第21話 卒業。そして
冬休みが終わればあっという間に卒業式になる。
最近、啓祐さんは殆ど家にいない。新しい写真集の制作だからと言っていた。
写真集ってどんな風に作るのかと思っていたら普通の本と変わらない工程だと教えてくれて調べてみた。
出版社の編集者が企画を立てて作者に依頼
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原稿ができたら字詰・表記。写真やイラストの発注と本の装丁を決める
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印刷所に入稿して
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初稿の試し刷りを確認 試し刷りをゲラって呼ぶ
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ゲラをみて校正を行い
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編集者・著者・校正者が赤入れしたものを編集者が確認して一纏めにして印刷所に再入稿
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初稿ゲラに赤字が入れられた再校ゲラを印刷所から受け取る
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再校ゲラと初稿ゲラを照らしあわせて全て反映しているかチェックする
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印刷が始まり本になる。
企画から刊行まで半年から1年と言うのが半数を占め、2~6ヶ月・1年~3年がそれぞれ25%位で中には3年以上も掛る本もあるらしい。
写真集は文章と違うからと思っていたのに秋川先生に写真の選定作業のほうが大変だと言われてしまった。
クリスマスプレゼントも秋川先生を介しての交換だったし。
お正月も元旦は家族と過ごして2日は栞と秋川先生に瑛梨ちゃんと啓祐さんの家に集まり楽しく騒いで3日は余程疲れていたのだろう啓祐さんはずっと寝ていた。
それでも側に居られるだけで幸せなんだけど体を壊さないか心配で。
3学期が始まりセンター試験が目前に迫り栞もラストスパートを掛けていて話す機会が減ってしまった。
それでも目標に向かって頑張っている栞には陰ながらエールを送っている。
私は就職の内定を既にもらっていて時々取材の依頼が来るんだけど森山先生が多忙な為に断ることしか出来ないのが心苦しい。
クラスメイトもピリピリしていて大人しく最後の学校生活を過ごす。
センター試験が終わると国公立の願書提出がはじまり私立大学の一般入試がピークを迎え。
ピークと言っても私立大学の入試もセンター試験方式をとる大学が多く合格発表は3月の頭になっている。
2月にの終わりに国公立の前期日程、3月に中期・後期日程が始まり。最近の後期日程は廃止縮小される傾向に伴い後期日程の出願率も下がっている。
「栞、おめでとう。桜が見事に咲いたね」
「うん、ありがとう」
栞にとって難関を潜り抜け徳丸君と同じ大学に無事合格した。それに引き換え私はどうなんだろう。
卒業式が目前に迫っているのに何から卒業するのだろう。
「そうだ、汐音。この間モーリが来ていたっておばさんが言ってたけど、何だったの」
「よく分からないんだよね。買い物に行っている間だったし。家に帰ったら今帰ったところだって。本人に聞こうとしても忙しそうだし」
啓祐さんから今日は家にいるとメールを受けて美味しい物でも作ろうと思い買い物に出掛けて啓祐さんの家に着いたら『この穴埋めは必ずするから』と定型文を残して飛び出して行っちゃったし。
今日は卒業式なのにそれっきり会っていない。
「はぁ~」
「こらこら、何処のどいつだ。卒業式当日に溜息ついてるのは」
「はーい。瑞樹汐音でーす」
