第22話 アロハ

私がインフィニート出版に入社して2年目がスタートしている。

相変わらず啓祐さんは忙しく殆ど家にいない。そんな忙しい啓祐さんの都合で結婚式は先延ばしになっていた。

同期で入社した人は大卒ばかりで実力主義だと編集長の有佐さんは言ってくれるけれど年上の人ばかりで気が引けてしまう。

それでも副編集長の河野さんや水沢さんとは気兼ねなく何でも話せるようになった。

でも、問題は同期でカリーノ編集部に配属された大卒の澤辺さんだ。

澤辺さんは大学に在籍している時からアルバイトをしていて社員に登用されたと聞いている。

「瑞樹さんて読者モデルの経験があるんですね。私も大学のミスコンでいい線行ってたんですよ。それにフォトコンでも褒められて」

「凄いですね」

何かと私に張り合って来て相手にするのが疲れてしてしまう。事の発端は雑誌の取材に行った事だった。

新しい雑貨屋の取材で澤辺さんも一緒で配属して直ぐにライバル心を剥き出しにしていた澤辺さんも私が撮った後に写真を撮っていた。

「編集長、何で私の写真がボツ何ですか?」

「この写真は汐音が構成を考えて撮った写真とほぼ変わらないからよ」

「それじゃもう一度だけチャンスを下さい」

渋々編集長が撮影を許可したのに澤辺さんの撮ってきた写真は在り来りの写真で。

「やっぱり道具が違うのよね。プロが使っている道具を借りられるなんて恵まれてるもんね」

「澤辺はそんなことを言うより腕を磨け」

「はーい」

そんな事があって以来何かと私に対抗して来ることが増えた。


そして私は今ハワイにいる。インフィニート出版の研修旅行と言う名の社員旅行だ。

社員旅行と言っても全員が参加できるわけではなく現にファッション雑誌を取り扱う部署は参加していない。

参加はしていないけれどこの時期は夏に向けての水着などの撮影と取材のために仕事と称してハワイには来ている。

そんな中カリーノ編集部は知らない人がいないワイキキビーチでのんびりしていた。

「で、のんびりは良いけれど何で汐音は詰まらなさそうなのかな」

「理沙さん。楽しんでますよ」

「汐音は森山君が忙しすぎて構ってくれないから不服なのよね」

「編集長まで変なことを言わないで下さい」

編集長が言うように構ってくれないからではなく会えないのはやはり寂しい。それでも啓祐さんは頑張っているんだからエールを送り続けている。

「編集長、買い物行きましょうよ」

「本当に澤辺はブランド物に目がないんだな。少しは自分を磨けよ」

「磨いてますよ。エステにネイルでしょ」

理沙副編集長や愛理さんが呆れている。

私自身もブランド物が苦手でカメラや撮影機材以外でブランド物と呼ばれるものを殆ど持っていない。

ブランド物ならハワイのメインストリート・カラカウア・アベニューにあるラグジュアリー・ロウだろう。

レスポートサック、カルティエ、ディオール、ルイヴィトン、フェンディ、プラダ、シャネル、コーチ、ティファニーなどのお店があり日本語ができるスタッフが必ずいる。

どの店にも澤辺さんみたいな女の子が沢山いるはずだ。


ビーチから移動していると撮影に来ている出版社の人がいた。

「お疲れ様です」

「おお、楽しんでるね。汐音ちゃん」

「はい。お仕事頑張ってください」

「おお、終わらせて俺達も楽しむぞ!」

ファッション雑誌の編集部の人が拳を突き上げるとスタッフが笑顔で拳を突き上げている。

色々な意味で注目を浴びて入社したので出版社で私の事を知らない人は殆どいない。お陰で仕事がスムーズに進むことの方が多いので助かっていた。

軽く会釈をして通りすぎようとしたのに……

「し、汐音ちゃん?」

「ええ、どうして」

「あんまりにも綺麗になっていたから分からなかったよ。ひさしぶり。元気してる?」

「はい、お陰様で。紗羽さんは撮影ですか?」

いきなり声を掛けてきたのは読者モデルの紗羽さんだった。

一度しか会ったことが無かったのに覚えていてくれたなんて。

