第3話 動いたけども
「ねね、もしかして、『速さが同じまま』、とかじゃだめ?」
ボクがウンウン悩んでいると、助け舟を出してくれたのはサラミちゃんだった。
サラミちゃんの答えを聞いて、ボクはハッとした。
ボクが考えていた『そのまま』は、まさしく『速さが同じまま』という意味だった。
「そっか! じゃあ法則を変えるよ!」
先生がそう言うと、2つ目のルールがくるくると回り、新たな文字に置き換わった。
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、【そのまま】動き続ける』
↓
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速さのまま動き続ける』
「ねね、今度はカッコ、なくなったよっ」
サラミちゃんが嬉しそうに僕の腕を揺すった。
だけど、ボクの目は、予想外の動きを見せる石に釘付けだった。
―=≡● 「ビューン」
↓
●≡=― 「ビューン」
↓
―=≡● 「ビューン」
↓
―=≡● 「ビューン」
↓
●≡=― 「ビューン」
「これ、向きがバラバラ……」
ボクががっかりとした声で呟くと、サラミちゃんも
「れれ? そっか、速さが同じだけじゃだめ、か」
と言って照れ笑いを浮かべた。
サラミちゃんの八重歯がチラリと見えて、ボクはちょっぴりドキッとした。
すると、いきなり先生が両手でがっしりボクの肩を掴み、
「……今、何て言った?」
と問い掛けた。
「バラバラ?」
ボクが答えると、先生は長い髪ごと首を振りながら「その前!」と言った。
「これ?」
更にボクが答えると、先生は更にブンブンと首を振りながら「その後!」と言った。
「……向きが?」
「それだよ!」
先生は両手でボクの肩をバンバンと叩いた。ちょっと痛い。
「向き! 速さと向き! どっちも決めなきゃ、動き方は決まらない! だから石がこんな風にめちゃくちゃ動き回ってるんだね! もちろんこれも1つの物理の形、矛盾はないよ!」
なるほど、これまでのルールでは速さについてしか決めなかったから、まだまだ動き方が決まりきってないんだ。
いくら矛盾してないとは言っても、ボクはもっとシンプルなものがいい。
するとサラミちゃんが手を上げながら
「ねね、じゃあさ、向きもそのままにしようよ」
と提案した。先生が
「了解したよ!」
と言うと、2つ目のルールが再びくるくると回り、新たな文字に書き換わった。
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速さのまま動き続ける』
↓
『物理法則2:動いている物体は、他の影響がない限り、同じ速度で動き続ける』
「……速度って、速さとどう違うんだろ?」
ボクがそう呟くと、先生がまた腰に両手をつけて、フフーンともったいぶった。
「速さと向き、両方のことを指して『速度』と呼ぶんだよ! まあ物理の言葉使いね!」
するとサラミちゃんがボクの腕をゆさゆさと揺すり、
「ねね、見て見て。石」
と言った。
―=≡● 「ビューン」
↓
―=≡● 「ビューン」
↓
―=≡● 「ビューン」
それは、ボクがイメージしたシンプルな動きそのものだった。
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