第8話 男の子

涼しい秋は春の次に好き。それは過ごしやすいし身体が軽く感じるから。

藤倉は三方が山に囲まれ海に面しているので自然がまだ沢山残っている。

木々が色づき始めた紅葉の時期は特に綺麗で写真撮影には一番いい季節かもしれない。

神社仏閣も多く撮影対象には事欠くことがなく私も栞と一緒に歩きまわり沢山の写真を撮った。

そんな秋が駆け足で過ぎ寒さが厳しい季節がやってくる。


「おっはよう!」

「おはよう、栞」

「本当にこの時期は相変わらず覇気がないな」

「まぁ、毎年の事だからね」

栞はどんな季節でも元気だけが取り柄の様な子だけど私は寒いのが苦手で朝は特に辛い。

そんな他愛のない話をしながら登校しているとクラスメイトの朋ちゃんが声を掛けてきた。

「おっは、相も変わらず仲が良いね」

「まぁ、幼馴染だからね」

「名前も似ているし双子みたいだよね」

確かに栞と私の名前は一文字違いだけど双子みたいだと言われたのは初めてだ。

「私の名前は親がサザンの大ファンでって。そこ笑うところじゃないでしょ」

「ふふふ、栞のテーマって鉄板だよね。汐音の名前は?」

「ん、私の名前はまだ母のお腹に居た時の心音が海の音みたいだったから汐音なんだって」

「そうなんだ。そう言えば汐音って明るくなったよね」

名前の由来だけど海の音のように聞こえたのは心雑音だったんだけど両親は知らずに汐音と付けてくれた。

そして私が生まれて初めての検診の時に心雑音だと知り検査をしたら心疾患がある事が判明した。両親がどれだけショックだったかなんて私には計り知れない。

母からこの話を聞かされ『ごめんね』と言われたけれど笑顔で『素敵な名前をありがとう』って答えた覚えがある。

明るくなったなんて急にそんなことを言われても自分では実感が無く。

私は森山先生と出会い気持ちが少しだけ前向きになってきているのは本当。

「森山先生が本気で怒ってくれたからかな。山小屋合宿にどうしても参加したくって必死になっていたら参加させたことを後悔しているって言われて、楽しんでいない私を山には連れて行きたくないって」

「ええ、あんなに頑張ったのに」

「うん、私も言い返したよ。だけど私の間違いを教えてくれたの。これから命掛けの恋をして、命掛けで子どもを産んで、命掛けで子ども守るかもしれない。だからこんな合宿に命を懸けるなって。写真だって撮る人が楽しんでいなければどんなに良い構図で最高の光でもただの紙切れだって。思い出だって私が楽しんでいなかったら良い思い出にはならないって」