「当然でしょ、一緒に撮影した仲じゃない。それに和泉もいるんだよ。和泉!」

「うわぁ、汐音ちゃんなの?」

「綺麗になったでしょ」

「負けちゃいそう。頑張らなくちゃ」

紗羽さんと和泉さんは読者モデルからモデルとしてデビューしたのは知っていた。今や引っ張りだこの売れっ子だ。

そんな和泉さんに負けちゃいそうだなんて、それに会ってから2年位しか経ってないはずで。

「有佐、丁度良い。話がある」

「仕事は嫌よ。楽しんでるのに」

「汐音ちゃんを借りるぞ。モデルが1人体調を崩して困ってたんだ」

有佐編集長が同期でファッション雑誌担当の楠木編集長に呼ばれ話が変な方に向かっている。

そんなやりとりを聞いた紗羽さんと和泉さんは……

「な、何をするんですか? 紗羽さんに和泉さんは」

「決まってるでしょ。メイクに髪を綺麗に整えて」

「お・着・替・え」

「のんびりしに来たのに!」

紗羽さんと和泉さんに両側から腕をホールドされメイクさんとスタイリストさんの前に連れて行かれてしまい。

大月先生に誘われ初めて撮影現場に行った時のようにメイクをされ髪の毛も綺麗にセットされてしまう。

普段はお化粧が苦手で軽くしかしないのにって。

「汐音ちゃんはナチュラルメイクがよく似合うからね」

「ん、流石。すっかりモデルの顔じゃん」

「もう、誂わないで下さい。でもちょっとだけ楽しいかも知れません」


ワイキキビーチをバックに椰子の木の下で。伝説のハワイアンサーファー・デューク・カハナモク像と一緒に。

ポリスステーションの前に停まっているパトカーとフレンドリーなポリスマンと。

そしてビーチの反対側の歩道で……

私の視線に両手の親指と人差指で構図を決めるポーズをしている人が飛び込んできた。

真っ白なシャツが眩しくラフなジーンズを履いて真っ黒なバッグが足元に。撮影中にも関わらず気がついた時には駆け出していた。

「ただいま、かな」

「うん」

「ごめんね、寂しかった?」

「うん」

「泣いちゃ駄目だよ、撮影中でしょ」

「うん」

耳元に優しい啓祐さんの声が届く。啓祐さんの首から腕を解くとデコちゅーをしてくれる。

「も、森山啓祐だ」

「えっ、もしかして汐音ちゃんの?」

「うん、一番大切な人です」

「汐音がお世話になっています。これからも宜しく」

私が突然駆け出して驚いた紗羽さんと和泉さんが啓祐さんの顔を見て驚いている。

そしてどことなく顔が赤いような気が。

「編集長、瑞樹さんのプロカメラマンの彼って」

「今や飛ぶ鳥を落とす勢いのフォトグラファー、森山啓祐よ」

「知らなかった」

「汐音は騒がれるのが嫌いだから知っていても誰も口にしないからね」

澤辺さんが放心状態になっているのは何故だろう。

一先ずここでの撮影は終わりらしく開放された。


紗羽さんと和泉さん達と別れて澤辺さんリクエストのラグジュアリー・ロウに向かう。

もちろん仕事が終わった啓祐さんも一緒に。

「でも森山君は何でハワイに?」

「撮影が終わって成田から汐音に電話したら繋がらないし。仕方なく編集部に電話したら出版社の人に研修旅行でハワイだって言われて」

「もしかして成田からそのまま飛んできたの?」

「有佐さん、皆まで言わせないでくださいね」

編集長の有佐さんが妙に暑がっているけど心地良い風が通り過ぎて行く。

しばらくカラカウア・アベニューを歩いていると右手にワイキキの貴婦人の名にふさわしい真っ白なモアナ・サーフライダー・ウェスティン・リゾート&スパが見えてきた。

ホテルの前に白いリムジンが止まりタキシードを着た新郎にウエディングドレスを纏った新婦が降りてきて思わず見惚れてしまう。

「汐音もやっぱり憧れるよね」

「うん、でも今は良いの」

啓祐さんが声を掛けてくれるけれど気の無い返事しかできない。

一応、入籍だけしたけれど仕事の事もあってと言うのは建前で挙式を行っていないので旧姓を名乗っている。

通り沿いには沢山のおみやげ屋さんやショップがあるのに色あせて見えるのは何故だろう。

