03 十五夜・人恋しくて

【十五夜】


 秋、空気が澄んてきて、ひときわ綺麗な満月です。

「五月様、十五夜でございます」

「あぁ」

 月では、うさぎがお餅をついています。


「良い月が出ておりますよ」

 メイドさん、お手製のお月見団子と作り物のススキを飾ります。

「以前はススキなんて、野っ原にいくらでもあったがな」

「方々歩いたのですが、空き地的なものはみんな、なくなっておりました」


「さ、五月様、お団子いただきましょ」

「うむ」

 外にはまだ蚊がいるので、窓越しのお月見です。


「で……あんこは?」

「お月見団子は砂糖醤油でいただきます」

「えー、あんこ!」

 毎度、おふたりの食べ物好み合戦です。


「ございません! 我慢なされませ!」

「ぶー」

「まあまあ、一口食べてごらんなさいませ」

「あ……お、美味しい」

「でございましょ!?」

 五月先生、あっさり敗北です。


甘塩あまじょっぱくて、これはあと引くな。もう一個」

 すっかりとりこでございます。

「うまうま」




【人恋しくて】


 高い空、いわし雲。

 きれいな夕焼け、涼しい風。

 色味のない庭の草木。

「五月様、つくづく秋でございますねぇ……」

 メイドさん、黄昏たそがれています。


「そのうち紅葉こうようが始まるな」

「はい……」

 メイドさん、なんだか元気がないです。


「五月様ぁ」

「なんだ?」

「いえ、特には……」

「・・・」

 メイドさん、ちょっと様子がおかしいです。


「ねぇ、五月様ぁ」

「なんだ?」

「いえ、別に……」

「・・・」

 メイドさん、そうとう落ち込んでいるようです。


「ねぇねぇ、五月様ぁ」

「だからなんなんだ!」

 五月先生、とうとう御立腹です。


「いえ、ただ……この頃人恋しくて」

「うーむ、じゃあヒロシくんを呼べ!」

「そ、それだけはご勘弁を……」

 ヒロシ、お呼びじゃないようです。

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