16 干し柿作り・七五三

【干し柿作り】


 むきむき、むきむき……。

 メイドさん、お台所で皮むきに余念がありません。


「メイド、何してる?」

「渋柿がたくさん採れましたので、干し柿を作ろうと思いまして」

 お庭の柿の木は渋柿なのですね。


「はぁ、またか」

 ぶら〜ん、ぶら〜ん……。

「干し椎茸に干し大根、干し芋に干し柿まで……」

 五月先生、肩を落として指でつつきます。


 ぶら〜ん、ぶら〜ん……。

「うちはいったい何屋だ?」

「このまま五月様の小説が売れなければ、そのうち乾物屋になるかもしれませんねぇ」

「ぐ……」

 五月家にはいろんなものがぶら下がっています。


「ご近所にも好評なんですよ」

「それは何よりで」

 干し柿を入れたヨーグルトサラダ、美味しいんですよ。


「わたくしがお料理本でも書きましょうか」

「ぐ……」

 それ、先生の小説より売れるかも。




【七五三】


 駅前の商店街です。

「お砂糖お醤油、みりんに料理酒、ふりかけっと」

「買い忘れはないか?」

「はい、五月様」

 五月先生とメイドさん、今日も揃ってお買い物です。


「あ、髭剃りの刃買っとこ」

「では風邪薬も買っておきましょう」

 おふたり、ドラッグストアーへ向かいます。


「今日はやけに子供が多いな」

 そう言われれば。

 休日でもないのに、なんでしょう。

「五月様、あれでございますよ!」

 メイドさんが指差します。


〈町内会千歳飴サービス〉


「そうか、今日は七五三だったか」

「はい」

「お前なら紛れてもらえるんじゃないか?」

「まさか、いくらなんでも……」


「お嬢ちゃん、千歳飴どうぞ」

 ハッピを着たお兄さんに声をかけられました。

「わたくし成人です!」

「げっ! メイドさん……すみません」

 町会長の息子さんでした。


「ほらな」

「ぶ〜」

「黙ってもらっとけばいいのに」

 こらこら、先生。

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