すると有佐編集長の携帯がなって眉間に皺を寄せている。

「あのね、私達は仕事じゃなくて研修旅行に来ているの。良いアイデアかもしれないけれど。分かったわ、聞くだけよ」

「あの編集長」

心配そうに副編集長の理沙さんが声を掛けた。

「汐音、ちょっと来なさい」

「は、はい」

「もう1回だけ撮影に参加して欲しいと言ってきた馬鹿がいるのどうする?」

どうすると言われても困ってしまう。私はモデルが本業じゃないし編集長が電話で言っていた通り研修旅行に来ているのだから。

悩んでいる私に編集長が耳打ちした。

その編集長の顔にはなぜか笑みが浮かんで。

「やってみたいです。もう、編集長はずるいですよ。あんな幸せそうな場面見たばかりなのに」

「よし、決まりだ。森山君も付き合って」

「まぁ、構わないですけど」

編集長が腕を上げて指を鳴らすと小型のバスが私達の横で止まる。どうやら後ろの方で私達の様子を伺っていたのだろう。

何故か理沙さんと愛理さんが嬉しそうに乗り込んでいく。

その後に続いて私が乗り込むと啓祐さんが私の隣りに座った。

「あの編集長、買い物は?」

「ん、そうね。基本この研修旅行は自由行動なのだから澤辺が買い物に行きたいなら別行動で構わないわよ」

「そうですか。それじゃ私はここで。ショッピングを楽しんできます」

澤辺さんをカラカウア・アベニューに一人残しバスが走りだした。


30分ほどで小型バスが止まった場所は高級住宅街の一角で海では無かった。

どの高級住宅も生け垣や石積みの塀に白いコンクリートの塀に囲まれ。中には枕木を組んだような囲いや潮風と太陽の光で趣きのある板塀もある。

そしてどの塀からもハイビスカスやブーゲンビリア・オレアンダーなどの南国らしい植木が溢れんばかりに生い茂り咲き乱れていた。

すると塀の影から今度は別の雑誌の前田編集長が現れた。

「打ち合わせと行きたいが時間がないので汐音ちゃん着替えてくれる」

「分かりました」

スタイリストさんに手招きされ一緒に走りだす。どれだけ時間が無いのだろう。

場所を借りてあった一件の高級住宅の中で準備を済ませて待機する。初めての衣装なので心臓の高鳴りが治まらない。

「啓祐さんに断りもなく良いのかな、こんな格好して」

「大丈夫よ、編集長が何とかしてくれるから」

理沙さんにそんな事を言われても落ち着くことが出来ない。

「汐音ちゃん、お願いします」

「はーい」

歩き出すと理沙さんと愛理さんが裾を持ち上げてくれた。


天国の海と名付けられたビーチに出るとクリスタルクリアの海と白沙のロングビーチが眩しい。

そんなビーチに白いタキシードを着た男の人が立っていた。あの人が私と一緒に撮影する人なのだろう。

近くまで歩み寄って心臓が爆発しそうになった。

「け、啓祐さん?」

「ん、有佐さんに汐音の相手が他のモデルで良いのかって意地悪を言われてね。綺麗だよ、汐音のウエディングドレス姿」

「あいがとう」

「撮影だよ、泣かないの」

皆に冷やかされて撮影が始まった。撮影と言っても簡単な指示しかなく。

ただ啓祐さんと手を繋いで砂浜を歩いたり破壊級のお姫様抱っこをされたりするだけで。違うドレスに着替えても似たようなものだった。

それでも啓祐さんが側にいるだけで今までのどの撮影より安心できるし楽しい。

笑顔で撮影を終え一つだけ気付いたことがある。

でも、今は内緒。

「いや、カリーノ編集部のお陰で最高の絵が取れたよ」

「貸しですからね」

「有佐にそんな事を言われると後々が怖いな。無理を言ってごめんね、汐音ちゃん」

そんな風に言われると照れくさくて困ってしまう。

「楽しい撮影でした。こちらこそ有難うございました」

「それじゃ、今度は社でね」

「はい」

やっと今日2本目になってしまった撮影を終え小型バスが停まっている方に向かう。


細い路地から出ると小型バスの方に人集りができている。何かあったのだろうか?

