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さて、真人は考える。
こんな嬉しいことはぜひ誰かに共有したいのだがどうしたものか。
妻とは三年前に離婚している。
モノになるかどうかも分からない物書きという職業選択への理解が皆無な妻だった。
もちろん、見た目や肉体的な満足感だけで、生涯を添い遂げる相手を選んでしまった真人自身に大いに問題があることは自覚している。
どうも真人は浮気性というか一人の女性で満足できない気質なのか、素敵な女性と見れば、持ち前の妄想力でその女性とのストーリーを夢想しがちだ。
結婚生活が長く続くはずもない。
両親もすでにいない。
最近のことではなく、真人がずっと小さい頃に、二人とも亡くなっている。
真人自身は元々ド田舎の山村出身だが、両親が亡くなったのを機に、東京にいた伯母に引き取られた。
それから、親代わりでもあり姉のような存在でもある伯母の水谷美奈子(みずたにみなこ)が、真人をずっと養ってきてくれた。
真人が今の喜びをいの一番に伝えたいとすれば、美奈子をおいて他にない、ということになる。
しかしそれには一つ重大な問題がある。
真人は現在の美奈子の居場所を知らないのだ。
美奈子は十数年前、真人が成人した頃、行方不明となった。蒸発だ。
そのときのことはよく覚えている。
真人にとって、混乱でもあり腹立たしくもある苦い記憶。
それは、幼い頃から抱いていた甘酸っぱい幻想の終わりを連れてきて、真人の心をかき乱し放題に荒らして去っていった。
人生には大きな転機が必ず何度かあるものだと、真人は最近やっと腹の底からそれが理解出来てきた。
今考えれば、美奈子の失踪こそは、真人の人生における決定的な分岐点だった。
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