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「はい」


 彼女の温もりが体から離れる。背中がひんやりとして心持ち寂しい。


「体重を掛けなければ……抱きついてもいい」


「はい」


 再び彼女が背中に抱き着き、原稿を覗き込む。


「やっぱり歴史に関する小説なんですね」


「織田信長の生き様が好きだからな、仕方ないだろう」


「そうね。先生には好きな作品を心の赴くままに書いて欲しい」


「今流行りのタイムスリップとか……どうかな」


「うん、面白いですね」


「地味な女が戦国時代にタイムスリップする」


「先生の小説の主人公は、いつも地味な女ね」


「お前と一緒だ」


「私ですか?」


 背後から俺に抱きついたまま、彼女が俺の顔を覗き込む。


「お前は地味だから面白い。地味な女はどんな色にも染まる。小説の主人公にはぴったりだ」


「私が主人公ですか?先生の小説に登場出来るなんて光栄です」


「どのタイミングでタイムスリップするかだな」


「例えば……婚約者とキスしている時とか?」


「キス?それはないだろう」



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