真・桃太郎/バースト

ばるじMark.6 ふるぱけ

1『桃太郎の想区の、異常な主人公率』1/2

「さて。到着したはいいが」

「うん。これは……」


 タオがあたりを見渡す。それに倣うまでもなく、僕もまわりを眺めていた。


「なんというか……」

「筆舌に尽くしがたい、とでもいうんですかね」


 レイナとシェインもあっけにとられているようだ。

 草花の生い茂る見晴らしのいい街道で繰り広げられているこの光景を見たら、たぶん僕達じゃなくったって呆然としてしまう。

 まるで麦畑に風が走っているかのように、火花を散らしながら大剣が踊り狂っているこの光景を見てしまったら、間違いなく。


――「くっ、この偽物め!」

――「なにを言う! この僕が本物だ!」

――「偽物はみんなそう言うんだよ! くらえ!」

――「うわぁーッ!」

――「くっ、手強い! さすが僕だ!」

――「隙あり!」

――「ぐはッ!」

――「はははっ、本物の桃太郎に敵うと思って……」

――「とりゃぁっ!」

――「ぐわーッ!」


 桃太郎が桃太郎を斬り、その桃太郎を別の桃太郎が切り捨てての大乱戦。目線を移しても以下同様、といったありさま。


「いったい、なにがどうしてああなったんでしょうかね」

「……まったくもって見当がつかん」

「なんだか、桃太郎関係の想区にはまともな彼がいないような気がするのはシェインだけでしょうか?」

「オレもそう思ってたところだよ。ほんとなんなんだろうな……はぁ」


 頭を抱えて首を振るタオ。


「ねえ、ところでさ。あれ……」


 ずっと黙り込んでいたレイナが、言葉の端々に緊張感を含ませながら指を差した。その方向を見ると、倒れていた桃太郎の姿を隠すように煙が上がった。それが晴れた頃には、桃太郎の姿はヴィランへと変わっていた。


「あれは……ヴィラン!?」

「どうして桃太郎が……ほら、あそこで倒れてる桃太郎も、みんなヴィランに変わっていってるわ!」


 ところどころで黒い霧が立ち上がり、その中からわらわらとヴィランの軍勢が現れる。近くにいる桃太郎を襲い、倒れた桃太郎が次々とヴィランに変わっていく。

 桃太郎とヴィランが混沌と混ざり合う。


「……どこからどう見たってマズい以外の状況じゃないわ!」

「騒ぎを止めるぞ! このままだとヴィランが増殖しちまう!」

「うん、そうだね!」

「ガッテン、承知です」


 各々が空白の書と導きの栞を握りしめ、軍勢に乗り込もうと駈け出したのと同時だった。


「君たち!」


 後ろから声を掛けられて足が止まる。


「何をしようとしているのかな。あの一帯は危険だと見てわからないのかい?」


 二人の女性が、そこに立っていた。

 一人は、桜色の着物に身を包み、女の子らしい雰囲気とはかけ離れた大剣を携えて堂々と立ていて、こちらを怪しんでいるような目で見ている。

 対するもう一人が、僕たちに話をかけてきたほうだ。

 華やかな風貌の少女とは対象的に、彼女はただ黒かった。着物もさることながら、僕の目を掴んで離さないのは、触れただけで切れそうなほどの黒い長髪。後ろに束ねられた一房の漆黒は、まるで揺らした空気すらも鋭く刻み散らすかのような光沢。長い前髪の向こうに沈む切れ長の目は、その視線だけであらゆるものを縛り付けるような、冷たい光を放っていた。


「危険だからだ! あれを野放しにしておくわけにはいかねぇ!」


 彼女から放たれる重圧に気圧されることなく、タオは叫ぶ。その声で僕はようやく我に返った。


「ええ。あれは倒さなくてはいけないものよ。私たちはあいつらを倒して回る旅をしているの」

「……ということは、君たちはあれが何かを知っている、ということかな?」

「こいつら、どうも怪しいですよ……!」


 桜色の少女が、大剣を構えてお互いの間に立つ。


「怪しかろうがなかろうが今はどうだっていいことだ! お嬢、細かい説明は後でもできる。まずはあれをなんとかするぞ!」


 一秒たりとも待ちきれないといった様子で、タオが変身を終え、戦いの中へと駆け出していった。


「ええ、そうね!」

「ブッ飛ばしていきますよー。ほら、新入りさんも早くしてください」

「うん、そうだね。行こう!」


 僕らは栞を空白の書に挟む。ヒーローの魂とコネクトし終えると、戦陣へと走りだした。



 ***

「……驚いたな。彼ら、今姿が変わったね」

「何が起きたんでしょうか……?」

「わからない。だが、こういう不可思議との遭遇というのは、得てして転機と決まっているものさ。……では、私たちも行こうか」

「お言葉ですが剣豪さま! もしかしたらあの者たちは敵かもしれないんですよ!?」

「まあまあ。図らずもとりあえず目的は一緒のようだからね。それに、私たち二人でも、あれほどの数を相手するのもなかなか骨が折れるというものだ。あといい加減“剣豪さま”てのはやめてもらえるかな? それ出会った時からそう呼んでるよね? ちょっと仰々しいというか。ずっとやめて欲しいと思ってるんだよね」

「……わかりました。あなたがそう言うのでしたら」

「そうか、それは助かる。その換称はちょっと恥ずかしいというかなんというかね」

「背後はお任せください!」

「……うん、頼りにしてるよ」

「はいっ! ――桜耶、推して参るっ!」

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