理沙、その後、そして、
玲奈の化け物じみた行動、セクハラ行為の数々により、メンタルがズタズタになったあゆみ、
そのおかげか、理沙は傷ついたあゆみとの会話を経て、無事、あゆみとの心の距離を縮めることができた、
それが昨日のこと、
理沙は現在、昨日玲奈に頼まれていたあゆみ盗撮用の隠しカメラを回収しに、例の空き教室へ来ていた。
「…えーっと…こことあそこと…」
玲奈からの指示通りの場所にカメラはあり、順調に回収していく、
……ちなみに玲奈は昨日から一週間の停学処分中である。
当然の結果である、
「よーし、これで全部かな?……しっかしまあ、よくもこんなに集めたわね…」
理沙が見下ろす先には8台の小型カメラがあった、
一台あたま、数万から十万ちょいくらいする代物だ、
「用意したのもすごいけど、これ、どうやって仕掛けたのかしら、よくバレなかったわね」
おーい先生ー、仕事しろー、ここに思いっきり校則違反者がいるぞー、
と心の中で叫んでみるが、当人は現在自宅謹慎中でいないし、今の状況で見つかれば、今度は理沙が説教のち、停学処分という、どっかのバカと同じ道をたどることになる。
それは避けなければならない、
慎重に作業を進め、
無事全てのカメラの回収を終え、一息ついた理沙、
さぁて、カメラを回収したはいいけど、中のデータはどうしよう、
あゆみだけじゃなく私の姿も映ってるらしいし、
これを玲奈に渡したって分かったら、せっかく仲良くなれたあゆみにまた嫌われてしまう、
そして、
こんな人の弱みにしかならないようなものが玲奈に渡れば、
まず間違いなく、ロクなことには使われないだろう、
だからと言って、データを消してしまうと、玲奈が泣いてブリッジしかねないしなー、
明らかに人道に反する行為、
消すべき?
しかし、玲奈の頼みだし、あゆみにバレさえしなければいいことだし、
大人しく玲奈に渡すべき?
グルグルと、善と悪ての間で考えが回る理沙、
すると、
ピローン
と、
理沙のスカートのポケットに入っているスマホがメッセージの着信を伝える。
「…?…何かしら?」
理沙はつい最近まで重度の引きこもりだった。
玲奈と知り合ってからは幾分かマシにはなり、クラスにも何人か普通に話ができる人間も出来てきたが、未だに人と接するのは怖い、
そして、せっかく買ったスマホにも、現在、家族と玲奈の番号しか登録がない、
昨日、
玲奈の親友であり、理沙とは少し距離があった、あゆみと仲良くなれたため、あゆみの番号も教えてもらったので、これで家族を除けば二人目だ、
つまり、
今連絡が来るとすれば家族か、玲奈か、あゆみの三択だ、
家族からわざわざ来るとは思えないし、あゆみとはまだそんなに頻繁に連絡をし合うまでは行っていない、
玲奈かなー?
