15 綿入り半纏・木枯らし

【綿入り半纏】


「はい五月様、綿入り半纏です」

「お、やっと出動だな」

 五月先生、さすがにもう廊下に脱ぎ捨てるなんてしないでしょう。


「そのうちおコタも出しましょうね」

「うーん? それはまだいいんじゃないか?」

「そうですか?」

 出しといたほうがいいと思います。


「これからどんどん寒くなりますよ」

「うーん……」

 五月先生、なぜにおコタを拒否る?


「だって、おコタでみかんしたくないですか?」

「だって、書斎に行くのやんなるぞ」

 なるほど、そういうことですか。


「その時はわたくしが追い出します」

「うっかりうたた寝すると風邪引くし……」

 あ、それ経験あります。


「それに、おコタでアイスも美味しいですよ?」

「ぐ……出して」

「はい。近いうちに」

「いや、明日」

 メイドさん、明日アイスも買っといたほうがよいかと……。




【木枯らし】


 木枯らし1号が吹きました。

 こんな日でも、メイドさんはお買い物に出かけています。

「ただいまです。う〜、外は風が強くて寒かったです」

「びゅー……」

「おや、何の音でしょう?」


「ぴゅー……」

 五月先生の書斎から、変な音が聞こえてきます。

「五月様?」

「ひゅー……」


 メイドさん、そぉ〜っと書斎をのぞきます。

「五月様、何をされているのですか?」

「んー、木枯らしの音が決まらないんだ。あ、おかえり」

 変な音、五月先生の声だったようです。


「そうでございましたか。イメージに合う音が思いつくとよいですね」

「ひょー……」

「ひぇー……」

「びゃー……」

 どれも違いますね。


「しぇー……」

「しょぇー……」

 もはや風の音ではなくなっています。


「しぇーん、かむばーっく」

 なんのこっちゃ。

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