にぎやかしい日々の合間に
「有里依はさ、相変わらず恋愛に興味ないの?」
ある日の昼休み、お弁当を食べているとさくらに尋ねられた。
「うん。全然、まったく興味ない」
「有里依ちゃんはそもそも恋愛に関心がないもんね。
興味持とうって気すらないでしょ」
「沙斗子痛いとこつくね」
「事実でしょ」
しれっと沙斗子はお弁当のピーマンを食べている。
「で、さくら、なんで急にそんなこと言い出したの?」
「んー、ほら小鳥遊のことで有里依気にしてるみたいだったから、最近はどうかなって」
ああそのことか。
確かにあの件の直後は小鳥遊君に悪いことをした気がして多少気にはなっていたけど、今となってはしょうがなかったんだと割り切っているつもりだ。
「今はもう気にしてないよ。
あれはしょうがなかったと思ってる。
私にも小鳥遊君にも反省すべき点があったけど、今さら気に病んでも仕方のないことだよ」
「うん、それならいいんだ。それより沙斗子、今日のお弁当美味しそうね」
ひょいっとさくらが沙斗子のお弁当を覗き込む。
沙斗子のお弁当のメニューはチンジャオロースとサラダにふりかけご飯だ。
…余計なアレンジさえしなきゃ沙斗子は料理上手なはずなんだよね。
「一口もらってもいい?」
「いいよ」
はいっと沙斗子がさくらにお弁当を差し出す。
「ありがと。ん…美味しい!」
「本当に?ありがとう。嬉しいな」
「沙斗子はアレンジさえしなけりゃ料理上手だもんね」
「最近はしてないよ。前にさくらちゃんにも勅にも怒られたし」
そんなこともあったなあ。
あの時は田無君が漢に見えたよ。
「最近も田無に料理作ったりしてるの?」
「うん。たまにお昼のお弁当作ってあげたりしてる。私も勅にお弁当作ってもらう事あるし」
「ああ、だからたまにお弁当箱違うのね」
「うん。勅の作るお弁当美味しいんだよ」
へえ、田無君って料理できるんだ。
いいことじゃない。そういや藤崎君と追瀬君も料理できるって言ってたよね。
最近の男の子はみんな料理できるもんなのかな。
「沙斗子と田無君てラブラブだよね」
「まだ付き合ってそんなに日が経ってないもん。そりゃ仲良いよ」
「しばらくしたらマンネリ化するってこと?」
「しないに越したことはないけどね」
「でも田無の感じからしたらマンネリ化なんてありえなさそうだけどね。あいつ沙斗子のこと大好きじゃない」
「そう言われると照れちゃうな」
「沙斗子だって田無君大好きだもんね」
「そ、そりゃ、一応…彼氏だし…」
沙斗子が赤くなってうつむいた。可愛い反応だなあもう。
照れて「一応」なんて言ってるけど実際毎日一緒に帰るくらい仲良しだもんね。
「なによ、一応って。一応じゃないでしょ」
「はっきり言い切るのはまだ恥ずかしいの!」
「もう付き合って数か月たってるじゃない」
「それでも恥ずかしいんだもん。さくらちゃんだって追瀬君と付き合いだしたらわかるよ」
「あー、それを言われちゃうと…やっぱりそうかも」
「でしょ?」
沙斗子をからかっていたさくらが反論されて何故か照れている。
2人とも恋する乙女だなあ。
羨ましいやら微笑ましいやら。
「ちょっと有里依。なにぼんやりしてるのよ」
「あ、ごめん。恋する2人が微笑ましいなって思ってた」
「ほんと、他人事なんだから」
「他人事だよ、実際さ。羨ましくないわけじゃないけど、今誰かを好きになったりつきあったりする気なんてさらさらないもん」
「有里依はさ、なんていうか淡泊だよね」
「淡泊?」
私そんな冷めて見えるかな?
「そ、淡泊。興味あること以外は一切興味なしでどうでもいいと思ってるでしょ。
人間関係だってそうじゃない?
友達以外の人間に興味ないでしょ」
「それはそうかも」
「赤の他人からどう見えてるとかも気にしないし、有里依自身も赤の他人のことまったく見てないし」
さくらの言うとおりだ。
私は私を囲む狭い友好関係以外のことに興味がない。
趣味っていう趣味もないし…強いていうなら料理がちょっと好きなくらい?
「そういうとこ、追瀬に似てるわよね」
「あ、わかる、わかる。有里依ちゃんて追瀬君に似てるよね。恋愛に興味ないとことかそっくり」
「それ前にも言われたよね。そんなに似てるかな」
「外見じゃなくて、物事に対する接し方が似てるのよ」
「さくら、そうなの?」
さくらは玉子焼きを突きながら続けた。
「淡泊で冷静で客観的で、一歩引いた感じ?そういうとこがそっくりなの」
「自分じゃわからないなあ」
「有里依ちゃん自身だと分かりにくいのかもね」
「うーん、ほら私も追瀬君とそんなにしょっちゅう話すわけじゃないし、もっと仲良くなって話すようになったら「あ、この人私と同じ考えだ」っていうのが出てくるかもしれないんだけど。
今の段階じゃあ追瀬君の情報が足りなさすぎてわかんないや」
そう。私は追瀬君のことを知らなさすぎる。
私の知っている追瀬君はクールで落ち着いていて、でもいざって時は頼りがいのある男の子だ。
それだけ。
何を考えていて、どんな考え方をするのかとか、そういう内面については全然知らないんだ。
「ま、それも有里依が追瀬に興味持ってこなかったから、なんでしょうけどね」
「返す言葉もございません」
「いいんじゃない、有里依ちゃん。せっかく友達なんだからさ、これからゆっくり知っていけばいいよ」
「沙斗子…ありがとう」
そうだよね。焦ったって仕方のないことだ。
追瀬君についても、恋愛についても、ゆっくりわたしのペースで知っていけばいいんだよね。
お昼休みの終了をつげる予鈴が鳴った。
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