と、だいたいの予想をつけながらスマホの画面を開く、
「…あっあゆみだ…」
そこには昨日登録したあゆみの名前があった。
あゆみからのメッセージが記されている画面には、
『理沙へ、
昨日はありがとう、
これから、改めてよろしくね!』
という、なんとも可愛らしい文章が、
「ふふ……」
あゆみからの何気ないメッセージに嬉しそうに微笑む理沙、
『こちらこそ、よろしく!』
と、返事を打ち、送信する。
これからは、あゆみとも友達だ……
そしてその瞬間、理沙の考えも固まった、
あゆみとももう友達、
友達なら多少のオイタも笑って許してくれるハズ、
今日、帰りにでも玲奈の家へ行ってカメラを渡そう、
データは消さずに、
よしっ!と
悩みの一つも解消され、気持ちが少しラクになった理沙、
だが、
悩みとは、一つ解消されると次から次へと出てくるものである。
「……ハァ〜……」
と手近にあった椅子を引き、座り込んでため息を一つ漏らす理沙、
現在、理沙が次に悩んでいることは、
……私は玲奈のことが、好き、みたいなんだよね……
自分の、玲奈に対する気持ちである。
理沙がその気持ちに気づいたのは、つい最近のことである。
ではいつからそんな気持ちが生まれていたかと聞かれると、つい最近かもしれないし、あるいは出会った瞬間からかも知れない。
ただ、
最近、彼女と目を合わせるとなぜか胸がドキドキするなと感じ、いろいろ調べた結果、
ある雑誌に載っていた『人を好きになった時の感覚』という記事の内容と、一致する症状が自分に起きていると知ったことにより、自分の気持ちに気づいたのだった。
「……私は玲奈のことが好きなんだ……でも玲奈にはもう好きな人が、あゆみがいる、私の入る隙なんて、無いよね?」
はぁ〜、と
また一つため息をつく理沙、
そこである考えに至る
「そうよ!私は玲奈のことを独占したいわけじゃないし、玲奈さえよければ別に友達としてでもいいのよ!玲奈のそばにいれさえすれば私は!」
そう、
私は別に恋人になれなくてもいい、
たとえ友達としてであっても、玲奈のそばにいれさえすればそれで私は幸せなのだから、
「なら」
と
理沙はその時、ある決心をする
「私のこの気持ちは絶対に表に出さない!ずっと……玲奈の友達でいるために!」
自分が玲奈のことを好きなんだということを、玲奈を含め、誰にも決して伝えることなく、一生、玲奈の良き親友として玲奈のそばにい続けようと、
理沙が、そのことを固く心に決めたところで、
「…それは良かったですよ…消す人数を一人減らすことができて……」
誰もいなかったはずの、理沙がいつも一人で会議をしている空き教室の、光が届かず、影になっている場所から、聞き覚えのない、女性の声が聞こえてくる。
空き教室なので、蛍光灯は点けられておらず、灯りは窓から差し込む日の光のみなのだが、
それでも、その影はあまりにも不自然な範囲を覆っている、
いつの間にやら教室の約半分ほどが、暗い影に覆われていた、
「……誰?……」
いきなり物騒なことを言ってきた人物に警戒心をあらわにした理沙が問う、
……消す?それにさっきまでこの教室には誰もいなかったはず……一体何者なの?
理沙の問いに対し、
「私の名前はMIO!真の愛を貫き通す者……そうですねぇ〜、少々安っぽいネーミングですが、ラブマスターとでも言いましょうか」
影に紛れている少女は、”ミオ”と名乗った。
ツカツカと
何者かがこちら側へ歩いてくる音がする
体に力を入れ、やってくる何かに備える理沙、
歩いてくる音はますます近づいてきて、ついに相手が身につけているものと思われる制服が、うっすらと、影から現れた所で、少女は歩を止める。
顔はまだ影に隠れて見えないが、制服は女子用の物なので相手が女の子であることは分かる、
おそらく、今、目の前にいる女の子が影の中からMIOと名乗った声の主なのだろう。
先ほど、消すだのなんだのと、かなり物騒なことを言っていた上、登場時から、尋常ではない雰囲気を出しているため、緊張感を走らせる理沙、
相手が考えていることがわからない以上、下手にこちらから動くのはマズイ、と判断し、相手の出方を待つことにする。
……消されちゃ、たまらないしね……
しばらくの間、互いに動かないまま時は過ぎる、
しかし、
影の中からMIOがさらに近づいてきて、
ついにその全貌を明らかにする。
そして、
「あなたは、玲奈さんの友人が何かでしょうか?最近やけに玲奈さんと一緒にいるみたいですが……」
先に口を開いたのはMIOと名乗った、おそらく理沙と同学年と思われる女の子だった、
「……ええ……そうよ…あたしは橘理沙、玲奈の……友達よ!」
相手を下手に刺激しないよう、慎重に答える理沙、
「そうですか……」
残念そうな、しかし、少し嬉しそうな、
複雑な声音で反応するMIO、
「そう言うあなたは何者かしら?どうやら玲奈のことを知ってるみたいだけど、お知り合い?」
玲奈自身から”ミオ”なる名前の女の子の知り合いがいるなんて、聞いたことが無いため、おそらく一方的に玲奈のことを知っているだけの人物なのだろうと判断する理沙、
「知り合い?まさか!そんなわけないじゃないですか!私は玲奈さんを愛しているのですから、そして彼女の姿をずっと影から見ていたのですから!」
なるほど、つまり、
「ただのストーカーってことね?」
一方的に玲奈のことが好きになって、でもなかなか玲奈と知り合う機会がなくて、それでこじらせた結果、影から玲奈を見続けるという行為に及んだ、というところかしら?
