38 若者言葉・義理チョコ

【若者言葉】


 ヒロシくん、五月先生の書斎の片付けを手伝っています。

「先生、今夜は鍋りますか?」

「うん、いいな。鍋ろう、鍋ろう」

 鍋る=鍋にする。


「五月様、正しい日本語お使いくださいませ。曲りなりにも作家でございましょ」

「は、あ、すまん。しかし、曲がりなりにもって、ひどい……」

「ヒロシ、五月様に悪影響与えないでください」

 ヒロシくん、無視です。


「ヒロシくん、聞いちゃいないね……」

「まったくもう」

「いいじゃん、鍋る」

 あ、聞いてた。


「ラノベなら使えるんだろうが……」

「そうですよ、先生。若者言葉でラノベをこう……チャチャっと、ね」

「ラノベは書けん」

「・・・」


 で、お夕飯は鍋になりました。

「先生、ラノベは書かなくても、流行りの言葉や新語は知っとかないと」

「うむ、それもそうだな」

「五月様、こやつの言うことなんてお聞きにならなくてよいでございますよ」

 まあでも、作家なら言葉には敏感でないとですよ、メイドさん。


「先生、試しに、ラノベっぽいの考えてみてはどうっすか?」

「よし。高校卒業後、三年ぶりに集った男女が七人。若者たちは鍋った……」

「・・・」

 お三方、無言で鍋を突きます。




【義理チョコ】


「ただいま」

 五月先生ご帰宅です。


「お帰りなさいませ。お寒い雨の中ご苦労様でございました」

「うー、靴はビチャビチャ、つま先はカチコチだ」

「新聞紙詰めておいてくださいましね」

 靴の中の水分を新聞紙で吸い取らすのです。


「ん」

 ガザガザ、ガサガサ……。

「あ」

 ガザゴゾ、ガザゴゾ……。


「ほいメイド、お土産だ」

「わぁ〜い、何でございましょ?」

「帰りがけに、編集さんがくれたんだ」

 手のひらサイズの箱です。


「ふふ、中身は何だろなぁ〜」

 ガザガザ、ガサガサ……。

「ぐっ、チョコレート……」


「はは、余った義理チョコだな。食べていいぞ」

「禁チョコしてるんですけど……」

「じゃあ、俺が食う」

「ぐっ、ヒロシにはあげない!」

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