11 紅葉①・耳痛い

【紅葉①】


「五月様ぁ、観光地は紅葉で賑わってるのでしょうね」

「そうだな」

 気温もぐっと下がり、秋も深まってまいりました。


「関東だと、日光が有名でございますね」

「そうだな。修学旅行やら友人との旅行やらで、私も何度か行ったことがある」

「そうでございましたか」


「バスで中禅寺湖まで行ったな……」

 日光といえば、いろは坂です。


「わたくしも行ったことございます」

「う……」

 五月先生、突然えずきました。


「ご、五月様、ど、どうされましたか?」

「あの揺れを思い出しただけで、う……」

 五月先生、何を思い出したのでしょう?


「も、もしかして……車酔いですか?」

「あ、あぁ。三半規管が弱いんだ」

 それは難儀なことで……。




【耳痛い】


「五月様ぁ、耳が痛いでございます」

 メイドさん、左耳を両手で押さえています。


「小言は何も言ってないぞ」

「そういう痛いではありません」

 メイドさん、軽くふてくされます。


「耳かきのし過ぎじゃないか?」

「んん〜」

「こないだうち風邪のときお前、ずっと鼻すすってたな」

「そういえば……」

 メイドさん、季節の変わり目でちょっと体調を崩していました。


「中耳炎じゃないか?」

「ひっ!」

「耳鼻科行っとけ」

 そうですよ、メイドさん。

 ひどくならないうちに診察を。


「ついてきて……」

「病院くらい一人で行け」

「耳鼻科の治療はものすごく痛いんです……」

 あぁ、鼻の奥に薬塗る時ですね。

 あれは堪りません。


「ずーっと痛いのと、瞬間だけ痛いのとどっちがいい?」

「瞬間」

「なら行っとけ。一人で」

「・・・」

 メイドさん、行っときましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る