「やぁ、クライス、久しぶりだな」


「そうだね、デューク。復活祭に食事をして以来だよ。ご両親にかわりないかい?」


「もうそんな前になるか、お互いに忙しいからな。ああ、父も母も元気さ。確かお袋さんが入院してたんだったな。その後どうなんだい?」


「お陰様で、退院して今は庭いじりに夢中だよ。看病をしてくれていたエマが看護婦

になると言い出してさ」


「エマちゃんなら心根が優しいから良いじゃないか。それじゃ、入院することになったら、エマちゃんが働く病院にしよう」


「縁起でもないことを言うなよっ。それに気が早すぎる」


「あははっ、そうだな。冗談だよ。そう言えば、今度、支店長になるんだってな、おめでとう」


「耳が早いなぁ。ああ、ウィンザー支店長として来月赴任するんだ」


「ほぉ、水たまりに飛び込んで遊んでたお前がなぁ、一流銀行の支店長か。人はわからないもんだな」


「人の事を言えた義理じゃないだろ、外資系高級腕時計店の看板店長のお前が」


 そんなことを言いながら、2人は朗らかに世間話を楽しんでいた。 


「(なるほど。2人は幼馴染で、銀行員の方がクライスさん。高級時計店の方がデュークさん。2人とも、独身で恋人なし。クライスさんには妹が1人。うーん。エマの好みで言うなら、デュークさんなんだけどなぁ、クライスさんとエマがくっつくと、エマにエマって言う妹ができるから、そっちの方が面白いは面白いよねっ!)」


 レイチェルはちゃんとメモをした。


「そう言えば、この前、事件があったんだよ。と言っても水面下でことが収まって事なきを得たんだけど」


「(キタキターッ!レイチェルちゃんラッキ~)」


 レイチェルは、ハードカバー型のメモ帳で顔を隠しながらニヤニヤした。


「そう言えば、君の店はナイフも取り扱っていたな。それ絡みかい?」


「そうなんだ。あまり大きな声では言えないが、自殺用にナイフを欲しいと言う客が来てな」


「(この辺りで時計とナイフを扱ってる店と言えば……!思い出した。確か、ロンドンの中心街にある、ビクトリノックスだ。ほうほう、一流企業じゃないですか~とりあえず、エマにはデュークさんだね)」


レイチェルはメモ帳に書き加えた。


「自殺用?穏やかじゃないね」


「そうだろう?担当した部下が扱いに困って俺に持って来たんだよ」


「精神病院でも紹介したとか?」


「いいや、すでに通院していて、服薬もしているらしかった。その上で買いに来てるんだ、万が一店の中で早まられても困るから、とりあえず、対応をしたよ」


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