君の好みを考える

お昼休み、さくらと沙斗子と3人で机を囲んでお弁当を食べていた。


「男の子ってさあ、どんな格好が好きなのかな」


唐突にさくらがつぶやいた。

さくらが知りたいのは男の子の好きな恰好じゃなくて追瀬君の好きな恰好じゃないのかな。


「どうしたのさくらちゃん、急に…。恰好?服装のこと?」


「うん、そうそう、服装」


「さくらが服装のこと気にするなんて珍しいね。さくら普通に服の趣味良いんだから気にすることないんじゃないの?」


「そ、そうかな。それがね、今度の日曜日に悟と図書館行く約束してね…それでどんな服で行ったらいいか悩んでるの」


そういうことか。

やっぱり知りたいのは追瀬君の好みのようだ。

残念だけどそんなの私も沙斗子も知らない。


「いつもどおりでいいんじゃないの?私も沙斗子も追瀬君の好みなんか知らないよ」


「有里依ちゃんの言うとおりかなあ。ごめんね役に立たなくて」


「いいのいいの、こっちこそ無茶なこと聞いてごめんね」


「うーん、一般論でよければ…」


「有里依が一般的な男の子の好みの服装を知ってるとは思えないんだけど」


失礼な。ていうかそれなら、なんで聞いたし。

私だって一般論くらいなら言える。

というのは以前恋愛について調べていた時についでに調べたからなのだけど。


「男の子はワンピースとかフレアスカートとかわかりやすく女の子っぽい服装が好きみたいよ。

色は白、淡いピンク、水色、花柄、薄い黄色、ベージュあたりが男うけ良いんだってさ。

逆にボーイッシュな格好はNGみたい。サルエルパンツとか理解できないらしいよ。サルエルパンツ、さくらには良く似合うと思うんだけどね。

さくらは身長高いからジャストサイズの服がいいんだって。小柄な子ならちょっと大きめのカーディガンやプルオーバーとかでもいいみたいだけど。

私から言えるのはこれくらいかなあ」


「…」


「…」


「さくら?沙斗子?どうしたの、固まっちゃって」


「有里依がそんなに男うけの良い服装に詳しいと思ってなかったからちょっと引いてる」


「え、ちょ、やめてよ」


「ごめんね、有里依ちゃん。私もちょっと驚いちゃった」


「沙斗子まで!」


そんなに私が男うけの良い服に詳しいの、意外だったかな…。

そこまで引かれるとちょっとショックだよ。


「前に調べたことがあるだけだって。実践はしたことないんだから」


「そりゃそうね」


「実践したことあるって言われたらそっちの方が驚きだよ」


「沙斗子、それ何気に失礼だから」


「あ、ごめんね、有里依ちゃん。本当にただ驚いただけだから」


「いや、別にいいけどさ…。で、どうさくら。少しは参考になった?」


「うん、ありがと。パステルカラーでワンピースとかが良くて、ジャストサイズの服装だね?それで考えてみるよ」


「お役にたてて光栄です」


「にしてもさくらちゃんデートかあ、いいなあ。私勅と外をデートしたことないんだよね」


「え?ないの?」


そっちの方がよほど驚きだ。だって付き合い始めてから結構経ってるよね?

田無君だって沙斗子のこと大好きだし、沙斗子だってまんざらじゃなさそうだし、とっくにデートの一つや二つしてるもんだと思ってたよ。


「うーん、うちに来てもらったり勅の家に行ったりはするんだけど。あと休みの日はだいたいメールか電話してるかな」


「意外ね。田無ならとっくに誘ってるもんだと思ってたわ」


「それなら沙斗子から誘ってみれば?」


「そうだねえ、なんか恥ずかしいなあ」


沙斗子は照れたようにはにかんでいる。

こんなにかわいいのに何で田無はデートに誘わないんだろ?


「ちょっと買い物に付き合ってもらうだけでもいいじゃん。せっかく彼氏いるんだからデート位したっていいと思うよ」


「そう…だね…。誘ってみようかな」


「頑張れ、沙斗子!」


「うん、頑張ってみる!」




その日の放課後。図書室にてさくら、沙斗子、田無君、追瀬君と5人で勉強をしていた。

資料を探しに本棚をうろうろしていると、同じく資料を探している田無君とかち合う。


「ねえ、田無君、ちょっと聞いていい?」


「ん?なに?」


「なんで沙斗子とデートしないの?」


「ぶっ、な、なんでそんなこと知ってんだよ」


「沙斗子から聞いた」


「なんでって…その、俺んち母子家庭なんだよ。それで休みの日は家事してるからなかなか時間とれないんだよ」


「あ、そうなんだ。ごめんね、なんか無神経なこと聞いて」


「いいよ、俺が朝霞の立場でも気になるだろうし」


田無君は苦笑している。なんか悪いこと聞いちゃったな。

しかも昼休みに沙斗子焚き付けちゃったし…。


「でも朝霞の言うとおりだよな。本当はさ家事が忙しいなんて建前で、断られるのが怖いだけなんだよ」


「そうなの?」


「そうなの。だって沙斗子に「あー、ごめん、その日はちょっと…」なんてかわされたら、俺へこむ自信あるもん」


ふうん、田無君も繊細なんだなあ。

沙斗子だって田無君のことちゃんと好きなんだからそんなこと気にする必要ないと思うんだけどな。


「それなら大丈夫だと思うよ?」


「なんでそんなこと言えるんだよ」


「だって沙斗子デートしたがってたし」


「マジで?それ本当に?」


「マジマジ。昼休みにそういう話したとき、デートしたことないの残念そうにしてたから」


「そっかー、じゃあ誘ってみようかな。サンキュな朝霞!俺頑張ってみるわ!」


「うん、頑張れ」


これできっと沙斗子も無事に田無君とデートできることだろう。

さくらも沙斗子もなんかいいなあ。

彼氏とデート…良い響きだ。羨ましい。

て、いけないいけない。またシチュエーションだけを羨ましがってる。

デートしてみたいならまず彼氏を作らないとね。とはいえ誰かと付き合う気なんてさらさらないんだけど。


私は一人苦笑して、本を片手にみんなのところへと戻っていった。

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