謀略の花 *胡蝶は夢を渡り恋に泣く*

相坂つむぎ

 

プロローグ

胡蝶の見る夢



 忌国いみこくと、恐れを持って呼ばれる国がある。

 その忌国に、彼女は生まれた。


 彼女に残された自由は、人知れず、自らの心に夢を思い描くことのみで。

 それはひとえに、彼女が夢渡ゆめわたりという異能を有するがゆえ。


 だからこそ。

 思い描いた夢の実現を、神の許しなく望んではならないと、彼女の言動には制限が設けられ、私欲による異能の行使も固く禁じられていた。


 かといって、彼女が日常に不自由を感じたり、ましてや不満を口にするなど、いまのいままで一度もなかった。


 私欲に溺れるは、禁忌。


 それ以前に、外の世界を知らない彼女が抱く夢は朧げで。窮屈な制約にはならず、生をけてまもなく神に身を捧げた彼女の、それが真理であったから。


 けれどあるとき、彼女は悟ってしまう。


 神は、全能の存在ではないのだと。

 神も、間違いを犯すのだと。


 彼女が仕える神も、しょせんは徒人ただびとにすぎないという現実を、彼女は望まずして思い知らされたのだ。


 そのすえ、束縛からの解放を願い、彼女は——禁忌を犯した。






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