02 衣替え・四字熟語

【衣替え】


 爽やかな風、青く澄んだ高い空、虫の音。

 秋の気配がそこかしこに。

 五月家の庭は、寂しい色合いになってきました。


「五月様、秋ですねぇ」

「そうだな」

「そろそろ衣替えの準備をいたしましょ」

「そうだな」


「ついでにタンスの中の整理、着ない服の処分もいたしましょ」

「ん」

「手始めにこのTシャツを……」

「ダメ!」

 メイドさんが手にしているのは、随分とくたびれたTシャツです。


「だって、もう着ないでしょ!?」

「着ないけど、でもダメ!」

「首もとダルダルでございますよ」

 袖口も裾も、不憫ふびんなほどに伸びきっています。


「それは初給料で買った、思い出のTシャツだから」

 五月先生、それっていったい何年前ですか?

「ゼーッたい着ませんでしょ?」

「ぜーったい着ないけど、捨てちゃダメ!」


「も〜」

 メイドさんは呆れ顔です。

 五月先生、断捨離だんしゃりしましょ。




【四字熟語】


 メイドさん、辞書を片手に奮闘中です。

「わたくし最近、いろいろとお勉強中です」

 それはそれは、良いことです。


 一方の五月先生、スマホでゲーム中です。

「五月様、隔靴掻痒かくかそうようって四字熟語ご存知ですか?」

「もちろん」

「さすが、五月様」


「思うようにならずもどかしいって意味だ」

 スマホの画面は最高得点です。

「五月様すごいです」

 どっちがです?


「だが、私はあまり好きじゃない言葉だな」

「なんでまた?」

「この四文字を見てると、なぜか足が痒くなる」

 ポリポリポリ……。


「えっ?」

「五月様……も、もしかして水虫!?」

「違うわっ!」

「ですよね〜」


「治ったんだ」

「・・・」

 足はこまめに洗いましょう。

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