触手デベロッパー・ファンタジー
ゴッドさん
第1章 触手の回想
1匹目 プロローグ
そいつらは、ぬるぬるしていた。
* * *
夜の深い闇に包まれた森林。
「ハァッ、ハァッ!」
鎧を着た青年が息を切らしながら駆けていく。
その青年を追うように、周辺の藪も音を上げる。
藪の中に潜む何かが青年を追っているのだ。
(くそっ! 敵はどこにいる!?)
青年の背中には、高貴な装飾が施された剣。
聖剣エクスカリバー。
それが彼が持つ剣の名前だ。
青年はその剣の使い手であり『勇者』と呼ばれている。これまで聖剣を使い、多くの敵を圧倒してきた。数々のモンスターと戦い、敵の血で地面を染める。
しかし、今回の状況は彼にとって最悪だった。
闇や木々で視界が悪く、正確な敵の数や位置をつかめない。樹上から、藪から、木々の隙間から、鞭のような攻撃を受ける。威力は低いものの、確実に勇者の体力を削っていた。
(戦うには、どこか広い場所に出ないと!)
勇者は暗い森の中を走り続けた。
そして、ようやく木々のない開けた場所を発見する。
「ここだ!」
勇者はそこへ飛び込み、開けた場所の中心に向かって走り出した。
しかし――
「ぐぁっ!」
彼はズルリと足を滑らせ、盛大に転んでしまう。地面がぬかるんでいたのだ。
「何だよ、これは!」
地面に手を着き、その感触を確かめてみる。
「水……じゃない? 何だ、この液体は?」
地面にはぬるぬるとした謎の潤滑液が撒かれていた。地面から手を上げると、糸を引いている。それが彼の体や聖剣に纏わりつき、気持ち悪い感覚を抱かせた。
「ちくしょう! この液体、変な臭いまでする!」
強烈で甘ったるい臭いが彼を包み込む。腐った果物のような、昆虫を呼び寄せる花のような、甘すぎて心地よくない部類に入るだろうか。彼は泥だらけになった自分の身体を軽く払い、立ち上がろうとした。
そのとき、森林の方からベチャベチャと嫌な音が響く。
それは青年を追っていた敵の足音だった。
「追って来たか」
厚い雲がゆっくりと移動し、青白い月明かりが敵を照らす。
そこで自分を追う敵の正体が明らかになった。
「何だ、お前ら! 気持ち悪っ!」
そこにいたのは、何匹もの触手生物。合計で何百本という触手がうねうねと宙を動く。月光が彼らの纏う粘液に反射して、てらてらと不気味に輝いていた。
「お前ら、魔王軍の手先か?」
「ユウシャ、コロス、メイレイ」
触手のうち、一体がカタコトで喋る。触手を持つ様々な魔物が勇者を取り囲み、ギョロリと飛び出した目玉で睨んだ。
「すげぇ殺意だ。やはり、俺を殺しに来たようだな」
ただならぬ殺気。
勇者はそれを感じ取ると、背中に掛けている聖剣を抜こうとした。
しかし――
ヌルッ!
「えっ……!」
手に付着した潤滑液のせいで、剣をうまく握れないのだ。どうにか鞘から抜くことはできたが、強く握ろうとすると手が滑って剣を落としてしまいそうになる。
一方、触手たちは潤滑液が撒かれた地面を滑らかに移動していく。まるで氷上のソリのようにツルツルと、完全に移動方法をマスターしていた。
このとき、勇者は完全に触手たちの罠に嵌っていた。潤滑液を散布した広場へ誘導し、剣の握りと足場を不安定にする。それが触手たちの狙いだったのだ。
「カカレ」
リーダー格の触手が他の触手へ号令を発すると、一斉に勇者に向かって跳び掛かった。
しかし――
「なめるなぁ!」
流石、腐っても勇者。聖剣が触手たちを次々と切り裂く。
跳びかかった触手から死んでいった。死体が地面に転がり、ベチャベチャと音を立てる。息絶えてもなお、触手は地面でビチビチと動いていた。
「うわ、気持ち悪……!」
その様子が勇者に嫌悪感を抱かせる。
それでも勇者は迫り来る触手たちをエクスカリバーで殺していく。周辺は触手たちの死体と体液で溢れ、その広場には強烈な異臭が漂った。
勇者の圧倒的な強さ。
そんな様子から、罠に嵌められた状態でもまだ勇者が優勢に見えるだろう。
しかしこのとき、もう一つ大きな罠が勇者を捉えていた。
(どうして、こんなときに股間が!?)
勇者の股間がもっこりしている。
触手たちが分泌する潤滑液には興奮成分が含まれており、肌から浸透して人間を興奮状態にさせる。本来、この潤滑液は女騎士やお姫様を触手プレイで性的興奮状態にして陵辱するために使うものだが、今回は勇者討伐に応用されたのだ。
『アソコが勃っては戦はできぬ』
そんな諺どおり、膨らんだ股間のエクスカリバーが勇者の動きを制約していた。勇者の股間のエクスカリバーがパンパンに膨らみ、立ち回りが鈍くなる。この状態で激しく動くと、人間の男性独特の気持ち悪い感触に襲われるのだ。
勇者はさらに潤滑液の興奮成分で頭に血が上り、冷静な判断を失っていた。太刀筋が乱れ、刃が触手に当たらない。当たっても刃筋が狂い、強烈な一撃とはならなかった。
ベチャッ! ベチャッ!
「ぐぁっ!」
触手たちはそんな勇者の隙を見て、鞭のような攻撃を繰り出していく。先端が卑猥な形をした触手が、勇者の体に叩き込まれた。
「くそぉっ! 何なんだ、こいつらは!?」
* * *
「触手、けっこう強いなぁ」
そんな勇者を、僕は森の茂みから双眼鏡で眺めていた。
部下の触手生物たちを操りながら。
「ここまで高度な戦術をできるとは、触手もまだまだ捨てたもんじゃない」
勇者の股間に付いているアレをパンパンにさせ、さらに潤滑液でベチャベチャにする。色々な意味で汚い手段だが、あの勇者にはかなり効いている。このまま触手たちが押して、アレが直立したまま死んだとなれば末代までの恥になるだろう。
しかし、ここは戦場だ。
どんな汚い手段を使われても、それは仕方ない。
僕が所属する魔王軍にとって、勇者は大きな脅威だった。手段は選んでいられない。一刻も早く勇者を排除する必要がある。僕は魔王軍の命運を、あの触手たちに賭けたのだ。
こんな感じで、僕は触手生物の強さを思い知るのだった。
* * *
これから、こうなった経緯――魔術師であり魔王軍幹部の僕が、陵辱用の触手を大量に率いて勇者を倒しに行くことになった経緯を話そうと思う。
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