第25話 ようこそ


それなのに一ヶ月があっという間に過ぎてしまった。


挙式当日、外は生憎の雨。午後からは晴れると聞いたけど空模様は当てにならない。

ドレスを着て控室で出番を待つ。私とスタイリストさんが選んだドレスはクラシカルなシンプルなドレスだ。

レースもフリルもなくシルクのようなオフショルダーになっているAラインのドレスで五分丈の袖の部分にリボンがあり同じリボンが右肩と左胸に付けられている。

そして髪の毛も纏め上げて白いリボンを付けている。

「お父さん、お母さん。本当にありがとう」

「汐音は沢山の事を我慢してきたね。幸せになるんだよ」

「うん」

お母さんが式場に向かいお父さんと二人っきり。

そう言えば初めてかも。子ども頃からいつも傍に2人で居てくれた。

声を掛けられ式場にお父さんに手を取られて向かう。流石に式場のドアまで来るとドキドキする。

ドアが開き真紅のバージンロードに一歩を踏み出すと歓声が上がる。

荘厳な世界が目の前に広がる。

青を貴重としたステンドグラスから光が溢れていて。

白のネクタイ姿で白いガウンを羽織り赤いストールをした牧師が居てその前に啓祐さんが立っていた。

お父さんから啓祐さんに私の手が贈られ。白のタキシードも素敵だったけれど今日は黒のタキシードでグレーのベストだ。

私はシンプルなウエディングドレスを身に纏っている。

開会宣言があり目を閉じて開会の祈りに耳を澄ます。

パイプオルガンによる演奏とともに賛美歌の斉唱があり牧師から聖書の中から愛の教えを頂き、祈りを捧げる。

「啓祐さんと汐音さん、お二人は自らすすんでこの結婚を望みますか?」

「「はい、望みます」」

「結婚生活を送るにあたり互いに愛し合い尊敬し合う決意がありますか?」

「「はい、あります」」

「あなた方は、恵まれる子どもを幸せに導くように育てますか?」

「「はい、育てます」」

牧師に促され手を差し出すと啓祐さんがしっかりと握ってくれる。

「それでは、神と私達一同の前で結婚の誓約を交わして下さい」

「森山啓祐、あなたは瑞樹汐音を妻としますか?」

「はい、します」

「瑞樹汐音、あなたは森山啓祐を夫としますか?」

「はい、致します」

「それでは一緒に誓いを」

「「私たちは夫婦として、 順境にあっても、逆境にあっても、 病める時も健やかなる時も、生涯、互いに愛と忠実を尽くすことを誓います」」

「私は、お二人の結婚が成立したことを宣言します。お二人が私たち一同の前でかわされた誓約を神は固めてくださり、祝福で満たしてくださるように」

啓祐さんがベールを上げてくれ。牧師が指輪の祝福を祈り指輪の交換になった。

「「この指輪は私達の愛と忠実の証です」」

お互いに見つめ合い宣言して啓祐さんが私の左薬指に私が啓祐さんの左薬指に2人で選んだ指輪をはめる。

啓祐さんの証人には秋川先生が私の証人にはお父さんが呼び出され結婚証明書の署名が始まり。

「新郎新婦、並びに証人の方々は、結婚証書に結婚が成立したことを署名してください」

牧師さんに言われ啓祐さん、私、証人の秋川先生にお父さんが署名し最後に牧師さんがサインした。

参列してくれた皆と感謝の賛美歌を歌う。祝祷と呼ばれる祝福の祈りがありアーメンコーラスで幕が閉じる。

「皆さん、これをもちまして、啓祐さんと汐音さんの結婚式を終わります。お二人の新しい門出を祝い、喜びの内にお送り致しましょう」

牧師の言葉で振り返り笑顔で胸を張る。

拍手と祝福の声の中を退場しホッとして牧師さんにお礼を述べて握手を交わす。


礼拝堂のステンドグラスの前で両親に秋川先生に瑛梨ちゃん、栞に徳丸君、朋ちゃんに咲ちゃん達と記念撮影をする。

「大月先生!」

「結婚おめでとう」

「有難う御座います。先生がカメラマンだなんて。どうお礼を言って良いか」

「お礼なんていらないよ。森山さんと君には感謝しきれないほど感謝しているんだから」

目の前で大月先生がカメラを構えていて。初めて大月先生がカメラマンをしていたことを知った。

この後で教会から出てのイベントになる。

雨が降っていたらどうしよう、不安になると啓祐さんが手を握ってくれた。