「そうなんだ。それじゃさ、森山先生をゲットしちゃえば」

朋ちゃんの言葉に何も返せない。森山先生には憧れを抱いていて好きだけど恋とは少し違う気がする。

栞に言わせれば恋なんてしたこと無いくせにと言われてしまうだろう。

「汐音は天使の男の子を探しているんだもんね」

「そ、そんなんじゃ」

「ええ、誰なの? その男の子?」

「汐音が小学生の頃に砂浜で出会った男の子だよね」


しばらくすると私が出会った男の子の話が友達の間で広がっていってしまう。

「そう言えば2年の木崎先輩が近くの浜で泣いている女の子に子どもの頃に会ったことがあるって言ってたよ」

「朋ちゃん。もう、その話は止めようよ」

「あのね、思い出の中だけじゃ駄目だよ。ここぞという時は一歩を踏み出さないとチャンスは逃げちゃうよ」

自分から止めようと言ったのに何故だか気になってしまう。どんな人だかちょっとだけ見てみたいけれど上級生の教室がある3階に行くなんて出来ないし行く理由もない。

「汐音、ごめんけど先に行ってて」

「うん、分かった」

次の授業はフォトグラフ学科の授業で教室を出て視聴覚室に向かう。

私達の教室は2階にありいつも3階に上がってから渡り廊下を渡り教室を移動している。その2階の階段で男子とぶつかりそうになってしまった。

「おっと、ごめん」

「す、すいませんでした」

直ぐに頭を下げて少し視線を上にするとぶつかりそうになった相手は上級生だった。

少し目付きが鋭くきつく感じるけれど笑みが溢れていたので怖くない。

そんな名前も知らない上級生と何度か顔を合わすうちに手を振ってくることがあった。

「ねぇ、汐音。あの先輩が木崎先輩だよ」

「ええ、本当なの? この間、教室を移動するときに階段でぶつかりそうになって時々だけど校内で見かける時があるから」

「そっか、知らなかったんだね」

「うん、あの人が木崎先輩なんだ」

朋ちゃんが言っていた言葉が頭の中を過るけれど男の子と話したことが殆ど無い私から話しかけるなんてことは逆立ちしても無理な話だ。


「瑞樹さん、先輩が呼んでるよ」

「ええ、私の事を先輩が? 誰だろう?」

クラブにも入っていないので知り合いの先輩なんて心当たりがなく。栞と顔を見合わせて立ち上がると栞が付いてきてくれた。

クラスメイトと教室のドアの所ですれ違うと何故だか笑っている。

廊下に出るとあの木崎先輩が立っていた。

「あのさ、俺。瑞樹さんの事が前から気になっていたんだ。それで付き合って欲しいとかじゃないんだけど友達として今度遊びに行けないかなっと思って」

「私とですか?」

「そう、瑞樹さんと。駄目かな?」

あまりにも突然だったので正直なところ戸惑ってしまう。

色々なことを聞いてみたいという気持ちと、少し怖いという恐怖心が揺れている。

すると栞が背中を少し押してくれた。

「友達としてなら」

「本当に? 良かった。断られたらどうしようかとドキドキだったんだよ。それじゃ、詳しいことは連絡するから」

メールの交換をすると木崎先輩が早足で遠ざかっていく。

「何でも経験だと思って後押ししちゃったけれど汐音は大丈夫なの?」

「うん、迷って考えてばかりいても本人と話をしてみないと分からないし」

「何かあったら絶対に連絡するんだよ」

「栞ってまるでお母さんみたい」

栞は笑って入るけれど本心は心配でしようがないのだと思う。だけどこれは私の問題だし一歩を踏み出す良い機会だと思ってみる。

あれから時々校内で木崎先輩と会うと軽く立ち話をするようになり水族館に行く約束をした。


月の島水族館は地元だしシーパラダイスは高校生には何かとお財布が厳しい。

何処の水族館に行くのかなと思っていたら臨海公園まで来ていた。ちょっと遠いので心細くなってしまう。

電車を降りるとお日様が出ていてポカポカしているけれど風はとても冷たく感じる。

駅を出ると目の前が既に公園になっていて右手には噴水がありその向こうには大きな観覧車が見え。

