第9話 動きにくさの単位?

 石をスススと押す力で、同じように岩をズズズと押せちゃって、同じように星をゴゴゴと動かせちゃうのは、何かやだなあ。


「うう、それじゃ困るね……」


 サラミちゃんは本当に困ったという感じで、表情を曇らせてしまった。


 どうやらサラミちゃんにとっても、そういうルールだとあんまり楽しくないみたい。


 別に矛盾はしないと思うけど、大きいものは動きにくいほうがしっくりくるよね。




「じゃあ、こうする?」


 ボクが両手をフッと抱え込むように仰ぐと、新たなルールが2つ現れた。




『物理法則1:力とは、向きを持つもので、大きさの単位が[m^4/s^2]である』


『物理法則2:力を物体に加えると、力をその物体の体積で割った量だけ加速度を与える』




 今度はカッコもビックリマークもついてない!


「ねね、これはどういうルールなの?」


 サラミちゃんが目を輝かせてボクに聞いてきた。


 振り向いたときに髪がふわっと浮いて、ボクは思わずドキッとした。


「これはね、おっきなものほど動きにくいってルールにしたの」


 ボクは自信満々に説明を始めた。


 石と岩と星は大きさが違う。そういうものは動きやすさも違ったほうが面白いよね。


 今回の2つ目のルールは、例えば物に力を加えると、力を体積で割った分だけ加速度が与えられる、というもの。


 式で書くと、


 (物体に掛かる力)÷(物体の体積)=(物体に与えられる加速度)


 だね。1つ目のルールで力の単位を[m^4/s^2]にしたのは、式の右と左で同じ単位にするため。


 これなら、小さい石は大きい岩より動きやすく、星なんて全然動かなくなるね!




「むむ……」


 だけど、サラミちゃんはどうも納得がいかないようだった。


「ねね、これ、すっごく大きいワタアメも、あんまり動かないってこと?」




 サラミちゃんの言う通りだった。


 大きさだけで決めちゃったので、大きいワタアメも動きにくくなっちゃった。


 これでも矛盾はしないけど、何かやだ。


 だってワタアメは大きいほうが嬉しいもの。持ち運びやすいほうがいい。




 大きさでないなら硬さ? 色? 味? 温度?


 色々考えてみたけど、しっくりくるものはなかった。


 だから、直接そういうルールを用意しちゃえばいいんだ。


 力という概念を用意したように、動きにくさを表す概念を、ルールで用意しちゃおう!




『物理法則1:物体には、質量という向きのない正の数がある。その単位を[kg]と書く』


『物理法則2:力とは、向きを持つもので、大きさの単位が[kg・m/s^2]である』


『物理法則3:力を物体に加えると、力をその物体の質量で割った量だけ加速度を与える』




 力に対する動きにくさのことを、ボクたちは「質量」と名付けた。


 物質の動きにくさの量、で略して質量。いい名前が思いつかなかったよ。


 今回の3つ目のルールは、例えば物に力を加えると、力を質量で割った分だけ加速度が与えられる、というもの。


 式で書くと、今度は


 (物体に掛かる力)÷(物体の質量)=(力が物体に与える加速度)


 だね。2つ目のルールは、やっぱり式の右と左で同じ単位にするため。


 割り算より掛け算のほうが分かりやすいかな? 右と左に質量を掛けよう。


 (物体に掛かっている力)=(物体の質量)×(力が物体に与える加速度)


 うん、分かりやすい!




 ボクたちはこの3つのルールをまとめて、「運動方程式」と名付けた。




『運動方程式:

 物体には、質量という向きのない正の数がある。その単位を[kg]と書く。

 力とは、向きを持つもので、大きさの単位が[kg・m/s^2]である。

 力と質量には、

 (物体に掛かっている力)=(物体の質量)×(力が物体に与える加速度)

 という関係式が成り立つ』

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