第2話 ふたりのコソ泥

「しけまくってんなァ。めぼしいモンは何もねェときてら」



 騒乱のあった旧道には、死骸がいくつも転がっていた。

 スキピオはその装具や、そこらじゅうに散乱している剣、槍などを見てまわったが、どれもたいした品ではなかった。



「官製の大量生産品だな。こんなモン、売っぱらったって、いくらにもなりゃしねェよ」


「こがーなは、どうかの」



 カトーは打ち捨てられた輿の側にいた。

 矢が何本も刺ささった輿からは、乗せていた葛籠つづらが投げだされて、横倒しに転がっている。



「馬車が通せんけえ、荷物の葛籠を輿に乗せて運びよったんじゃの。なんやら、ようけ入りよるで」



 どうせ、たいしたモンはねェだろう……そんな表情で近づいていったスキピオは、葛籠の中身をあらためて、



「ふうん、こいつァ……」



 と、意外な顔をした。



「着物、帯、櫛、鏡、指輪、耳輪、化粧道具……みんな女物だな。悪くねえ品だぜ。ちょいと量が少ねえが、こいつで我慢すっか」


「こっちは食器かいの」



 カトーは別の葛籠をのぞきこんでいた。

 スキピオも顔をならべて、



「杯に皿に椀に……いいもん使ってメシ食ってんな。こいつァ、なかなかのもんだ。大商人か大富農の女房か娘っ子、ヘタすりゃ、ちょっとした貴族ってセンも……待てよ」



 椀を見くらべて、思わず首を捻っていた。



「ぜんぶ大小の対になってやがる。こいつは、どういうこった」


「まるで嫁入り道具じゃの」


「それだ」



 思わず声がうわずった。



「たまげたな。峠側で襲われてたのは、貴族階級の輿入れ一行だよ。お付きの随員に小者に下僕、ひっくるめてざっと百人なら、規模からいってもだいたいあってら」


「ほんまか。かわいそうにの。嫁入りしよるところを襲われよったんか」


「と、すりゃあよ。当の娘っ子はどこいった。それらしい死体は見当たらねェが」



 そのとき、



「助けてんしゃい!」



 と、街道からやや離れた茂みから、



「な、なんばすっと!助けて、誰か、誰か!」



 あどけなさの残る声。

 おそらくは十代前半から半ばの少女と思われた。貴族の嫁入りとしては適齢だ。

 続いてがさがさと藪が蠢く物音。引き裂かれる絹地。笑い声……。


 ふたりは顔を見あわせた。

 スキピオがしかめっ面をして、



「ヤなもん聞いちまったな」


「まー、聞いてしもうたんは仕方ないのう」


「しゃあねェな。いってやろうぜ」



 カトーは苦笑しながら、



「正義感っちゅーやつじゃな。こがぁな稼業しよんのに、我りゃー、へんに生真面目なとこあるよの」


「そんなモンじゃねェけどよ、ああいうのは嫌ェなんだよ。胸クソが悪くなるんだ」


「そこは正義感でエエと思うが」


「よせって。とにかく、いってやろうぜ」



 ふたりは立ちあがった。

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