君と並んで歩く理由
「沙斗子と田無ってさあ、なんでそんないつまでも仲良いの?」
ある日の放課後、図書室でさくらが口を開いた。
今日はさくらと沙斗子と3人で勉強会だ。
藤崎君は部活だし田無君と追瀬君は用事があると言って先に帰ってしまっていた。
「なんでって言われてもなあ」
話を振られた沙斗子が首をひねる。
たしかに沙斗子と田無君は付き合ってもう半年近い。
でもいつも一緒に帰っているし、お弁当の交換もしている。
夜はメールとかもしてるみたいだし、いつまでたっても仲良しだ。
「飽きたりしないの?」
「さくらちゃんは追瀬君に飽きちゃったの?」
「そ、そんなことないよ!でもほら、付き合いだしたら飽きちゃったりもするのかなって思ってさ」
「うーん、今のところはそういう感じないけどね。だってまだ半年もたってないんだよ?
それで飽きたら早すぎると思うけど」
沙斗子は苦笑しながら答える。
もう半年と考えるか、まだ半年と考えるかの違いってとこなのかな。
「沙斗子は田無君のどこが良くて付き合ってるの?」
「…こんな私を見捨てないでいてくれるとこかな」
沙斗子はたまにひどく自虐的になる。今もそうだ。
沙斗子にはいいところがいっぱいあって、明るくて可愛くてとてもいい子なのになんでそんなこと言うんだろう。
「沙斗子、自虐的になるの禁止」
「有里依ちゃん…」
「沙斗子はいいところいっぱいあって素敵な女の子なんだからそんな風に自虐的にならないでよ。
ていうか私の友達悪く言うの嫌だ」
「…ありがとう、有里依ちゃん」
困ったように、それでも笑顔で沙斗子が言う。
無理して笑えとは言わないけれど、やっぱり沙斗子には笑顔が似合う。
「私が勅と付き合ってる理由は…勅が本気で私のこと好きって言ってくれたからかな。
それで、泥沼にはまりそうだった私を勅が救ってくれたの。
だからすごく勅のこと好きだよ。飽きるとか考えられないかな」
「そっか。その泥沼って笹井先輩が入院してたことと関係してる?」
「うん、関係あるよ。祥子姉が私にすごく執着してた時があってね。
その時勅が祥子姉の目を覚まさせてくれたんだ。あ、藤崎君も一緒だったけど」
「藤崎は本当に笹井先輩好きよね」
「あはは、でもそのおかげで祥子姉も落ち着いてくれたからさ。
私にとってはとてもありがたいよ」
たしかに藤崎君の笹井先輩好きは有名な話だ。
その陰で何人もの女の子が泣いたと聞いている。藤崎君も笹井先輩も女の子にモテるからなあ…。
にしても…。
「沙斗子、困ってた時があったならなんで私たちに相談しなかったの?」
「ちょっと複雑だったから言いづらくて…」
「でも言ってほしかったな。友達でしょ」
「有里依ちゃん、ごめんね。あの時は私自身いっぱいいっぱいで誰かに相談とか考えられなかったんだよ」
「まあ、無理に言えとは言わないけどさ。
困ってることがあったら私とさくらに頼ってよね。私たちはいつだって沙斗子の味方なんだから」
「そうだよ、沙斗子。私と有里依は何があっても沙斗子の味方なんだから。
遠慮とかしないこと」
「…2人とも…ありがとう」
沙斗子がゆっくりと笑った。そう、その笑顔が好きなんだ。
さくらと2人で顔を見合わせて笑う。
3人の笑顔が図書室に静かに広がった。
「にしても沙斗子は本当に遠慮しいだよね」
翌日の放課後、調理室で私とさくらはしゃかしゃかとクリームを泡立てていた。
今日のメニューはイチゴのショートケーキだ。
スポンジはもう焼きあがっていて、冷ましている途中。
なので今はデコレーション用の生クリームを泡立てている。
「有里依、まだ気にしてたの?沙斗子の遠慮と気遣いはそれはそれで沙斗子のいいところじゃない」
「そうなんだけどさー、すぐ1人で抱え込むじゃん。
それで1人でこっそり病んでいくっていうかさあ。
そういうとこは直してほしいな」
「わからなくはないけどね。でも田無と付き合い始めてからは結構良くなったと思うけど?」
「それはそうなんだよね。やっぱりあの2人お似合いなのかも」
クリームの固さを確かめながら返事をする。
田無君が少しでも沙斗子の助けになっているのなら、それ以上に嬉しいことなんてない。
それだけ田無君が沙斗子のことちゃんと考えているんだろうな。
「あの2人の仲良しっぷりは見てて羨ましいけどね」
「え?さくらでも他人を羨ましいとか思うんだ?」
ちょっと意外だった。さくらは他人のことを羨んだりするタイプではないと思っていたから。
「私だってね、誰かを羨ましいと思うことくらいあるわよ。
田無と沙斗子ってお互いにお互いを補完し合ってる感じがするじゃない?
だから私も追瀬とそういう風になれたらいいなって思うわけよ」
「あー、それはそうだね。お互いに足りないところを支えあってるっていうか…」
お互いに足りないところを支えあえる関係ってすごくいいよね。
沙斗子はすごくいい人を見つけられたんだと思う。
でもさくらと追瀬君だってお互いがお互いに持っていないものを持っているように見える。
そう考えるとさくらと追瀬君だって付き合ったらすごくいい関係になれるんじゃないのかな。
「有里依、そのクリームそれくらいでいいんじゃない?」
「そだね、スポンジも冷めてきたしデコレーションしますか」
「先に私の方のクリーム塗っちゃうね」
「よろしく」
先にさくらに下地を塗ってもらう。
私の方がクリームを固めに仕上げたので、私のクリームは絞り機に入れて絞り出す予定だ。
「こんなもんでどう?」
「うん、いいんじゃない?じゃあ私の方も乗せていくね」
「へー、有里依ホイップするのうまいのね」
「お菓子作り好きだからね」
「それって関係あるの?」
「そういや、このケーキは追瀬君にはあげないの?」
「今日はあげる約束してないな。明日昼休みにみんなで食べたほうがいいかと思って」
さくらがはにかむ。
そういう乙女っぽい顔がすごく可愛い。
最初は違和感しかなかったけど、最近は慣れたものだ。
「それがいいね。じゃあ明日のお昼はみんなでパーッと食べよう」
丁寧にクリームをデコレーションしながら答える。
明日の昼休みはにぎやかになりそうだ。
みんな喜んでくれるといいな。ついでにさくらが上手く追瀬君にアピールできるといいな。
いろんなことを考えながら、ケーキをデコレーションしていった。
みんなが上手くいって幸せになれますように。
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