この辺には駐車場もなく高級住宅街なのでポリスカーが巡回しているとバスの運転手が言っていたのを思い出した。

「えへへ、汐音ちゃん。待ってたよん」

「ええ、この辺で撮影を続けていたんですか?」

「そうなんだ。ちょっと付き合ってよ」

再び紗羽さんに見つかってしまった。そんな紗羽さんはビキニ姿で嫌な予感しかしない。

「あの、水着で撮影なんて無理です。編集長、助けてください」

「汐音、乗りかかった船だ。行っておいで」

「嫌ですよ。啓祐さん」

「ごめん、汐音。僕は部外者だから」

酷いよ編集長のみならず啓祐さんまで。それでもここまで来たら着替えるしか無くカラフルなビキニに着替えて紗羽さん達が待つ撮影現場にバスタオルに包まるようにして向かう。

「それじゃ、撮影再開します」

スタッフの声でバスタオルを取ると紗羽さんと和泉さんが険しい顔付きになって私の所に駆け寄ってきた。

すると何事かと周りのスタッフにも動揺が広がり。撮影を見ていた有佐編集長や理沙さんに愛理さんまで不安そうにこちらを見ている。

「汐音ちゃん、その胸の傷って……」

「私、心疾患を持ったまま生まれて来たんです。それで高校2年の時に手術して」

「ごめんね。私達、何も知らなくて。そんな事誰にも知られたくないよね」

バスタオルで私の身体を隠すようにしている紗羽さんと和泉さんが今にも泣き出しそうな顔をしている。

すると啓祐さんが声を掛けてくれた。

「汐音、どうする。傷は後で映像処理すれば消すことも出来るけど」

「私、もし許されるならこのままで撮影を続けたい。そして映像処理なんかで傷を隠すような事はしたくない。だって同じ傷を持って悩んでいる女の子はたくさんいると思う。だけど恥ずかしくないんだって。私は頑張ったんだって胸を張ってもらいたい。だから水着姿の私を見て勇気を出して欲しいから」

「そんな前向きな汐音が僕は大好きだよ」

優しく啓祐さんが抱きしめてくれた。

私が前向きになれたのは啓祐さんが傍に居てくれたから、啓祐さんが居てくれさえすれば怖いものなんかない。

「紗羽さん、和泉さん。ありがとう」

「「汐音ちゃん!」」

「もう、二人のほうがお姉ちゃん何だから」

2人に声をかけると私に抱きついてきて紗羽さんと和泉さんが私のために泣いてくれている。それがただ嬉しい。

「よし、和泉行くよ。汐音ちゃんなんか負けてられない」

「そうだね。私達は読者モデルじゃなくてプロなんだから」

涙を拭った2人の瞳には光が宿っていた。

楽しい撮影が始まる。住宅街の塀をバックに。細い路地の先に見える海をバックに。

そして天国の海で思い思いのポーズを撮ってカメラに収まる。もう3人の間を遮るものは何もない。

日が傾いてきて撮影は終了した。

「汐音ちゃん、本当にありがとう。何だか吹っ切れたきがする」

「そうだね。本当の所、このままで良いのかって紗羽と二人で悩んでいたんだよね」

「でも、私も和泉も。見る人を感動させる様になってモデルだけじゃなくて色んな活動をしたいと思う」

「私こそ有難うございました。活躍、祈ってます」

笑顔で紗羽さんと和泉さんや撮影クルーと別れる事ができた。

大変だったけど凄く充実した一日だったと思う。本当に楽しかった。

「お疲れさん」

「うん、啓祐さんもね。凄く素敵だったよ、純白のタキシード」

「あのね、汐音。白は人間の目に見える光のすべてを反射する物体から感じる色という概念なんだけど、実際にそのような物体は存在しないんだ。だから、論理的に純白の物は存在し得ないんだよ」

