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「このお方が有名な作家さんなん?」


「はい、只野先生です」


「まひる、嫁入り前の娘が男の家に転がり込むとは言語道断。只野先生、娘を傷物にした責任を取っていただけますよね」


「傷物?俺は彼女に何もしていない。彼女は住み込みの家政婦だ」


 あ…ちゃ。

 先生、恋人の振りをしていたこと、もうすっかり忘れてる。


「先生、私達……恋人ですよね。ねっ」


 目をパチパチさせ合図するが、先生には通じない。


「目にゴミが入ったのか?目薬をさせ。俺達が恋人?何を血迷っている。昨夜車中で抱き合ったまま一夜を過ごしたが、アレは偶発的な事故……」


 途中まで話し、先生はやっと思い出したようだ。私の両親に恋人だと嘘をついていたことを。


「嫁入り前の娘をもう家政婦扱いとは。車中で抱き合い一夜を?周囲に住宅がありながら、なんとハレンチな」


 ああ、先生に嘘を強要した私がバカだった。


 先生が私に視線を移す。『嘘をつけばいいのだな』、今更ながら先生の目はそう言っている。

 私は小さく頷く。


 他人に頭を下げるなんて、先生は絶対出来ないはず。この状況をどう回避するのよ……。

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