第2話



 痛い。あれからまた眠ってしまっていたのか。

どこかの部屋に寝かされていたようで殴られた頭や体のそこらじゅうが痛い。

部屋を見渡してみると、ビールの空き缶の散らばった畳にタバコで焦がしてしまったらしい黒い跡がいくつかあった。

立ち上がろうとして両手首に巻かれた結束バンドに気づきギョッとする。

逃げなければ。両手を拘束されただけでこんなにも動きづらいものなのか。

やっとの思いで立ち上がることができた。


その時、人の気配を感じ体がこわばる。

恐る恐る振り向くとそこにはコンビニの袋を両手に提げた男性が立っていた。

すこし不意を突かれたような表情の男と目が合う。

私はよろけながら立ち上がり、部屋の隅へ逃げ男と距離をとる。


しくじった、逃げればよかったのに。

壁に背をピタリとつけながらそんなことを思った。

せめてもの抵抗で相手を睨みつけ、顔で精一杯の威嚇をする。

そんな私と目をそらさないまま、男は静かに荷物を畳に置いた。


「座れ」

男の声は低く、威圧的なものだった。


「……何をする気ですか」

なんとか声を絞り出す。


「いいから座れ」

男はまだこちらを見ている。

40代くらいだろうか?無精髭をはやし、背は高く日に焼けた肌が特徴的だ。


男は痺れを切らしたのだろうか。こちらを睨みつけ近づいてこようとする。


「座るから!……座るから、来ないで」

いまは男を怒らせないことが先決だと思い、私はゆっくりと壁際に座り込んだ。


「二度と動くな、わかったか」

男の少し大きな声に私は頭をブンブン縦に振る。

呆れた顔をして男は私とは反対の壁際に腰を下ろした。

いまさっき男が入ってきた、部屋の入口のすぐそばの壁だ。


 男はコンビニの袋からタバコを取り出し火をつけた。

コイツの目的はなんだ、金目当ての誘拐か?

それとも私は殺されるのだろうか。

冷静になり考えだすと一気に恐怖が襲ってくる。

母にはもう電話をして金でも要求した後だろうか?

座り込んだ男の尻のあたりに小ぶりなナイフが見えて、焦って顔を伏せた。

 どうすればよいのだろう。

必死に考えているはずなのに頭がから回って何も進まない。

気持ちだけが先走って頭も体もいまの状況を受け入れてくれなかった。


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