「良い度胸だ。今日は家に帰れないつもりでいろ。みっちり将来に付いて話をしてやる」
何で秋川先生は卒業式まで生徒を弄りたがるのだろう。そんな事を考えていると入場する時間になってしまった。
式次第は型にはまったお決まりの物で何処の高校でも似たり寄ったりなのだろう。
淡々と式が進んでいく。
「もう、汐音は無関心というか無感動というか」
「慣れちゃったんだから仕方がないでしょ」
心疾患のため身体が弱く学校の式典に参加しても椅子に座らされ、ただ式が終わるのを待つだけで。
小中校とずっとそうだったので式と聞くと無意識に何も考えずに時が過ぎるのを待つ様になってしまった。
習慣の様なもので手術をして元気になってもこれだけは変わらないようだ。
それでも式が終わり教室に戻ると普通に友達と『また会おうね』なんて笑いあい中には泣き出す子もいた。
「よし、揃ってるな。お前らの面倒を見るのも今日が最後だ。だからといって羽目を外すなよ。俺からの言葉はこれで最後だ。散りやがれ!」
秋川先生の散りやがれの言葉とともに歓声が上がり、挨拶もそこそこに秋川先生は颯爽と教室を後にしてしまった。
しばらくは教室に残っていたが栞達と帰ることにする。
昇降口を出て校門の方を見ると何故か大型の観光バスが止まっていた。
そしてバスの乗り口に秋川先生が立っている。その姿はまるでマネキンの様だ。
背筋をピンと伸ばし足は肩幅より少し開いていて左足が右足より外側に出ている。
これで手に動きがあるポーズをつければ生きているマネキンの出来上がりだ。
よく見ると手にスケッチブックの様な物を持っていて何か字が書かれていた。
『森山啓祐 写真集出版記念ギャラリー 行き』
どれだけ手の込んだイタズラ好きなんだろ。啓祐さんの名前を出されたら乗らない訳にはいかない。
私に続いて栞と徳丸君も乗り込んできて直ぐにバスは一杯になった。
フォトグラフ学科の生徒だけでなくクラスメイトの朋ちゃんも乗っている。バスが走り出し戸塚インターから横浜新道に乗り東京に向かっているようだ。
やがて首都高に乗って池袋方面に向かっているのが分かる。
「ユッコ先生。モーリはどんな写真集を出したんですか?」
「写真集の題名は『こい』だ」
「こい?」
『こい』と言われても池で泳ぐ錦鯉しか浮かんでこない。恐らくバスに乗っている全員の頭の中には赤・白・黒の錦鯉が泳いでいるに違いない。
「鯉こく? 鯉の洗い? 料理本?」
1人だけ違うことを考えている人がいた。出来れば親友でないことを願う。
バスがサンシャイン60の下で止まりドアが開くと秋川先生が先に降り仕方なくゾロゾロと降りていく。
「場所は噴水広場だ。分からん奴は人に聞くか案内板を見て調べろ」
「ええ!」
案内人として秋川先生が引率してきたのかと思えば違うようだ。ブーイングが上がるけど仕方がないのでサンシャインシティに入る。
制服を着て歩く姿はまるで修学旅行にきたみたいだけど制服を着ているだけに変な事は出来ない。
多分、秋川先生の狙い通りなのだろう。
地下一階にある噴水広場は4層の吹き抜けになっていてオープンスペースになっている。
そのオープンスペースは2メートルほどの白いボードで囲まれ広く取られた出入口から中が見え。
中にも壁と同じボードが至る所にあり写真が展示されていてギャラリーになっているみたい。
「し、汐音。あれ見て」
「う、嘘でしょ……」
入り口に置いてあるイーゼルにはフレームに収められたポスターがあり。
ポスターには深海の様な水族館で佇むような浴衣姿の女の子と『こい』の文字が……
ギャラリーの中に足を踏み入れるとポートレートばかりで。
青臭さを感じる写真や恥ずかしさが滲み出ている写真。
可愛らしい女の子が誰かと手を繋いでいる写真に防波堤で1人佇む制服姿の女の子の後ろ姿を写した写真などが展示されている。
「凄いね。色んな恋が写し出されてる」
「森山先生のポートレートって人の内面まで写しちゃうんだね。凄いや」
一緒にバス出来たフォトグラフ学科の咲ちゃんもクラスメイトの朋ちゃんも写真に引き込まれ釘付けになっている。
