第5話 言葉責め
「み……見たと?」
と、ミトラは早くも涙声。
無理もない。
自分は引き裂かれた衣服の残骸を、僅かにまとっただけの、あられもない姿。
そして見知らぬオッサンふたりが、そんな自分を凝視していたのだから。
カトーは鍋カブトごしに頭を掻き掻き、
「ま、まあ、見たゆうたら見たかもしれんが、そのー、あれよ。のう?」
「うろたえてんじゃねェよ」
スキピオはあくまで冷静だった。
「なァ、目ん玉ウルウルさせて、そんなに恥ずかしがるこたァねえだろ。ガキのナニなんて、こっちも見たからって嬉しいもんじゃねェよ。まァ、女装したガキってのは、ちっとばかし風変わりかもしれねェがよ」
「ナ、ナニ……」
「あー、わかんねェか。男のヘソの下についてるもんを、俺たちシモジモの人間はそう呼んだりするんだよ」
しばし呆然としたミトラの瞳から、大粒の涙がぽろりと落ちて、
「えぐっ、ふ、ふぐっ……」
と、ついに泣きだしてしまった。
「な、泣いてしもたど」
カトーは狼狽して、
「どうすんなら。なんとかせえ。なんとかしてくれやあ」
そこへいくとスキピオは落ち着いたもので、声をかけられる頃合いを待ってから、
「そのままでいいから聞いてくれ。な?」
と、穏やかに語りかけた。
「お前がナニ者なのかは知らねェが、オレたちゃしがないこそ泥でしかねェし、それ以外のナニかになるつもりもねェ。だから見ちまったもんを誰かに言うつもりもねェし、ナニかに利用するつもりもねェ。そんなこったから、ここでナニがあろうが、お前がナニ者であろうが、興味もナニもねェんだよ。つーことだからよ、ここじゃナニもなかった。ナニも起こらなかった。そういうことでよくねェか?」
ミトラは濡れた瞳をあげた。
スキピオはひとつ大きく頷いて、
「言ってる意味、わかるよな?」
「こん太か人、またナニって言うたばい」
「え?」
「何回も言うたばい。七回もナニって言うたばい……ふえええ……」
「い、いや、そいつは誤解だぜ。さっきのナニはそういう意味じゃねェんだ。その前のナニはそっちの意味だが、いまのナニは違うんだよ」
「また三回も言うたばい……よう数えたら、さっきの八回やったとばい……びえええ……」
穏やかに説得できたはずだった。
が、なぜか余計に泣いてる。
振り返ればカトーも泣きそうだ。
お手上げだ……スキピオはため息をついた。
ところがミトラは、
「死ぬばい……こげん恥ばかいて、もう生きてんいられんけん、ここで死ぬばい」
さらに困ったことを言いだしていた。
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