第8話 単位が欲しいか
力のルールを決めよう、という話になったところで、先生が
「後は出来そう? 先生は他のペアを見に行くね!」
と言い、向こうへ行っちゃった。
よし、ボクたちだけで力のルールを考えなきゃ!
そもそも「力」って何だっけ?
力が強いと、痛い。ボクたちのいる世界で先生がバンバン叩くときは。
ということは、力には強い弱いといった、大きさがある。
大きさがある、っていうと速度に似てる。
速度の大きさは速さ。だけど、速さと速度は違う。
速度には、向きがある。
さっき先生が「下向きの力」って言っていたように、力にも向きがある。
あ、じゃあ速度と同じなんだね。
なら、速度に力をそのまま足してみよう!
『物理法則1:物体に力を加えると、速度は元の速度と力の【和】になる』
「わわ、カッコがついちゃったよ。これ、定まってないって意味だったね」
とサラミちゃんが言った。
確かにカッコがついちゃった。何で足せないんだろう?
「えー? 力も速度も、同じく大きさと向きがあるものなのに?」
とボクが言うと、サラミちゃんは
「ねね、でも大きさの部分がよく分からないよ。速さと、力の大きさ、足せる?」
と答えた。
確かに、向きがないもの同士でも足せるとは限らない。
最初の授業で、課題を出す前に先生が言ってたんだ。
『大きさは数だけど、単位というものがついたりするよ! 足したり引いたり出来るのは、単位のない数同士か、単位が同じ数同士だけ! 気を付けてね!』
例えば時間の単位を[s]と書いて、長さの単位を[m]とかくと、1[s]+1[m]は考えられない。
だってその数の単位が不明だから。1[s]+1[m]は2[s]? 2[m]? それ以外?
ボクたちはまだ、力の単位を決めてすらいなかった。
速さの単位は何だっけ?
一定の速度で動く石の速さは、
(速さ)=(進んだ距離)÷(進むのに掛かった時間)
で計算できる。式の右側の単位は、[m]÷[s]だから[m/s]だね。
右と左はイコールなので、速さの単位も[m/s]ってことになる。
ボクがウンウン唸っていると、サラミちゃんがゆさゆさとボクの腕を揺らして
「ねね、さっき先生は最初に、『下向きの力を加える』じゃなくて『下向きに加速させる』って言ってたよね?」
と問い掛けてきた。
「うん?」
そういえば、先生が最初に「影響」の例を出した時は、まだ力の話じゃなかった。
「でで、力の大きさと加速の大きさを同じ単位にしたら、おもしろそうじゃない?」
速度の変化度合いのことを、確か加速度っていうんだよね。
一定の加速度を持つ石の加速度の大きさは、
(加速度の大きさ)=(速さの変化)÷(変化に掛かった時間)
で計算できる。式の右側の単位は、[m/s]÷[s]だから[m/s^2]だね。
この^2は2乗って読むんだよ。^3だったら3乗。右肩に乗せるって意味だね。
右と左はイコールなので、加速度の大きさの単位も[m/s^2]ってことになる。
「じゃあ力の大きさの単位も[m/s^2]にしよっか。力を加えると、同じだけ加速度が掛かるようなルールにするために」
そこで、ボクはちょっと違和感を覚えた。
これだと、石でも岩でも星でも、同じ力で同じだけ加速しちゃうよね?
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