そんな中でも一際人集りができている写真が気になり覗いてみて言葉を失った。
腕に重さを感じて視線を移すと栞が私の腕に自分の腕を絡ませていた。
「こい、だね」
「う、うん」
幻想的な青い世界の中で白地に赤と黒のレトロな感じがする花模様の浴衣を着て。
淡いブルーの朝顔の簪を指した女の子の振り向き際の一瞬を切り取った写真でその女の子の笑顔からは大好きという気持ちが溢れている。
「胸がキュンキュンとするね」
「萌えちゃいそう」
咲ちゃんと朋ちゃんが蕩けるそうな顔で写真を見入っていた。
「こんな写真いつの間に」
「モーリって本当に凄いね。こんな瞳で見つめられたら誰だって恋に落ちちゃうよ」
「でも私は」
そこまで言って言葉を飲み込んだ。
フォトグラフ学科の授業に森山先生が突然現れてフォトコンの発表をした日に私は確かに森山先生が撮った私の写真を作品として発表しても良いと言った。
例えそれが意地を張っての発言でも今となってはこれで良かったんだって思える。
他の写真も気になり見ていて心臓が止まりそうになってしまった。
月明かりに照らされた海がキラキラと優しい光を反射していて。そんな海をバックに男女がキスをしているシルエットが写し出されている。
少し遠目から写しているので広がりがありとても幻想的な写真になっていた。
そして写真の下にはスペシャルサンクスの文字と徳丸君の名前が。
「へぇ、徳丸君ってこんな写真も撮るんだ」
「月明かりの写真を撮りたくて探していたら偶然出くわして思わずシャッターを押したんだ。そうしたらかなり良い写真だったんで森山先生に見てもらったら写真を使いたいって言うから。二つ返事で了承したんだけど写っている男女は誰だか分からなかったし。無粋な真似をするのも嫌なんで。了承は取ってないけど」
「ふうん、そ、それなら良いんじゃない。綺麗な写真なんだし」
もう冷や汗しか出て来ないけど徳丸君は絶対に誰だか知っている口ぶりと素振りだった。
「もう、やだ。かえゆ」
「瑛梨ちゃんみたいな事を言わないの」
目の前にある2枚組の写真はもう言う必要がないくらいの写真だ。
美術学科の絵画部門とフォトグラフ学科の2時間続きの合同授業の時に私が森山先生に壁ドンされている写真で。
2枚目は私が貧血を起こして森山先生のジャケットを握りしめている写真だ。
この写真も遠目から撮っているのでまるで少女漫画の一コマを切り取ったようになっている。
ずっと好きだった男の子に壁ドンで告白され。感極まって男の子の胸で泣いているようにしか見えない。
写真の下にはやはりスペシャルサンクスの文字と若菜 栞の名前があり。
それを見た栞が私の横で拳を握りしめガッツポーズを決めていた。
力尽きてフラフラしていると誰かにぶつかってしまった。
「すいません」
「こちらこそ」
「も、森山先生! 何がこちらこそなんだか」
私がぶつかったのはスーツ姿の啓祐さんだった。沸々と怒りが込み上げてきて盛大に頬を膨らませ抗議する。
「怒った顔も可愛いけどな」
「そんな社交辞令言っても収まりません」
久しぶりに会ったのに何がこちらこそなんだろう。それに私のほっぺをツンツンして誰かに見られたらどうするの。
「森山さん。その生徒さんってもしかしてモデルの」
「僕の」
「教え子です」
「そう、厳密に言えば教え子だっただけどね」
啓祐さんが何だかとてつもない事を言い出しそうな予感がして口を挟んでしまい。
肩の力を抜くようにしている啓祐さんを見ると自分自身が幼く思えてしまう。
「私、編集部の前山です。宜しくね」
「瑞樹汐音です」
「汐音さんって読者モデルでフォトコンに入賞した汐音さん?」
「少し違いますけどそうです。宜しくお願いします」
啓祐さんに話しかけてきたのは写真集を出版した編集部の人だった。
名刺をもらい是非うちにとスカウトされてしまったけれどインフィニート出版に内定している事を伝えると肩が地面に落ちるくらいがっかりしていた。
知らない間に有名人になってしまったような気がして溜息しか出て来ない。
それに読者モデルは何とかならないかなと思ってしまう。一度しかファッション誌には出て無いんだから。
