投書Ⅱ ファイルタイトル『ダイヤモンドで朝食を』 クライス・ワグナー 体験談
「うへぇ、やっと逃げ切ったぁ~疲れたぁ~」
あんな高いヒールでよく全力疾走ができるものだと感心しながら、レイチェルは盗み聞きポイントの一つである、カフェ・エレメンタールのテラス席に腰を下ろしていた。
ウィスパー寄稿文店のあるクイーンアンネ通りを北に進み、セント・ジョージア公園の手前にある高級住宅街の一角にあるカフェである。
時間と金を持て余しているこの界隈の住人はティータイムと噂話が大好きである。
他人の不幸は蜜の味。
つまり、このエレメンタールのテラス席はその噂話のメッカなのだ。
飲み物一つとってしても、少しばかし値は張るが、色々と面白い話が聞けるので、レイチェルは大体、このポイントに巣を張ることにしている。
金持ちのスキャンダルは、一般人の感覚的な桁と常識を軽く飛び越えてしまうから、加えて興味深い。
あまりに過激すぎるのと、個人が特定できてしまう内容であるが為になかなか記事に出来ないところが歯がゆいところではあったが……
「(おっと、さっそくカモが来た来た)」
獲物を物色していると、紳士風の2人が近くの席に座った。ブランド物のスーツと手入れの行き届いた革靴。シンプルな腕時計。
「(銀行員とみたっ!)」
レイチェルは、獲物に的を絞ると、鞄からハードカバー型の手帳を取り出して、
「すいませーん、いつものくださーいっ!」
っと、近くで作業をしていた馴染みのウェイトレスに声を掛けた。
「ミッションスタートっ!」
レイチェル・ドアーの腕の見せ所、到来である。
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