「何でそんな意地悪なことを言うの。意地悪な啓祐さんも大好きだけど」

啓祐さんが照れている。本当に啓祐さんは女の子に突っ込まれると弱いんだから。

私はもっと弱いけどこのくらいの反撃は良いよね。

「編集長、帰りましょ」

声を掛けても編集長は上の空と言うか考え事をしていて返事がない。

「汐音、さっきの気持ちは変わらないの?」

「えっと、私と同じような女の子に勇気を持ってもらいたいと言うことですか」

「そう、凄く素敵だけど凄く責任は重いよ」

「軽い気持ちであんな事は言いません。動かないと変わらないは編集長の口癖ですよ」

私が胸の傷を隠さないで撮影した雑誌が出れば賛否両論の反響があるだろう。

だけど皆に分かってもらうにはこの方法しかないと思ったから私は敢えて撮影に挑んだのだから。

「よし、決めた。カリーノ編集部から汐音の写真集を出す。旅行返上で明日から撮影に入る」

「私は良いですけど。皆は」

振り返ると理沙さんと愛理さんが瞳を輝かせ動き出そうとしている。

「カメラマンは当然森山さんですよね」

「それじゃ私は明日から空いているメイクとスタイリストに当ってみます」

副編集長の理沙さんが啓祐さんを見ると聞かれる間もなく啓祐さんは笑顔でOKサインを出している。

愛理さんがスマホで連絡を取っているのは他の編集部だろう。話がすごい速さで動いているけれど良いのだろうか。

確かに有佐編集長の手腕は凄い。だけど企画は会議でプレゼンして話を詰めて決定されるものだ。

特に写真集は売れなければ大きな損失になり編集部自体の存続さえ危うくする。

ましてや私なんかの写真集なんて本来なら企画にすらならないはずだ。

「編集長、本当に良いんですか勝手に初めて」

「責任は私が取ると大見えを切っても良いんだが企画会議をすっ飛ばしての撮影だからどうなるか分からん。やれるだけやってみる。これでどうだ」

「分かりました」

私はもう何も言わない。カメラの向こうにいる私と同じ様な女の子にメッセージが届けばそれでいい。

ワイキキビーチウォーク沿いの宿泊先のホテルに戻り怒涛の一日が終わった。


因みに研修旅行の編集部や社員はここのホテルだけど撮影がある編集部は各々ホテルを取っていた。

「啓祐さんの宿泊先は何処なの?」

「それが成田から直で来たからね。まだ決めていないんだ」

ハワイは人気がありこの近辺のホテルはどこも満室だろう。

それにこの時間から探すのは大変だ。仕事を終えて私に会いに来てくれたのは嬉しいけれど私は出版社の研修旅行中なので一緒の部屋と言う訳にも行かない。

「あら、森山君はホテルも決めないで汐音に会いに来たのね。理沙、私の荷物を理沙の部屋にお願い」

「はい、分かりました」

理沙さんが直ぐにフロントに話をつけるとホテルのスタッフが動き出した。

「はい、これが部屋のキーよ。久しぶりに2人でゆっくりしなさい」

「本当に良いんですか、編集長」

「今日の汐音は大活躍だったじゃない。そのご褒美よ。森山君も羽根を伸ばしてね」

「それじゃお言葉に甘えさせてもらいます」

啓祐さんとハワイで2人きりなんてハネムーンみたい。

夕食はホテルではなく啓祐さんおすすめの近くのお店でお腹いっぱい食べさせてもらい部屋でゆっくりすることにした。

お風呂に入り一日の疲れを取り大きなベッドでゴロゴロする。

「あのね、啓祐さん。結婚式ってただの通過点だって気付いたの。節目と言われればそうかもしれないけれど。私は啓祐さんと暖かい家庭を作っていきたい」

「そうだね。でもケジメは付けないとね。帰ったら汐音の両親ときちんと話をしょう」

「うん、ありがとう」

こうして大好きな人と居られる幸せ。あの時の夢のようにこの先何が起こるか分からない。

でも、大好きな啓祐さんと一緒ならきっと乗り越えることが出来る。その先には必ず楽しい事が待っている筈だから。

今は今を大切に楽しみたい。

温かくて心地良い匂いに包まれて私は夢の世界へ。

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