「そうだ、汐音。この後時間取れるかな?」
「高校を卒業したとはいえ、ここには皆と一緒にバスで来たんです。団体行動を乱すような事は出来ません」
「まぁ、そうだね。仕方がないか」
諦めたのかと思ったのに啓祐さんは辺りを見渡して誰かを探している。
「ユッコ、この後で汐音を借りたいんだけど。駄目かな。真面目な瑞樹は団体行動だからって言うんだ」
「構わないんじゃない現地解散という事で。帰りたい人は15分後にバスが出るから時間に遅れるなよ」
秋川先生の声が吹き抜けに響き渡り色んな場所から返事が聞こえてくる。
もう、秋川先生まで啓祐さんの味方なんだ。益々虫の居所が悪くなっていく。
時計の針を見るともう夕方に近い時間だ。
「まだ、挨拶回りがあるからしばらく待っていて欲しんだけど大丈夫かな」
「そんな目で見られたら断れないです。私のことは気にしないでください。ちゃんと待ってますから」
膨らんでいた物が急速に萎んでいく。あんなに優しい声で言われたら自己否定してしまいそうになる。
現に心の中ではごめんなさいを先に言っていた。
啓祐さんに連れて来られたのはサンシャイン60の59階にあるフレンチレストランだった。
ガラス窓の外には東京の夜景がパノラマ写真のように広がっていて。
テーブルには綺麗なクロスが敷かれ。その上には磨き上げられたシルバーのナイフやフォークが綺麗に並べられていて曇り一つ無い脚付きグラスが眩いくらいに輝いている。
そんな場所に私の格好はあまりにも不釣り合いだ。
チェックのスカートにグレーのブレザー。白いブラウスにブルーのリボン。黒いハイソックスにローファー。
藤倉高校の制服に身を包んだままでささやかな抵抗を試みる。
「何で個室なんですか?」
「誰にも邪魔をされずに大事な話がしたいからだよ」
「大事な話なのに私はこんな格好で」
我慢しなきゃと思えば思うほど胸の奥から何かが込み上げてくる。
苦しくなって啓祐さんの顔を見ると優しく笑みを浮かべていた。
「高校は卒業してしまったけれど制服は何処に出ても恥ずかしくない学生の正装なんだよ」
「えっ? パーティーに出ても」
「もちろん、それが総理大臣主催のパーティーでも。どこかの国の王様に謁見する時にもね」
啓祐さんに教えられ漣立っていた心が静かになっていく。正装で大事な話ってなんだろう。
高校卒業のお祝いをこんな素敵な場所でなんて凄すぎる。そんな事を考えていて何気なく視線をテーブルの上に移すと啓祐さんが綺麗にラッピングされた小さな箱を置いた。
「開けて良いんですか?」
「もちろん汐音の為に僕が選び抜いて買ってきたものだからね」
可愛らしいクリーム色のリボンを解いて桜色の包装紙を開くと白い小箱が姿を現した。
そっと小箱の蓋を取ると中には真っ白なハート形をしたケースが入っている。ハート型のケースには刺繍が施されていて蓋を開けると中には綺麗な白金の指輪が。
「啓祐さん、これって?」
「受け取って貰えるかな? ずっと汐音と一緒に居たいんだけど」
「私も啓祐さんと一緒に……居たい……」
ポロポロと涙が指輪に零れ落ち心が苦しくなる。初めて嬉しい時も苦しいことを知った。
「啓祐さんのばか。だいしゅきなのに」
「ありがとう。僕も大好きだよ」
啓祐さんが頬に両手を当てて親指で優しく涙を拭ってくれる。
凄く温かいものが心に伝わってくる。このまま時が過ぎればいいのに。
「はぁ、お店に迷惑だから入ってきなさい」
「ふぇ?」
突然、啓祐さんが不機嫌そうな声を上げ現実に引き戻され驚いてしまう。すると、個室のドアが開き見慣れた顔が見えた。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」
「申し訳ない」
「ごめんね、汐音」
「瑞樹さん、この通り」
徳丸君が深々と頭を下げ秋川先生と栞はバツが悪そうな顔をしている。
何時から3人は居て。何時、啓祐さんは気付いたのだろう。私には気配さえ分からなかったのに。
3人は啓祐さんに促され申し訳なさそうに席に付いた。
「啓祐さんはいつ気付いたんですか?」
