第4話 動いてないと、速度はない?
『物理法則1:止まっている物体は、他の影響がない限り、止まり続ける』
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で動き続ける』
「ささ、早く次のルール作ろうよっ」
そう言いながら、サラミちゃんは石の動きをじっと目で追っている。
だけどボクは、どうしても2つのルールに引っかかりを感じていた。すると先生がボクの顔を指さして、
「あ! ハムくんのその顔は、何か腑に落ちないって顔だな?」
と言った。すると、サラミちゃんがキョトンとした顔でボクの方を向いた。
「う、うん。何かこの2つのルール、似てるなって」
ボクがそう漏らすと、先生は口元に指を当てて、少し考える仕草をした。
「確かに! 止まっている物体は止まり続ける。動いている物体は、同じ速度で動き続ける。何か似てる気がするね?」
それを聞いたサラミちゃんが、おかしそうに笑いながら
「はは、じゃあ見た目もそろえようよっ」
と言うと、1つ目のルールがくるくると回り出し、新しい文字に置き換わった。
『物理法則1:止まっている物体は、他の影響がない限り、止まり続ける』
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で動き続ける』
↓
『物理法則1:止まっている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で止まり続ける』
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で動き続ける』
「ねね、近くなったでしょっ」
確かに見た目はそっくりになった。
ただ、今度は「同じ速度で止まる」というよく分からない言葉が現れた。
「うーん、でもさ、同じ速度で止まるってどういう意味? 止まっていたら速度なんて『ない』んじゃないの?」
●” 「ピタッ」
すると今度は先生が静かに首を振って答えた。
「その『ない』、はあまりいい言葉の使い方じゃないね!」
ボクがびっくりして先生の方を向くと、先生は更に解説をしてくれた。
「速度なんて『ない』って言うと、速度というものが測れないとか、定まらないとか、考えることができないとか、そういうことを表すのかな? それとも、速度が値として0であること、つまり速さが0であることを表すのかな?」
なるほど、ボクが言った『ない』はそのどちらにも取れる。
しかも、言った本人のボクですら、その2つの意味をごっちゃにしてた。
「速度が0であること。そっか、0であることは、考えられないこととは違うんだね。ちゃんと定まっているんだ。だから、止まっている時の速度も、ちゃんと意味を持つんだね」
ボクが納得してそう言うと、先生は大きく頷いた。
「うん! その通り! 『考えられない』という意味の『ない』と、0であるという意味の『ない』を、混ぜて使っちゃいけないよ!」
さて、2つのルールに戻ると、やっぱりまだ違和感がある。
「この『同じ速度で止まる』っていうのと『同じ速度で動く』っていうの、どっちも『同じ速度である』にしていい気がするんだよなあ」
そう言うと、2つのルールが互い違いにくるくると回り出し、更に新たな文字へと置き換わった。
『物理法則1:止まっている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で止まり続ける』
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で動き続ける』
↓
『物理法則1:止まっている物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』
「わわ、ちょっとすっきりしたね」
サラミちゃんが感心しながら、嬉しそうにパチパチと手を叩いてくれた。
ボクは少し嬉しくなって、顔がぽかぽか熱くなるのを感じた。
「ねね、だったらこれ、場合分けいらないんじゃない?」
サラミちゃんがそう言うと、今度は2つのルールが混ざり合い、新たな1つのルールとなった。
ボクたちはこれを、「慣性の法則」と名付けた。
『物理法則1:止まっている物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』
↓
『慣性の法則:物体は、他の影響がない限り、同じ速度であり続ける』
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