第2章 運動方程式

第5話 初めての矛盾

 ボクは見習い神様のハム。今は理科の時間。2回目。


「さあ! 初回の続きを始めましょう! ペアに分かれてさっそく取り掛かって!」


 そう言って手をパンパンと叩く先生の合図で、みんなはペア同士で集まった。


「ねね、今日も頑張ろうねっ」


 この子は見習い神様のサラミちゃん。ボクと同じペアになった女の子。


 サラミちゃんのとっても嬉しそうな笑顔を見て、ボクも何だか嬉しくなった。


「うん、まずはこの前作ったルールのおさらいするね」


 ボクが岩を持ち上げるように両手を掲げると、目の前に文字と石が浮かび上がった。




『慣性の法則:物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』




  ―=≡● 「ビューン」




 そうそう、このルールは慣性の法則って名付けたんだったね。


 慣性っていうのは、「同じであり続ける」という性質。


 まさにボクたちのルールそのもの。




「ささ、新しいルール、つけようよっ」


 サラミちゃんはあまりに待ち遠しかったのか、机に手をついてぴょんぴょんと跳ねた。


「うん。何か案、ある?」


 ボクがそう尋ねてみると、サラミちゃんは少し考えて、


「ねね、動いているものは、円の動きをする、とか、どう?」


 と言った。そして手で宙を仰ぐと、キラキラと効果を乗せながら文字が浮かび上がった。




『物理法則1:動いている物体は、他の影響がない限り、円の軌道を描く(!)』




 ボクたちは、すぐにそのマークに気付いた。


「あれ? サラミちゃんのルール、ビックリマークがついてるよ」


 ボクがそう言うと、サラミちゃんもおろおろとしながらこっちを見て、


「うう、何かいけないことしちゃったのかな……」


 とボクに訴えかけてきた。


 じっと見つめられると何だか顔がぽかぽか熱くなってしまい、ボクは目をそらした。


 するとそこには、さっきまでビュンビュン動いていた石が、おかしな様子を見せていた。




 ○ 「……!」




「ねえサラミちゃん、石が、白くなってるよ」


 ボクがそう言うと、サラミちゃんもそれを見て驚きの声を上げた。


「ええ? ほんとだ! さっきまで黒丸だったのに、白丸になってるよ!」




 そんなこんなでボクたちが石をつついたりして騒いでいると、先生が覗きに来た。


「どうしたのー? ふたりとも。あ! これはやらかしたわね!」


 やらかした、と聞いてサラミちゃんがビクッとして、少し涙目になってしまった。


 ボクはかわいそうに思って、


「ごめんなさい先生。ボクがちょっと新しいルールを加えたらこうなっちゃいました」


 とサラミちゃんをかばって謝った。


 サラミちゃんはびっくりしてボクを見たけど、先生は気にせず


「あ、謝ることじゃないの! ごめんごめん! 石が白くなったってことは、警告出たんだろうなって思ってさ! どれどれ……あ、やっぱりね!」


 そう言って先生は新しい方のルールを指差した。



『慣性の法則:物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』


『物理法則1:動いている物体は、他の影響がない限り、円の軌道を描く(!)』




「ね、ここにビックリついてるでしょ? これは矛盾なの!」

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