重厚な木のドアが開き薄明かりが指している。

それでもこれでは撮影なんて満足にできない、そう思った時。急に風が吹きベールが空に舞い上がっていく。

空を仰ぐと啓祐さんのデビュー作品の様にベールが空高く舞っている。

「天女の羽衣みたい」

何処からかそんな声が聞こえ。温かい光が差して光のほうを見ると雲の切れ間から光が地上に向かって伸びている。

「天使の梯子だ」

「貴博、天使の梯子って」

「旧約聖書に由来する話しでね。ヤコブが夢の中で雲の切れ間から差す光のような梯子が天から地上に伸びて。天使が上り下りしている光景を見たと書かれていて。雲の切れ間から差す光のことをヤコブの梯子とか天使の梯子と呼ぶんだ」

栞と徳丸君の笑顔がそこにあった。やがて青空が広がり、光が溢れ出す。

「神の祝福ですね」

「有難う御座います」

牧師さんの言葉にお礼を言い階段を啓祐さんと降りる。

花びらが待って。祝福の声が咲き乱れる。

「皆、ありがとう」

その後でブーケトスをしたけれどクラスメイトの朋ちゃんが見事にキャッチして栞が悔しがっていた。


式が終わったのに私は1人でドレスのままで控室に居た。

理由も分からないし着替えることも出来ない。

「汐音、おいで」

「啓祐さん?」

控室のドアが開いて啓祐さんが顔を出し。訳も分からず啓祐さんに手を引かれ転ばないようにもう片方の手でドレスを持ち上げて付いて行く。

教会を出て隣接するレストランに向かっている見たい。

レストランのエントランスに入ると受付があってウエルカムボードが。

ウエルカムボードは木製でモンステラとハイビスカスが白い切り絵で表現されハワイの言葉の下にKeishuke & Shioneと白い文字があり白いプルメリアのレイが掛けられている。

「E komo maiはハワイの言葉でようこそと言う意味だよ」

「どうしてこんな物がここに」

「「さぁ、何故でしょう」」

ドアの方から声がして顔を上げるとそこには紗羽さんと和泉さんが目の覚めるようなブルーと優しいグリーンのハワイアンドレスを着て立っていた。

「紗羽さんと和泉さんがどうして」

「私達だって大事な友だちの汐音ちゃんと森山さんの結婚をお祝いしたいじゃない」

「まだ、泣いちゃダメよ」

「えっ!」

紗羽さんと和泉さんがドアを開けると信じられない光景が。

クリーム色のテーブルクロスの真ん中には背の高いガラスの花瓶がありオレンジや黄色にグリーンの花とモンステラの葉が。

その周りにはオレンジとグリーンのガラス容器に入れられたキャンドルの火が揺れていて。

そんなテーブルにはグラスやシルバーが綺麗に並べられ白磁のお皿にはナプキンの上にオレンジ色の花びらがあしらわれていた。

各テーブルの周りには栞に朋ちゃんやクラスメイト達が。

フォトグラフ学科の皆に咲ちゃんと徳丸君も。秋川先生に瑛梨ちゃんにお父さんお母さんが。

関口先生にF・イーグルスの選手達も。それに出版社の皆が祝福してくれている。

「汐音、泣いちゃ駄目だよ」

「何でそんな意地悪を言うの駄目って言われても涙が出ちゃうんだもん」

私が泣きだしてしまうと啓祐さんが私の頭に腕を回して優しく抱きしめてくれる。

「汐音ちゃん」

「ほら、もう泣かないで」

「紗羽さん、和泉さん。ありがとう」

2人が涙を拭いてくれて席に案内してくれた。

雛壇にある私と啓祐さんのテーブルにも花が飾られキャンドルが綺麗に並べられている。そんな席に付いてやっと落ち着けた。

「それでは啓祐さんと汐音ちゃんの結婚披露宴を始めたいと思います」

「まずは、乾杯の音頭をインフィニート出版社・カリーノ編集部。有佐編集長にお願いしたいと思います」

司会を始めた紗羽さんと和泉さんに言われて有佐編集長がマイクの前に立った。

するとレストランスタッフが啓祐さんにはビールを私にはオレンジジュースをグラスに注いでくれて掌を上にして少し持ち上げ立つように促してくれる。

「え、突然の指名で戸惑っていますが。森山君、汐音。結婚おめでとう。2人にはこれからも社の発展の為に頑張ってもらいたいと思っています。それと写真集の出来を楽しみにしていて下さい。それでは皆様、グラスを手に。乾杯!」

