第6話 ザ・変態

「死ぬばい……ここで死ぬばい」



 悪いことに、傍らに短剣が落ちていた。

 ミトラを襲った連中のものだろう。

 それを拾いあげて、ミトラは自分の喉元に突きつけた。


 カトーが慌てて、



「ちょ、ちょ、ちょっと待ちんさいや」

「そ、そうだぜ。滅多な気を起こすもんじゃねェよ」



 だが、ミトラは首を振って、



「いちばん恥ずかしいとこば見られて、太か人にそれ何回も言われて……よう考えたら、そん前にも一回言うとったばい……ふえええ……」


「誤解つってるだろ。言っとくけどなァ、お前だって、さらっと人が傷つくこと言ってんだからな。なんだよ、太か人ってよ」


「最初にもナニ者って言うとるとばい……全部で十三回やったとばい」


「いい加減にしやがれ!いくらなんでも、そいつは難癖ってもんだろうがよ!」



 とうとうキレたが、泣く子には勝てない。

 カトーとスキピオは、ひそひそと相談をはじめた。



「この子はあれじゃ、体は男で心がおなご、っちゅーやつじゃないかのう」


「みてェだな。話には聞いちゃいたが、実際に会うのは初めてだぜ」


「ちゅーことは、じゃ。ワシらはこの子を、おなごとして扱うべきじゃったんじゃ」


「そうなるな。なんか悪りィことしちまったな」


「責任とるしかないど」


「しゃーねェなあ。あんまり、やりたくねェんだけどよ」


「傷つけてしもうたけえの。まーひとつ、根性入れえ」


「おう。お前こそな」



 ふたりは立ちあがり、泣いているミトラを左右から挟むようにして、



「おい。オレたちからの詫びだ。こっち向きな」



 そしてミトラが顔をあげたところへ、



「「ふんっ!」」



 気合いとともに、ズボンを下着もろとも、一気に引き下ろしたのだった。



「ぎゃー!!!」



 禍々しいものを見せられたミトラは泣くのも忘れ、



「ば、ばっちか!変態!あっちいけ!」


「お、お前な。言うにことかいて、ばっちいはねェだろう。悪ィと思ったから、ここまでやってんだぜ」


「ほーじゃ、これでおあいこじゃ」


「俺たちもこうして見せたんだから、これで五分ってやつだ。お互い恨みっこなしってことでいいな?」



 腰に手をあてたふたりは、そのままの姿勢で一歩、また一歩と、後ずさるミトラに肉薄していく。



「ち、近寄らんでェ!」


「んだよ。ついてるモンは一緒じゃねえか」


「一緒って、一緒って言うたばい……ふえええ」


「我りゃー、また忘れとんの。この子はおなごじゃけえ、ワシらと一緒は禁句じゃ」


「ややっこしいな、どうも……とにかくよ。お前がきっちりオレたちの股間を拝まねえと、五分にならねェんだから、目ん玉かっ開いてとっくと見ろい!おら!おら!」


「ほーじゃ。よう見んといけんで。もうやらんけえの。ほーれ、ほれ、ほれ」


「ぎゃー!!!」



 なんだこの地獄。


 ミトラは膝が笑って立ちあがれない。

 だから、ちょうど目の高さにきてしまう。

 何が?とても書けません。


 とうとう追い詰められたミトラは、



「むきゅ……」



 あえなくパタリとひっくり返った。

 それを見たカトーが、また悩んだ。



「のう。ワシら、何か間違うとりゃせんか」


「ああ。オレもそんな気がしてきたところだぜ」



 しかし、とっくに手遅れである。

 仕方なく、ふたりは同じ姿勢のまま、その場に立ちすくんでいた。



「カトー……お前さ、こいつは女つったよな?」


「言うた」


「じゃあよ。オレたちのしてるこたァ、なんだろうな」


「うむ……」



 やがて、カトーが結論をつぶやいた。



「ただの変態行為じゃな」

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