第10話 ディナーはジビエで

 三人の前には、羽根をむしられた野鳥が二羽、仲良く湯気をあげている。



「ちっと灯りが欲しいのう」



 スキピオは荷物をまさぐって、布にくるまれた小瓶を取りだした。

 布をどけると瓶の中に青白い炎が漂っていて、周囲をぼんやり明るくした。



「……これ、なんね?」



 いつの間にか泣きやんだミトラが、物珍しそうにのぞき込んでいた。



「イグニス・ファトゥスさ。煮炊きするんでなきゃこっちがいい。木炭がもったいねェからな」


「へー、これがイグニス・ファトゥス……」


「お、知ってんのかい」


「本物?」


「当たり前だ。ウィル・オー・ウィスプとも言うわな。どうだい、そこのアンタ。ちったァ、ファンタジーぽくなっただろが」


「誰に言いよっと?」


「こっちの話だ」



 その仄かな光を頼りに、カトーが野鳥を切り分けはじめた。



「こっちは、なんね?」


「なにって、シャモキジよ。食うたことあろうがの」


「シャモキジはこぎゃん形しとらんばい」


「ほんじゃ、どがぁな形しよんじゃ」


「どうって……こう……もっとこんまかに切っとうと」


「ああ、切り分けたシャモキジしか見たことないんじゃろ。あんの、シャモキジはの、切り分ける前はこがぁな形しよんよ」


「いや。これは……」



 と、まじまじ観察してから、



「これは、たぶん鳥ばい」



 カトーは吹き出した。


 シャモキジは体長六パーム(約四〇センチ)ほど、気性が荒く畜養には向かないが、滋養満天の野趣味あふれる濃厚な食味で、王侯から庶民にまで好まれている野鳥である。



「ねえ、鳥やん?」


「ほーじゃ。鳥の足を落として、羽をむしり内蔵をとって、香草を詰めて蒸し焼きにしたもんじゃ」


「やっぱり鳥ばい」


「ほーじゃ。鳥じゃ」


「これはシャモキジって言うたやなかか」


「ほーじゃ。シャモキジいう鳥じゃ」


「シャモキジはシャモキジ。鳥は鳥ばい。どっちばいか」



 ミトラはなかなか頑固だった。

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