「「「「「「乾杯!」」」」」」

有佐編集長の乾杯の挨拶で何も知らなかった披露宴が始まった。

「それでは汐音ちゃんの紹介を親友である若菜 栞さんにお願いしたいと思います」

「若菜さん、前までお願いします」

「ええ、私がですか?」

「若菜さんじゃなきゃ誰が汐音ちゃんの紹介をするんですか?」

会場から笑いが上がっている。

「えっと、汐音とは幼馴染で幼稚園の頃から一緒でした。皆さんは知っていると思いますが汐音は生まれた時から心臓が弱く内気でネガティブな女の子でした。それが高校1年の時にフォトグラフ学科の講師である森山先生と出会い前向きな女の子に変わっていきました。命懸けで告白し手術を乗り越え森山先生が大怪我をしたりと色々ありましたがお二人が結婚できた事を心から喜んでいます。いつも傍に居た私はそんな汐音から一杯の元気と勇気をもらいました。本当に感謝してます。ありがとう、そしておめでとう」

栞が泣きだし栞の姿が滲む。

「素晴らしいスピーチだったと思います」

「今度は森山さんの紹介を従姉弟である藤倉高校教師の秋川先生にお願いします」

秋川先生が背筋を伸ばしてマイクの前に立ち雛壇の私と啓祐さんに優しい視線を送ってくれる。

「実は啓祐とは従姉弟と言っていますが実の従姉弟ではありません。啓祐の両親と私の両親とは昔からの付き合いがあり啓祐の両親が不慮の事故でなくなり私の両親が引き取りました。汐音と栞のように幼い頃から姉弟の様に育ちって。ああ、面倒くさい。啓祐、いいか散々迷惑を掛けてきてやっと汐音と結婚できたんだ。汐音を泣かせたらただでは済まされないからな。絶対幸せにしろ約束だぞ」

「気合の入ったスピーチでした。秋川先生有難う御座います」

「汐音ちゃん泣いて笑ってと百面相をしているのでカメラマンさんシャッターチャンスですよ」

秋川先生のスピーチもだけど紗羽さんと和泉さんの司会に笑ってしまう。

それに司会もアドリブで挨拶も司会者が勝手に指名する披露宴なんて聞いた事がない。

するとワゴンに乗せられたウェディングケーキが出てきた。2段になった生クリームケーキの上にローズレッドやローズピンクに白いマカロンがタワーの様になっている。

そのタワーみたいなマカロンの中にはハート型のマカロンまである。

「このウェディングケーキは今日のために藤倉高校美術学科絵画専攻の朋美さんが制作して下さいました。皆様、拍手をお願い致します」

「早速、夫婦になって初めての作業であるケーキ入刀を行いたいと思います。新郎新婦は前の方へ」

お菓子作りが好きだと言っていたけれど朋ちゃんにこんな才能があるなんて知らなかった。

ウェディングケーキの前に立つと甘い香りが鼻をくすぐる。

「では、ケーキ入刀を行います」

「カメラを持っている方、写真を拡散したい方はスマホを持って前の方へ」

拡散てもう懲り懲りなのに。フォトグラフ学科の皆がカメラを持って集まりクラスメイトも集まっている。

「では、ケーキ入刀です」

ケーキに入刀したままポーズを取る。しばらくしてレストランスタッフがナイフを受け取ってくれて席に戻ろうと。

「はい、そのままですよ」

「森山さん、2人の愛のように甘~いマカロンを一つ取って汐音ちゃんにあ~んして」

啓祐さんを見ると少し戸惑ってからマカロンを手に取ってしまう。そして私の方に差し出してきて。

「汐音、あ~ん」

「美味しい!」

ケーキ入刀よりもフラッシュの数が多いのはどういう意味だろう。

席に戻り歓談をと司会の紗羽さん言うと雛壇の所に栞と徳丸君が来て写真を一緒に撮る。すると入れ替わりで秋川先生と瑛梨ちゃんがやって来た。

「汐音おねえしゃん、きれい」

「ありがとう、瑛梨ちゃん」

「啓祐パパ、汐音おねえしゃん、泣かしゃないでね」

「そうだね、瑛梨。ありがとう」

4人で写真を撮ると次から次へと皆がやって来てくれて本当に感謝の気持でいっぱいだ。

しばらくして落ち着いてきた時に和泉さんが不思議な事を言い出した。

「ではここでお色直しの為に新婦は一旦席を外させて頂きます」

「ええ、そんなの聞いてないけど」

「大丈夫。任せてね」

紗羽さんに連れられて会場を後にして控室に連れて行かれてしまう。


お色直しなんて聞いていないし、こんな素敵な披露宴があることすら知らなかったのに。

「汐音ちゃん、これを着てみて」

「うわ、すごい綺麗なドレスですね」

「私と和泉でチョイスしたの。サイズはなんて聞かないでね。それとお腹が空いたでしょ。サンドイッチを用意したから先に食べて」

「ありがとう。もうお腹がペコペコだったの」

和泉さんと紗羽さんが用意してくれたドレスは胸元がシャープに見える直線のビスチェタイプの白いAラインのドレスの上に淡いブルーのシフォン生地で左肩だけに大きいリボンが付いる。

腰の所にも緩いリボン状になっていて下の方に海の波をイメージしたようなフリルが4段になっていた。

ドレスに着替え終わった所に啓祐さんが来てくれた。

「啓祐さん、どうかな」

「綺麗だよ、ハワイの天国の海みたいだね」

「森山さんは凄いというか。私と紗羽も同じイメージが浮かんできてこのドレスを選んだんだよ」

「森山さんなら間違いなく汐音ちゃんを幸せにしてくれるよ。和泉そろそろ時間だよ」

紗羽さんが呼びに来て和泉さんにエスコートされて式場に向かう。


「それでは新婦のお色直しが済みましたので登場してもらいましょう」

和泉さんが司会の紗羽さんの声を聞いてドアを開けてくれた。フラッシュが瞬き啓祐さんの腕に手を置いて再入場する。

歓声が上がり恥ずかしい。

「新郎新婦から感謝の気持。参加者の皆様からは祝福の気持ちをキャンドルの火で繋げたいと思います。遠い昔から神聖で尊く心を満たす温かみ。そんな喜びを象徴として灯されてきたキャンドルの火を皆様へ繋ぎます」

何が始まるのか分からないけれどワクワクする。

和泉さんが私と啓祐さんに火が灯ったグラスに入ったハワイのソイキャンドルが手渡されエスコートされるままにテーブルに向かう。

「汐音、おめでとう」

「ありがとう」

祝福の言葉をお父さんにもらいお父さんがが持っているキャンドルに火を灯す。

するとそのお父さんが隣に座っているお母さんにキャンドルの火をリレーするようにお母さんが持つキャンドルに灯していく。

次のテーブルでは啓祐さんが私と同じように祝福の言葉と感謝の言葉を交わしキャンドルの火をリレーしていく。

すると火が灯ったキャンドルを持ってお父さん達が静かに歩き出した。不思議に思いながらも和泉さんにエスコートされ次のテーブルに移動する。

全てのテーブルを回り終える頃には雛壇の横には大きなキャンドルのピラミッドが温かい光を放っていた。

和泉さんが私と啓祐さんのキャンドルを雛壇のテーブルに置き手元にリボンと花があしらわれたサーベルの様なキャンドルを手渡してくれて啓祐さんと一緒に掴む。

「それでは新郎新婦から皆様に繋いだ火を新郎新婦へ。藤倉高校フォトグラフ学科の咲さん、お願いします」

紗羽さんに言われて少し離れたテーブルから揺れるキャンドルが近づいてくる。

「森山先生、汐音。結婚、本当におめでとう。汐音は辛い思いも一杯したんだから必ず幸せになってね。それと森山先生、汐音を泣かせたらスクープしちゃいますからね」

「咲ちゃん、ありがとう」

「咲にスクープされないように頑張るよ」

咲ちゃんから皆の思いが紡がれたキャンドルの火を受け取り。

皆の祝福の火で浮かび上がっているピラミッドキャンドルの一番上にあるウェディングキャンドルに火を灯すと拍手が上がった。

再び歓談が始まった。

「啓祐さんは知ってたんでしょ」

「汐音に隠すのは忍びなかったけどね。皆から絶対に言うなと言われたからね」

「もう隠し事は無しですからね」

「そうだね」

啓祐さんの素っ気ない感じが気になるけど疑うような事は絶対にしない。だって啓祐さんはいつも私の事を考えてくれて。

披露宴だって知っていたら私は遠慮して断ると思っていたに違いないから。

「時間も迫って来ましたのでここで新婦の汐音ちゃんからご両親に一言お願いしたいと思います」

「さぁ、汐音ちゃんと森山さんも」

和泉さんにエスコートされ下座にいるお父さんとお母さんの方に向かう。すると啓祐さんがマイクを持って私の口元に近づけくれた。

こんな風にお父さんとお母さんに面と向かって何を言っていいのか分からない。

「汐音、思っていることをありのままに口に出してご覧」

「うん」

啓祐さんに諭してもらい心がスッと落ち着いた。

「お父さん、お母さん。私を産んで育ててくれてありがとう。生まれつき心臓の弱い私は心配ばかり掛けていたと思います。1年生の時の北アルプスでの合宿の時も我儘を言って困らせたのに主治医に相談しろって言ってくれて嬉しかった。手術の前に先生だった啓祐さんに告白したいと言い出した時も応援してくれたよね。酷い発作を起こして入院して手術が成功した後も沢山沢山心配をかけてしまいました。それなのに啓祐さんが山で大怪我をして病院に運ばれた時も行って来なさいって背中を押してくれて……」

「実はね汐音」

「あなた」

涙が溢れて言葉を詰まらせるとお父さんがなにか言おうとしてお母さんが止めけどお父さんはお母さんの顔をじっと見てから私に微笑んだ。

「汐音、よく聞きなさい。本当は全部知っているんだよ。品川に遊びに行った時に電車が止まってしまい一人きりになり森山先生と池袋に言ったよね。翌日、森山先生が訪ねて来てくれて申し訳ないと頭を下げてくれたんだ。その時に綾さんの事も聞いて僕等から汐音をお願いしますと無理にお願いしたんだ。それからも何かあると森山先生はきちんと報告してくれていたんだよ。合宿の事も、先輩とトラブルが起きた顛末も。汐音が田沢湖まで森山先生に会いに行った後に正式に交際させてくださいと挨拶しに来てくれて、僕も母さんも森山君に汐音の事を全て任せようと思った矢先だった。発作を起こして汐音が病院に運ばれた時に森山君は全て自分の責任だと。汐音との事も水に流してくれと言われて。森山君にも汐音にも随分と辛い思いをさせてしまったね。秋川先生から森山君が意識不明で病院に運ばれたと知らされショックだった。あの時に汐音を行かせたのは罪滅ぼしのつもりだったんだ。もっと早く汐音に綾さんの事も森山君の事も話しておくべきだったって。謝るのは僕等の方かもしれないね」

「謝らないでよ、お父さん。お父さんはいつも私の事を真っ先に考えてくれた。お父さんと同じ様に私の事をいつも考えてくれる啓祐さんだからこそ好きになったの。啓祐さんが怪我をした時に行かせてくれたから啓祐さんと帰ってくることが出来たの。本当に感謝してるの。だから謝るとか罪滅ぼしとか言わないで」

お父さんや啓祐さんにこんなにも守られていたんだと思うと。

それ以上は言葉にならなかった。

司会の紗羽さんもエスコートしてくれた和泉さんも泣いている。

会場からは鼻をすする音が聞こえてきて栞達も泣いてくれていると思うと更に泣いてしまう。

「お義父さん、お義母さん。今まで汐音を育ててくれてありがとう。これからは僕が汐音を守り寄り添って新しい家庭を築いて行きたいと思います。これからも汐音はお義父さんとお義母さんの大事な娘です。汐音に代わり感謝させて頂きます。本当に今まで有難うございました。そしていつまでも元気で僕と汐音を温かい目で見守っていて下さい」

啓祐さんが私の代わりにお父さんとお母さんに感謝の気持を伝えてくれると会場が割れんばかりの拍手が沸き起こった。

そして優しく何度も抱きしめてくれて落ち着きを取り戻すことが出来た。

「それでは新郎新婦による花束贈呈を行いと思います。新郎から新婦のご両親へ、新婦から新郎の従姉に当たります秋川先生へ」

和泉さんから花束を受け取ると先に啓祐さんが私の両親に花束が贈られている。

「これからも宜しくお願いします」

「こちらこそ、汐音を宜しくね。啓祐さん」

そして私は秋川先生と一緒にいる瑛梨ちゃんに。

「瑛梨ちゃん、これからも仲良くしてね」

「うん、汐音おねえしゃん。あいあとう」

花束をもらって瑛梨ちゃんが満面の笑みを浮かべ。周りからも笑いが漏れていた。

「それでは。そろそろお開きの時間になりました」

「ちょっと待った! 何か忘れてないかなぁ」

紗羽さんの閉会の辞で幕が下りようとしているのに栞がその幕を跳ね上げた。

栞がエスコートの和泉さんからマイクを奪い取っている。

「紗羽さん? 何で誓のキスが無いの?」

「あら、これは失礼いたしました。司会である私が忘れちゃあ一番いけないことを忘れていました」

紗羽さんは栞に言われて笑っている。栞に言われて気付いたんじゃないことがよく分かる。

すると今度は栞のマイクを和泉さんが奪いとった。

「それじゃ皆、行くわよ」

「うぉー!」

和泉さんの掛け声に合わせて会場のクラスメイトやフォトグラフ学科の皆が雄叫びを上げて拳を突き上げている。

「キッス」

「キッス、キッス」

「キッス、キッス、キッス、キッス、キッス、キッス、キッス、キッス、キッス!」

和泉さんの『キッス』の合図でキッスコールが会場を包み込み私はただオロオロするしか出来ない。

すると啓祐さんの手が伸びてきて顎を持ち上げられた瞬間に啓祐さんの唇が舞い降りてきた。

大歓声が上がり歓声と拍手が鳴り止まない。

「誓いのキスを閉会の辞に替えさせていただき。新郎新婦とご両親に秋川先生は退場をよろしく」

紗羽さんの挨拶で和泉さんと会場のエントランスに出ても歓声と拍手は鳴り止まなかった。


「疲れたでしょ」

「うん、でも凄く楽しくて嬉しかった」

「良かったね」

「うん、ありがとう」

披露宴の後に栞達が用意してくれた2次会も楽しかった。

朋ちゃんは美大に通っていて美術の先生になる為に頑張っていて。

咲ちゃんは3年の合宿で御宿に行った時に啓祐さんと秋川先生のビーチバレーの写真をフォトコンに応募し賞を勝ち取り日本中を駆けまわっていると聞くことが出来た。

徳丸君と栞は大学を卒業したら結婚するから仲人を頼もうかななんて言っていた。

みんな楽しそうに頑張っている。

私は仕事も啓祐さんとの生活も楽しんで家庭を一緒に作っていきたい。

そして私に関わるすべての人達が幸せに成りますように。皆が笑顔で楽しく健やかに過ごせましように。

そう願いながら啓祐さんの傍で眠りにつく。


一年前に発売された写真集『汐彩』は大反響を呼んだ。

中には心無いコメントもあったけれどほんの一部で増版しても間に合わないほどで。

出版社の上層部の評価も高くカリーノ編集部も大きなフロアーに移りスタッフも増え忙しい毎日を楽しく送っている。

啓祐さんも『汐彩』のメインフォトグラファーとして高い評価を受けて日本中だけではなく海外を飛び回っている。

少し心配な時もあるけれど変わらず啓祐さんは優しい。

写真集のその後が知りたいという多くの声を受け有佐編集長に後押しされ理沙副編集長に愛理さんに手伝ってもらい。

『天使の心 天女のハート』と言うブログを立ち上げ毎日その日にあった事を書き込んでいる。


今日は皆様に大事なお知らせがあります。

天使と天女から新しい生命を授かる事が出来ました。

これからも温かい目で見守り応援の方よろしくお願いいたします。

                      Enter





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Cielo 天使の心と天女のハート 仲村 歩 @ayumu-nakamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