第7話
食事を終え一息つく。
糖分が回り始めた頭はだいぶスッキリとし、昨日より冷静になれた気がした。
男はさきほどのタバコを吸い終わり、またすぐに新しいタバコに火をつけた。
部屋をよく見れば壁紙はヤニのせいだろうか黄色く変色している。
タバコの先は1cmほど白く灰になりいまにも落ちそうだ。
じっとどこかを見つめる男の顔はひどく疲れているようで、心が少しざわつく。
「ねえ」
トントンを灰を落とし男は私を見る。
「私をここに閉じ込めて何をするつもりなの?」
ここに来て半日は経った。なのに男の目的が私にはわからない。
母だって私が1晩帰ってこなかったら、警察に相談するだろう。
なにかしらの目的があるならば、男にだって悠長にしている暇はないのだ。
男は無精髭の生えた顎をゆっくりとさすっている。
すこし苛々しているのか、眉間に皺をつくり険しい表情だ。
「お前は母親に愛されているんだな」
意図の読めない男の発言に戸惑った。
私の視線が男の悲しそうな目とぶつかる。
「昨日の夜、お前の携帯を確認したが母親から着信が何十件も来ていてな。警察にも届け出てる頃なんじゃあねえかな」
「母が......」
「時間の問題かも知れねえな」
男がぼそりと呟いた。警察なんて恐れていないような口ぶりだ。
「母に何て言ったの?」
「何も、お前の母親と連絡はとっていない。家出と思われているかもしれねえな」
「連絡をとっていない?殺すならいままで生かしておく必要なんてないし、てっきりお金目当てだと思っていたのだけれど」
「さあな」
掴みどころのない男だ。
ドラマなんかの誘拐犯は相手をロープでぐるぐる巻きにし、ナイフで脅し、怒鳴り付ける。
そんなイメージばかり持っていたから、あまりにも拍子抜けした。実際ナイフはいま床に転がしてあり大した脅威には思えない。
24時間ナイフに怯えるよりかマシだけれど、隙があり過ぎるのも困ったものでどうしたらいいのか分からなくなってくる。
完全にペースを持ってかれている。
「なんで私なの」
またタバコに火をつけた男に問いかける。
「なんとなくだ」
心の中で留めておこうと思っていたけれど我慢できなくてつい悪態をつく。
「そんな理由で誘拐されて堪るかって話よ......」
男がピクリと反応する。
「すまなかったな」
ボソボソとした低いその声に顔をあげる。
男は向こう側をむき背中を丸めていた。
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