第3話 回想

 -Mayが向かったのは小学校だった。


 真夜中の校舎は月明かりに照らされ不気味な仄暗さを纏っていた。


 -Mayは窓ガラスをするりと抜けると二年四組の教室へ。


 綺麗に整頓された机と椅子、黒板の左端には明日の日直当番の苗字がチョークで書かれていた。


 教室の後ろの木棚には、誰かの忘れ物と思しき薄汚れた手提げ袋が残っている。


 -Mayはその手提げ袋に何かを感じたようだ。



 __さんは病気で入院する事になり、明日からしばらく学校をお休みします。


 __さんが元気になって戻ってくるまでの間、みんなで協力しましょう。


 __さんへ何か伝えたい事がある人はこの手提げ袋に入れて下さい。



 校名の入った手提げ袋いっぱいにみんなからの気持ちが込められていた。


 ーMayが早く学校に来られますように、そういう想いがたくさん詰まっていた。


 それがーMayにとって嬉しかったのか悲しかったのかは分からない。


 ただパンパンに膨らんだその手提げ袋を見るだけで、生きる事を頑張らなきゃと。


 自分を待っていてくれる人がいると。そう感じたのかもしれない。



 ーMayが患っていた病気は先天性のもの。


 この時に決断しなくては、長く生きられないと縁付けられたもの。


 その身体と心に大きな傷痕を残す大手術は無事成功した。


 ーMayが八歳の頃。


 涙が頬を伝い零れ落ちるも、既に幽体となっているそれは床を濡らさない。


 -Mayは何かを言おうとした。辛うじてそれをのみ込んだ。


 教室の窓から見える月明かりの中にぼんやり見える建物がある。


 -Mayはそこに行くのを躊躇しているように見えたがやがて決意したようだ。


 思い出したくない何かがその建物の中で起きたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る