か遠くの偉い人です。谷上先生はスッとした男性の中年の先生で、尊大でもなければ気安くもない、医療現場の人って印象です。こんな大きくてキレイな病院にお勤めなら、ものすごい出来る人なんだろうなーと、吉村のぼーっとした頭は想像します。
故に、化学療法でも治らない患者の、最後の頼みの綱として、こんな、見るからにアホっぽい一般人に頼らざるを得ないって、なんだかなぁ。医療センター隣の先端医療センターでは、今話題のiPS細胞の実用化が研究されていて、患者も医者も「ハヨiPS骨髄」って気持ちでいっぱいなんだろうなぁと、ホントぼーっと考えてました。私がドナーやるとして、骨髄移植ドナーの最後の世代になったりするんだろうか。
問診を終えると採血です。採血室に並ぶ患者さんをすっ飛ばして吉村が採血してもらいます。献血でやってるいつものやつ、でも献血前の検査より量は多いかな。「消毒用のアルコールでかぶれますか?」という、採血時のお決まりの質問に、ボケかけた老人がわかったよーなわからんよーな返事をしてて、担当の看護師さんはおりこみずみと言わんばかりに流れるように採血してらっしゃいました。
元気な時に病院来るのって楽しいな。イロイロ観察出来るし、それがドナーならVIP待遇やし。←クズ
今回の検査がこの医療センターなのであって、次の検査やら最後の入院なんかがこことは限らないのだけれど、なんかあまりにキレイなのとIKEA近いのとで、施設の第一希望にさせていただいております。ここに!入院したい!旅行の宿泊施設を決めるのと同じノリです。
採血後すぐに開放となり、病院玄関まで見送られる吉村。10時半くらいか。くっ、これで院内をウロウロ観光出来なくなった、とは全く表情に出さず、颯爽と立ち去ってIKEAに向かいます。IKEAとはスウェーデン家具の巨大モデルルーム兼倉庫形態の人気店でして、休日ともなると家族連れでごった返します。が、この日は平日、ヌフフフフフ。
先ずサーモンマリネとモーニングセットを食べて、ソファでダラダラ読書する。人は少ないながらもちょいちょいいる。乳児連れの母2組、夫婦、母と祖母っぽい人、すいてるっていいよね!心が豊かになるよね!平日にIKEAで遅めのモーニングしてぼんやりしてるアタシ!有閑階級みたーい!
と嬉しく思ったのも最初のうちだけ。そもそもアールヌーヴォーやらヴィクトリアン好きの吉村、IKEAデザインそれほど魅かれない。面白いのは面白いよ、でも結局「大量生産商品だな」と思わなくもなく。その大量生産された商品を如何にアレンジするかが面白味だとわかっていますよ!でもっ!私には違うのっ!
この大量生産された家具の部屋を一周して、再びフードコートでケーキを食し、本田さんの説明や谷上先生や、医療センターを反芻する。
骨髄移植するのは化学療法で治らなかった患者さんで、移植しても患者さんの半分前後はお亡くなりになるらしい。そんな非常事態に見舞われてる患者さんだけれど、ドナーはドナーで何人いるか知らんが検査して最終同意だのイロイロ手続きして、手術室や無菌室や医師(ドナー側と患者側)の都合もつけるために、「即!」というわけにはいかず、待ってる。非常事態だって何人もいれば順番待ちにはなる。
生命も大量生産されて、大量生産に囲まれて老いて、死も大量生産されるような気がしてならない。夏の畑で、茄子が1日でどれだけ大きくなったか、その1つの茄子、昨日見て今日も見た茄子、それだけで特別な茄子、個の生命への驚きが、病院とかIKEAに行くととても遠い。ドナーとして特別な立場で病院を観光した私も、ただ生産されて消費されるだけのものよなぁと、一瞬やるせない気持ちになりはしたのだけれど、読んでる本がハンパなく面白くて、私を特別な世界に連れてってくれるので、趣味読書でよかった。
IKEAで独りキモく爆笑しているヤツは吉村アリスです。
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