「ほほほ、あなた、随分と失礼なことをおっしゃいますね?私は、ストーカーなんかじゃない!私はただ、玲奈さんを影から見ていられたらそれで良かった……なのに、なのにあなた達が、玲奈さんに近づいたりするから!」
今にも爆発しそうな怒りを隠すでもなく理沙へぶつけるMIO、
「……あの時だって……私が出したラブレターを見て、玲奈さんがなんて言ったから知ってますか⁉︎『まぁいっか』ですよ⁉︎そして何事もなかったかのようにトイレから出てきて、あの女に会いに教室へ向かう彼女の顔、私、一生忘れないですからね?」
今にも掴みかかりそうな勢いで言うMIO、
玲奈、ラブレターなんてもらってたのね……
今度、私も書いてみようかしら?
と、今の状況に全く関係ない事を考える理沙、
「……さっきあなたは玲奈さんの友達と言っていましたね?だったらあなたはこれから一切玲奈さんと関わらないででもらえませんか?」
「……どうして?……友達ならずっと一緒にいてもいいじゃない?」
相手の圧力に押され、思わず声を詰まらせながらも何とか言い返す理沙、
「私はこれから玲奈さんと会って告白するんですよ!だから、邪魔なんですよ!あなたは!」
ものすごい剣幕で言うMIO、
……この子、なんて圧力なの⁉︎……それだけで、どれだけこの子が本気か伝わってくる……
「……本気…なのね?」
「当たり前です!私はずっと玲奈さんと付き合いたかったんですから!」
「あなた、ずっと玲奈のこと見てたのよね?だったら知ってるはずよ?玲奈にはもう好きな人がいるってことを」
「当然‼︎知ってますよ‼︎」
「だったら……」
「だったら何ですか?あなたは相手に好きな人がいたら諦めるのですか?」
「だって……」
「だって⁉︎あなた、好きな人に相手がいたら、だってで諦めるのですか⁉︎あなたの好きはその程度のものだったのですね、私は諦めない!たとえ気持ちを伝えてそれでフラれたとしても、私は絶対に、諦めない!」
たしかに、
本当に欲しいものなら、たとえ先にどんな事が待っていようと絶対に諦めたくない。
でも、
と理沙が言おうと口を開きかけたところで、
「本当に欲しいものなら奪ってでも手に入れたくなる……違いますか?」
MIOのその言葉を受け、
そこでふと思う理沙、
私のこの玲奈に対する気持ちは、相手がいるからって諦められる程度のものだったの?
「いいえ……違うわ、私は、玲奈のことを諦められない!」
キッと
理沙の自分が玲奈に対する気持ちの強さを気づかせてくれた、MIOと名乗った女の子を睨む理沙、
「MIO……さんだっけ?あたしの、玲奈に対する本当の気持ちに気づかせてくれてありがとう、そして…」
今から理沙が言おうとしている言葉をもう知っているかのように、ニヤリと頬を緩ませるMIO
「MIO‼︎あなたにも、玲奈は渡さない!」
「いい目をするようになりました。それでこそ倒すべき恋敵です!いいでしょう!引かないというのなら、ここで私を倒して見せなさい!もしここで私を倒せなかったら、私はこのまま邪魔者を消しにあゆみさんの所へ行きます!そして邪魔者を全て排除した後、玲奈さんに告白して、玲奈さんを手に入れる!」
「そんなことさせない!大切な友達を守るため、そして、愛する玲奈をあなたの魔の手から守るため、いいわ!戦ってあげる!……ただし、後悔しないでね?」
こうして、理沙とMIOとの、自分の気持ちをぶつけ合う闘いが始まった。
〜to be continued〜
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