第6話 仲が悪いルール

『慣性の法則:物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』


『物理法則1:動いている物体は、他の影響がない限り、円の軌道を描く(!)』




 先生はピンッとビックリマークを指で弾いた。ビックリマークがプルプル震えた。


「ねね、むじゅん、って?」


 さっきはビクビクしていたサラミちゃんが、ボクの袖をちょいちょいと引っ張った。


 先生が怒っているわけじゃないと分かり安心したみたい。良かった。


「えっとね、ルール同士がケンカしちゃってる? みたいな?」


 とボクが説明をすると、先生が大きな声で笑った。


「あはは! ハムくんおもしろいね! うん、でもそうだね! この2つのルール、仲が悪いんだ!」




 今度は先生の説明が始まった。


 まずボクたちの作った『慣性の法則』。


 これは、物体の「速度」は勝手に変わらないというルール。


 速度って、……何だっけ?


「ふふ。速さと、向き、のことだよね? 先生」


 そうそう、速さという「大きさ」だけでなく、ちゃんと向きまで考えたものが速度。


 そして新しく作ったルールは、物体が円の動きをする、というもの。


 円の動きだと、仮に「速さ」が一定だとしても、「向き」はぐるぐる変わっちゃう。


 それはそうだよね、向きが同じ動きっていうのはまっすぐな動きだもん。


 つまり、円の動きをしてしまうと「速度」がぐるぐる変わっちゃう。


 だから、2つのルールは仲が悪いんだね。




「そういうこと! ふたりの作った『慣性の法則』は、単独なら何も問題なし! そして新しい法則も、それ単独だったら問題なし! 束縛条件って言って、実際にそういう物理は作れるわ! だけど2つが重なると、ダメ! 矛盾しちゃうの!」


 そう言って、先生は2つ目のルールをフッと吹き飛ばした。


「そっかあ、新しいルールを作るときは、前のルールとケンカしないように作らないといけないんだね……」


 とボクが呟くと、サラミちゃんはポンッと手を打った。


「ねね、この『他の影響がない限り』ってところ、何とかなりそう!」




『慣性の法則:物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』




 すると先生は嬉しそうにサラミちゃんの肩を叩き、


「そう! 他の影響がない限り、ということは、他の影響がある場合についてはどんなルールを加えても矛盾しないの!」


 と言った。サラミちゃんは嬉しそうにエヘヘと笑った。


 そっか、前のルールは「こういう場合はこう」ということしか言ってないんだから、それ以外の場合については何も言ってないんだね。




「ねね」


 ふと、サラミちゃんがボクの袖をチョイチョイと引っ張った。


「えいきょう、ってなあに?」




 ……分かんない。

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