「何となく汐音達が来た時からこうなる予感はしていたよ。だから個室を広い場所に変更してもらったんだ」
確かに啓祐さんと2人なのに広い個室でナイフやフォークにグラスが6人分用意されているのが気になっていた。
「それにしても幼い頃から姉の様に思っていたのにこんな無粋な真似をされるとは思わなかったよ。無粋と言うより無礼千万だね」
「啓祐さん、そんな言い方をしなくても」
「親しき仲にも礼儀ありじゃないのかな」
こんなに怖い顔をした啓祐さんを初めてみた。言葉のナイフが秋川先生に向けられ、秋川先生は唇を噛み締め俯いたままでいる。
栞と徳丸君は居た堪れないのだろう。じっと1点を見つめたまま微動だにしない。
「これくらいで良いかな」
「本当にごめん。啓祐と汐音に取って大事な日を」
「ばーか。ユッコの考えていることなんて全てお見通しだよ。何年の付き合いだと思ってるんだ。でも今回は悪ふざけの度が過ぎたよね」
「うん、ごめんね」
啓祐さんの体から力が抜けてホッとした。
どうやら啓祐さんの演技だったらしい。秋川先生もホッとしたのかはにかみながら笑顔を見せている。
「もう、本当に怖かったんだから2度としないでくださいね」
「僕だって優しいだけじゃないんだよ」
「それは私が一番知ってます」
「ほら、ユッコがいつまでもそんな顔をしていたら徳丸と栞はどうするんだ」
目の前のキュッとしたグラスには黄金色の白ワインが注がれている。
もちろん高校を卒業したばかりの3人はノンアルコールだ。
「それじゃ、乾杯しようか」
「よし。プロポーズと写真集発表に3人の卒業に、乾杯!」
グラスを少しだけ掲げて乾杯をする。お皿には銀のスプーンに乗せられたお料理が。
こんなフランス料理を食べたことがない高校を卒業したばかりの私達は啓祐さんと秋川先生の真似をすることしか出来ない。
「ん、おいひい。サーモンだ」
「本当だ」
見たことも味わったこともない料理が次から次へと運ばれてくる。どれも信じられないくらい綺麗に盛りつけられていて凄く美味しい。
「そう言えば啓祐さん私の家に何の用事があったの?」
「写真集に汐音の写真を使うことの承諾を取りに行ったんだよ」
「それだけ?」
「娘さんを僕に下さいって。世の中に絶対は無いからね。早く確約が欲しかったんだ」
啓祐さんの言うとおり世の中に絶対はない。あるのは生きとし生けるものに対し平等にかつ必ず訪れる最後の別れ。
そんな別れが2人に訪れるまで私は啓祐さんと共に歩きたい。
ルビー色に輝く赤ワインと共にメインのフランス産の下を噛みそうな牛もも肉を味わい。美味しいデザートを食べてコーヒーを頂いた。
栞と徳丸君を見ると同じ包を持っていて大事そうにしている。
「栞、その包って何なの?」
「えへへ、モーリが皆に写真集をプレゼントしてくれたんだよ」
写真集をプレゼントって私はまだもらっていない。
「啓祐さん、私には?」
「売れ残って返本されたら沢山あげるよ」
「いじわる」
「汐音はもっと大切なモノを貰ったんだろ」
確かに秋川先生が言うように指輪とプロポーズの言葉を受け取ったそれでもやっぱり欲しいし売れ残ったらって。
「汐音が心配することじゃやないさ」
「え、秋川先生。何でですか?」
「普通の写真集の発表はこんな場所じゃしない。ここを選んだのは家族連れや汐音達と同年代の子が居るからだ。それにだ初デートの場所だしな」
何で秋川先生がそんな事を知っているんだろう。啓祐さんに視線を送ると小さく首を振っている。
「啓祐がそうであるように私も啓祐の行動なんてお見通しだ。池袋で打ち合わせだと言っていたのに帰ってくるなりアトリエに篭ってコソコソと何かをしていたからな」
「もしかして」
「覗き見なんてしなくても啓祐はお気に入りの写真を出しぱなしにする癖があってな」
「啓祐さんのばか」
啓祐さんが気まずそうに頭を掻いている。でも、誰かが欠けていても今の私は無いのだから。感謝することしか出来ない。
『みんな、ありがとう』
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