まっすぐに歩いて行くとガラス張りの壁のように見える建物が見えてきた。

案内が出ている水の広場に向かうとAquariumと言う文字がある壁には滝のように水が落ちているけれど他にはレストハウスしか無い。

少し歩くとガラス張りのドームが見え手前にゲートがあるのが分かる。高校生には手頃な値段のチケットを購入して入場した。

「瑞樹さん、行こう!」

「えっ、ちょっと待って」

いきなり木崎先輩が私の腕を掴んで走りだし鼓動が跳ね上がり胸が締め付けられる。

ドームを取り囲むように設置されている噴水池が見えてきて木崎先輩がようやく止まってくれた。

「あれ? どうしたの? 身体が弱いって聞いてたけれど合宿で山に登ったんでしょ。これくらい平気じゃないの?」

「ちょっと驚いただけで。もう、大丈夫です」


水族館の入り口であるドームに入りエスカレーターで2階に降りる。

すると週末なので家族連れやカップルが沢山いた。

「へぇ、凄いな。でもガキが多くてウザいな。やっぱ、週末だから仕方がないか。瑞樹さん、早く見ようよ」

「は、はい」

目の前には大水槽がありエイやサメの群れが泳いでいる。

家族連れが楽しそうに水槽で泳ぐ魚を見ているのに押し退けるようにして私の手を引っ張り水槽の前に連れて来た。

学校では良い人に見えたのに本当は違うのかもしれないと疑問符が浮かぶ。

森山先生に連れて行って貰った水族館も週末だった。そんな事ばかりが頭に浮かんでは消える。

一階に降りるといろいろな魚が展示されているのに全く楽しめない。

太平洋・インド洋・大西洋・カリブ海そして深海の生物や北極・南極の海。

ここの水族館の目玉でもあるマグロが遊泳している大迫力の水槽の前では家族連れやカップルが楽しそうに笑っている。

私はここで何をしているのだろう。そう思っただけで気分が悪くなってきた。

「先輩、すいません。ちょっとトイレに行ってきます」

「えっ、あ、分かった。ここにいるから」

何とか平静を取り繕って近くのトイレに飛び込みスマホを取り出して考えてしまった。

家にいる両親には友達と水族館に行くと行って出てきた手前連絡なんて出来ない。私が出来る事は栞のナンバーをタップすることだけ。

「ごめん、栞。あのね」

「汐音、声が変だよ。もしかして具合が悪くなったとか? 今何処にいるの?」

「うん、臨海公園の水族館」

「絶対に私が何とかするから動き回らないこと。いい?」

分かったと伝えスマホを切ると手の震えが止まらない。

館内からいったん外にでると可愛らしいペンギン達が居た。

その後も水槽を見て回ったけれど何が居たかなんて歩くのが精一杯で覚えていない。


何とか水族館を出て海が見える展望広場にたどり着いた。

ガラス張りの建物が後ろに見え何でもクリスタルビューと言う展望台らしい。

「そうだ、先輩。聞いても良いですか? 砂浜で泣いていた女の子に出会った事があるって」

「ああ、あれは従姉妹だよ。前から君の事が気になって砂浜で出会った男の子を探しているって聞いたから話をするきっかけになるかなって」

「そうなんですか」

やはり違ったみたい。思い出は美化されると言うけれどあの時出会ったあの子はこんなに粗暴な男の子じゃなかった。

一気にテンションが下がるとともに血の気が引いていくのを感じる。

「瑞樹さん、顔色が悪いけれど大丈夫? 何処かで休もうか」

「そうしてもらえると」

「そうだ、観覧車があるからそこで」

立っているのが辛くなりしゃがみ込んでしまった。

観覧車まではかなり遠く何で後ろの展望台で休もうと言ってくれないのだろう。

具合の悪い女の子と観覧車で二人っきりって……私がバカだった。

この場から直ぐに立ち去りたくって立ち上がると胸に強い痛みが走り一瞬だけ息が止まり。

身体が崩れるように地べたに座り込んだ。

「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫です。少しすれば落ち着くんで。それにさっき父に迎えを頼んだし」

「はぁ? 親父が来るのかよ。マジ、勘弁してくれよ」

「それなら私なんかに構わずに先に帰って下さい」

自分の事に精一杯で語気を強めて言うと木崎先輩が逃げ出すように駅に向かい走り去っていく。

しばらく動かないでいると心臓の痛みは治まってきたけれど立つのは無理みたい。


周りから家族連れやカップルの楽しげな笑い声が聞こえてくる。

具合が悪いのを誰かに気付かれ動けないことが分かれば救急車を呼ばれ大騒ぎになり両親にまた心配をかけてしまう。

動かずに居ると冷たい風が身体をすり抜けて行き意識が朦朧としてきた。

こんな馬鹿みたいな事に命なんて懸けたら森山先生に怒られるだろうな。

そんな事が浮かんでは消え。どれだけ時間が過ぎたのだろう。

スマホが鳴った気がして震える手で取り出すと栞の名前が浮かび上がっていた。

「汐音、公園の何処にいるの?」

「海の音が聞こえるよ。月の島かな」

「バカなことを言わないで。しっかりしてよ!」

「クリスタル何とかって展望台の……」

今にも泣き出しそうな栞の声で何とか意識を繋ぎ止めたけれどもう寒ささえ感じなくなってきた。

先生、助けて…… 『汐音!』森山先生が私の事を下の名前で呼ぶはずもないのに空から聞こえて振り向くと天使が舞い降り意識が途絶えた。


浮遊感があり何か温かいものが身体を揺らしている。

揺れが止まると何だかいい匂いがして身体が徐々に温まっていく。

温かい……森山先生……ゴメンナサイ


目を覚ますと自分のベッドでいつもの天井が見えた。何とか起き上がると身体が凄く重く感じる。

「目が覚めたのね。大変だったのよ」

「お母さん、ごめんなさい」

「ちゃんと栞ちゃんにお礼を言うのよ」

「う、うん」

自分の不甲斐なさに涙が溢れてくる。誰がどうやって私を家まで連れて帰ってきたのだろう。

それにお母さんはどこまで知っているのか怖くて聞けない。

私に聞きたいことが沢山あると思うのにお母さんに翌日は大事を取って学校を休むようにとだけ言われてしまった。


病院に行く程の事ではなく身体は何とも無いのに鉛のように気が重く。

その所為で学校に向かうのがいつも以上にスローペースになってしまう。

「おはよう、汐音。もう身体は大丈夫なの?」

「あっ、栞。うん、平気だよ。本当にごめんね」

「もう二度とあんな事やだよ。汐音に何か遭ったら何て。心配だったんだからね」

「う、うん。もう二度としないから」

自分では一歩を踏み出したつもりになっていたのにまた皆に迷惑を掛けて自己嫌悪に陥りそうだ。

それでももう立ち止まらないと決めたんだ。怖いけど思い切って口を開く。

「あ、あのさ。栞」

「汐音から電話があった時にパパと車で都内にいて。凄くラッキーだったんだよ。私と出掛けた事になっているし、パパにも釘を差しておいたから。バラしたらグレてやるって」

「そうなんだ。ありがとう。可哀想なパパにもお礼を言わないとね」

「嫌だな、お礼だなんて。幼馴染でしょ。そんな気を使う中じゃないしパパだってお礼なんて言ったら怒ると思うよ。当たり前のことをしただけだからって」

栞にそこまで言われてしまえば私の出る幕は既に無い。

でもあの時に聞こえた私の名を呼ぶ声やあの温かさは一体何だったのだろう。

夢、だったのかな……


意識的に木崎先輩と会うのを避けていた。

同じ学校なので偶然出会ってしまった時には適当に話を合わせ誤魔化す事しか出来ない。

それでも先輩の事ははっきりさせないといけないと思っていた。

「よし! 次はフォトグラフ学科の授業だ。行くよ、汐音」

「う、うん」

あんな事があった後のフォトグラフ学科の授業だからだろうか。栞がいつになく気合を入れてそんなに森山先生の授業が待ち遠しのだろうか?

視聴覚室に向かう為に移動していて階段で強張った顔をした木崎先輩が上から降りてきてしまい。

いきなり腕を力任せに掴まれ痛みが走る。

「ちょっと来い。お前に話がある」

「これから授業なので今は無理です。痛いから離して下さい」

「いいから来いって言ってんだろ!」

階段に怒号に似た木崎先輩の声が響き渡り強引に腕を引っ張られ階段を落ちるように降りて行くことしか出来ない。

栞を見上げると自分の手には負えないと判断したのか階段を駆け上がっていった。


木崎先輩に無理やり連れて来られたのは学校から少し離れた七瀬ヶ浜の砂浜だった。

逃げ出さないように防波堤を背にして立たされ目の前では先輩が鋭い眼光で私を睨みつけている。

「何で俺を避けている」

「先輩が怖いからです。私の心臓が弱い事を知っているんですよね」

「はぁ? そんなの俺に関係ないだろ。お前の所為でダチにバカにされて笑われてるんだぞ」

「そんなの私の所為じゃない」

ますます先輩の顔が険しくなりまるで獰猛な野獣のようだ。

怖くないと言えば嘘になるけれどここではっきりさせないと後々で大変な事になる気がしてならない。

「それじゃ、俺の周りをコソコソと調べているのは何でだ」

「私はそんなこと知らないし、してません」

「嘘を付くな!」

いきなり木崎先輩が私の顔の横に手をつき生理的嫌悪感を覚えるような目が私を見下している。

「ここでお前の人生を台無しにすることも出来るんだぞ。男を受け入れられない身体にしてから二度と顔も見れないようにしてやる」

「…………」

まだ昼過ぎで周りに疎らだけど人がいるからと高を括っていた。

そんな事をザックリと切り捨てられた様に本当の恐怖が襲ってくる。

発作を起こした時に死ぬかもしれないと言う怖さとそれは全く別の生きながら味わう底知れぬ恐怖だった。


『神様、助けて。お願い』

あの時と同じ様に声にならず心の中で絶叫する。

幼い頃に成功するか分からない手術をいつするかと聞かれ恐ろしくなり病院から逃げ出し。

砂浜で泣きじゃくっていた時の様に。


心臓が締め付けられ呼吸が乱れるのに逃げ出すことは叶わない。

「瑞樹!」

突然、頭上で名を叫ばれ遠退きそうになる意識の中で見上げると、あの時と同じ様に純白のシャツを翻しながら誰かが砂浜に舞い降りて来る。

それは男の子ではなく森山先生だった。

砂浜に降り立った森山先生がいきなり木崎先輩の胸倉を掴んで拳を上げるが先輩の表情は微動だにしない。

「殴れるものなら殴ってみろ。やってみろよ、先生よ」

「啓祐!」

森山先生の拳に力がこもった瞬間に秋川先生の声が森山先生の拳を撃ち抜き。森山先生は胸倉を掴んでいた手も拳も力なく下ろした。

声がした方を見るとダークなパンツスーツで凍て付くような冷気を纏い鉄仮面の様な顔をして両手をパンツのポケットに突っ込んだままの秋川先生が砂浜を歩いてくる。

「啓祐、止めておけ。そんな奴は殴る価値もない屑だ」

「先公が生徒に向かってそんな事を言って良いのか。教育委員会にチクってやる」

「好きにしろ。俺が探りを入れていたお前の友達が事の真相を全て吐いた。喜べ、ライン・ツイーター・SNSで絶賛拡散中だ。時期にお前の素性も本性も丸裸になる。いざとなれば近隣の高校に転校すればなんて生温い事を考えていたのなら残念だな」

秋川先生の言葉で木崎先輩の顔から見る見る血の気が引いていき力なく糸の切れたマリオネットのように砂浜に崩れ落ち幕が下りた。

身体中の緊張の糸が切れ倒れそうになる。

「瑞樹、大丈夫か?」

「えっ、あ、森山先生」

森山先生が身体を支えてくれると温かいものが伝わってきて気を取り直す事が出来た。

「汐音。栞が心配していたぞ」

「えっ、はい。でも何で秋川先生が」

「栞から相談を受けてな。もう面倒を起こすなよ」

もしかして臨海公園で助けてくれたのは森山先生じゃ、そんな思いも秋川先生によって打ち消されてしまった。

秋川先生と森山先生に連れられて視聴覚室に戻ると自習をしていた栞達に安堵の表情が浮かぶ。

結局、フォトグラフ学科の授業はそのまま自習になってしまった。

秋川先生と森山先生が学校側に騒ぎの顛末を説明しに行ってしまったためだ。


放課後に栞から話を聞いた。

砂浜で出会った女の子の話も私との出会いも都合が良すぎるので女子の情報網を駆使して木崎先輩の事を調べたらしい。

中学の頃は荒れていて高校に入り鳴りを潜めたけれど親しい仲間や気に入った女の子には普通に接するのに少しでも気に入らない人に対しては酷い扱いをしていたと言うことが分かり秋川先生に相談した。

そして今日の事が起こり栞は慌てて秋川先生の元に。

秋川先生が森山先生に私を探しに行くように指示し、秋川先生は既に下調べしてあった木崎先輩の友人のクラスに行き事の真相を聞き出したんだって。

最初は本当に私の事が気になっていたらしいけれど所詮それは彼等にとって遊びでしかなく私を落とせるか掛けをした。

私が初めてでは無いことも分かり、その上に校外ではもっと酷い事をしていた。

栞は秋川先生に事の真相を聞きあらゆる手段を使って拡散しろと言われラインを使いクラスメイトに拡散した。この話を急いで拡散してと付け加えて。

1人が10人にまた10人がそれぞれ10人に拡散すればあっという間に物凄いスピードで校内だけではなく全国に向けて広がっていく。

そして伝言ゲームの様に尾鰭が付いて極悪非道な女の敵みたいな話になっていくのだろう。

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