第4話 何がついてた?

 ならず者たちを埋めてから、カトーとスキピオは倒れたままの少女に歩み寄った。



「目を覚まさんのう」



 カトーは困った顔をしていた。



「このままだと、その、見えてしまうんじゃなかろうかの」


「なにがだよ」


「その……服が破れてしもーとるわけで……」


「ガキだぜ?見えたからって、なんてこたァ、ねェだろうが」


「ワシらはそうかもしれんが、こういうのは本人の尊厳の問題じゃけ」


「んなこと言ったって、しょうがねェだろ。さっさと隠してやりゃあ、それでいいじゃねェか」



 だが、その言葉とは裏腹に、少女の傍らにしゃがみ込んだふたりは、



「……」

「……」



 まるで魅入られたように、視線をある一点に集中させて、そのまま動かなくなってしまった。

 しばらくたってから、



「のう」


「んだよ」


「ワシ、ここについとったらいかんモノがついとるよーに見えるんじゃが、こりゃ目の錯覚かいの」


「いけねェってこたァねえだろ。そういうの、差別だぜ」


「ほんなら我りゃー、こがぁな状況をどう説明しよんなら」


「説明もなにも、オレたちにゃ関係ねェよ。まァ確かに、ちょいとびっくりしたけどよ。代わりの服を着せてやったら、なに礼には及ばねェ、あばよ。で終いじゃねェか」


「あっさりしとんのう」


「どっから見ても女のガキだが、一皮剥いたらナニがついてた。それ以上でも、それ以下でもねェよ。んなことより、早ェとこやることやって、さっさとずらかろうや」


「やることって、我りゃあ……」


「ば、馬鹿野郎!勘違いすんじゃねェよ。服だよ服!このまんまじゃあんまりだから、せめて服を着せてやろうつってんだよ!」


「あ、起きた」



 薄目を開けた少女(?)は、辺りを見回しながら、ゆっくりと起きあがった。

 まだ頭が痛むらしく、少し顔をしかめながら、可憐に色づく小さな唇を震えるように動して、



「ヤゴチエヌス……ヤゴチエヌスはどこばい」



 小鳥がさえずるような声だった。



「ヤゴチエ?さっきの奴らかな」


「自分を襲うとった連中を、呼びやぁせんと思うがの」



 小声で話していると、彼女(?)はようやく気がついて、



「あんたらは誰やか」


「誰と言われりゃあ、しがないこそ泥だな。そういうお前さんは、いったい誰だい」


「ウチはミトラばい。しがないこそ泥は、ここでなんばしようと?」


「その前に……そのー、隠したほうがええんと違うかの」


「隠す……?」



 いぶかしげな顔のミトラは、ゆっくり視線を自身の裸身に移して、しばらくぼんやり眺めていたが、



「ひゃ、ひゃああ!」



 真っ赤になって、衣服の残骸を掻きあわせた。

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