背中を押すから
ある日のお昼時。沙斗子がえらくご機嫌だった。
お弁当箱を見るにどうやら今日は田無君の手作りらしい。だからだろうか?
「沙斗子、ずいぶんご機嫌じゃない」
さくらが微笑みながら言う。
「そうかな?そうかも。あのね、今度の土曜日に勅とデートするんだ」
「やったじゃん、沙斗子デートしたがってたもんね」
「うん!勅から誘ってくれたの」
ご機嫌の理由はそれか。
先日田無君の背中を押したのは功を制したらしい。
「で、どこ行くの?」
「映画観に行く」
「いいね、デートっぽい」
「でしょ?映画観てーお茶してーお買いものしてーご飯一緒に食べる」
「いいなー、いかにも高校生の初デートって感じ!」
「有里依ちゃんはシチュエーションが羨ましいだけでしょ」
「あはは、ばれた?」
「バレバレだよ」
くすくすと沙斗子が笑う。
先日も思った通り、わたしはデートっぽいシチュエーションには興味があるが、それは別に誰と一緒だってかまわない。
ていうか彼氏とか面倒臭いからさくらや沙斗子とそういうお出かけしたい。
「しょうがないから有里依のデートもどきには私が付き合ってあげるわよ」
「本当に!?ありがとう、さくら」
「私だって本当は悟とデートしたいんだけどね」
「じゃあ、追瀬君誘えばいいじゃん」
「そう簡単に誘えたら苦労しないのよ」
「さくらちゃん乙女だねー」
「もう、からかわないでよ」
さくらが怒ったふりをする。でも冗談なのはわかってるから笑って誤魔化す。
「あはは、じゃあ私と追瀬君とのデートの予行演習ってことで」
「なにそれ。ま、いいんだけどね」
「さくらとは好みあうから映画にしろ買い物にしろ気が楽なんだよね」
「それはそうね」
「なんか2人でラブラブしててずるい。私も混ぜてよ」
「ごめんごめん、じゃあ今度沙斗子も一緒に買い物行こう」
「うん!行く行く。いつがいい?」
沙斗子の機嫌は簡単に直る。こういう時に引きずらないのが沙斗子の長所だと思う。
にしてもさくらと沙斗子と買い物か。
いつ以来だろう?最近全然出かけてなかったもんね。
たまに学校帰りにさくらと寄り道するくらいで、休みの日は家に引きこもっていた。
ダメな女子高校生だな…。
「今度の土曜日は田無とデートなんでしょ?だったらその次の土曜日は?」
「うん、大丈夫だよ。有里依ちゃんは?」
「大丈夫、空いてる」
というか空いていない土曜日はないから大丈夫。
わー、私女子力低いなー。
それとも低いのはコミュ力だろうか。
「じゃあ来週の土曜日ね!どこいく?」
「駅前のショッピングモールは?」
「うーん、そこ勅と行くんだよねえ」
「じゃあ3個先の駅ビルは?」
「あ、いいね。最近お店入れ替わったらしいし行ってみたかったんだ」
「よし、じゃ決まりね」
楽しみだなあ。最近本当にどこにも行ってなかったから。
マジで家と学校の往復しかしてない。華の無い生活だ。
「そういや、沙斗子の今日のお弁当って田無君作?」
考えていると切なくなりそうなので話題を変える。
「うん、そうだよ。良く気がついたね」
「お弁当箱いつもと違うし」
「私も気づいてたよ。だってなんかメニューが気合入ってるし」
さくらの言うとおりだ。いつもの沙斗子のお弁当は冷蔵庫の残り物をそのまま詰めましたって感じなのだが、今日のは違う。
ちゃんと朝、お弁当を作るために作りましたって感じのメニューが詰まっている。
「勅、お弁当ちゃんと作るからね」
「沙斗子に食べてもらうんだもん、そりゃ気合入れるでしょ」
「てことは田無のお弁当は沙斗子作?」
「うんそうだよ。でも勅みたいにちゃんとしたものは入ってないけど…」
そこはちゃんと作ろうよ。なにげにずぼらな沙斗子の性格がにじみ出たお弁当となっていることは想像に難くない。
若干、田無君に同情しつつ自分のお弁当を突く。
ちなみに私とさくらもお弁当は毎日自作している。
2人とも料理好きだし、両親が共働きのため自分で作らなければ他に作ってくれる人はいない。
さくらに至っては夕飯もさくらが作っているらしい。
さくらには小学生と中学生の姉弟がいるため、さくらが作らざるを得ないようだ。
大変だなあと他人事ながらに思う。
「沙斗子もお弁当ちゃんと作ればいいのに」
から揚げをかじりながらさくらが言う。
「んー、面倒臭くてついね」
「今度、私が前に使ってたお弁当作りの本あげようか?」
「いいの?ちょうだい!」
「沙斗子食いつき早いね」
「だってやっぱり勅にお弁当作るときくらいちゃんとしたもの作りたいし」
「じゃ、明日持ってくるね」
「お願いします」
そうこうしている内にお昼休みが終わり、私たちは自席へと戻った。
来週の土曜日、楽しみだなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます