それは隠しきれていなかった

さくらが追瀬君と約束をした翌日の昼休み。

沙斗子はその話を聞いて目を輝かせていた。


「わーやったじゃん、さくらちゃん!おめでとう!」


「なんにもおめでたくないわよ。どうしよう、また緊張してきた」


「大丈夫だって。勉強教えてもらうのなら毎日してるじゃない。私だって一緒に行くんだし」


「そうだけどー、そうなんだけど」


「もーさくらちゃん気弱になりすぎ!さくらちゃんらしくないよ?」


サンドイッチにはむっと食いつきながら沙斗子は苦笑した。

本当にさくららしくない。

ここはもうちょっと、どんっと構えていてほしいところだ。


「沙斗子…他人事だからって…」


「だっていつものさくらちゃんなら「放課後楽しみだな!」くらいの感じでしょ」


「そうだよね。さくらは追瀬君が関わると途端に恋する乙女になっちゃうから」


「う、うるさいなあ。私だって気弱になることくらいあるよ」


顔を真っ赤にしてさくらが反論する。

まったく、可愛いんだから。


「ま、私も一緒なんだし大丈夫だって」


「有里依はそればっか」


「事実でしょ」


「うん…」


「ほら、さくらちゃん、元気出してお弁当食べなって。食べないと私がもらっちゃうぞ」


「それはダメ」


お弁当に手を出そうとする沙斗子の手をさくらがぱしっとはじいた。

その元気があれば大丈夫でしょ。



放課後、追瀬君と図書室に向かう。

さくらは緊張しながらも追瀬君と普通に会話している。

ほらね、やっぱり大丈夫じゃない。


図書室につき、適当に座って勉強を始める。

私は一人黙々と。さくらは苦手な数学を追瀬君に教えてもらいながら。

追瀬君って頭いいんだよね。理数系ならたしか学年トップクラスのはず。


「追瀬って勉強教えるのうまいよね」


「そう?いつも冬弥に教えてるからかな」


「うん、すごいわかりやすい」


「それなら良かった」


「あ、ここの問題なんだけど…」


「どれ?」


うんうん、いい感じに進んでいるようだ。

ここは一つ私も気をきかせますかね。


「ちょっと本探してくるわ」


そう言って席を立つ。

さくらがすがるような目でこちらをみているが、あえて無視。

本棚から適当な本を選んで、こそっとさくらと追瀬君の様子を伺う。

どうかな?2人きりでうまくいってるかな?


「水口は俺のこと好きなの?」


突然、追瀬君がさくらに尋ねた。私は思わず本棚の影に隠れてしまう。


「え…なに、いきなり…」


さくらもかなり困惑しているようだ。


「冬弥がそんなこと言ってたから。勘違いだったらゴメン。図々しいよな」


「勘違いなんかじゃ…ないよ」


さくらがごくりと唾をのむ音が聞こえるようだった。


「私は、追瀬のこと、好き、だよ」


「水口…俺…」


「あ、でもいいの!いきなり付き合ってくれとかそういうこと言うつもりじゃなくて!

ただその…友達として、仲よくしてほしい」


「水口。俺、はっきり言って恋とか愛とかそう言う気持ちわかんないんだ。

だから今は誰とも付き合う気なんてない。

それでもいいの?水口は俺と一緒にいてつらくならないの?」


「つらくなんてないよ。

その、恋とか愛とかに興味ないっていうのは有里依もそうだからなんとなく気持ちわかる。

追瀬が誰かと付き合う気が無いっていうのは逆に他の女の子に取られちゃう心配がないから嬉しい…なんて」


「このままずっと水口のこと好きにならなくても?」


「それは、たしかに嫌だけど…。でも今は一緒にいられるだけで嬉しいかな」


「本当にそれでいいの?」


「うん。いいよ。友達に…なってほしい」


「それなら俺は構わないよ。別に水口のこと嫌いじゃないし。

それにもう友達だろ?少なくとも俺はそう思ってたんだけど」


「友達って言ってくれるの?」


「え?違った?」


「ううん、そんなことない!友達!友達だよ!」


「なら良かった。それじゃ、これからもよろしく」


「うん!あ、あのメアド、教えてもらってもいい?」


「ああ、いいよ。はい」


「ありがと、メールとかしてもいいかな」


「いいからメアド教えるんだろ?」


「そ、そうだよね。あはは、ありがと」


追瀬君とさくらはうまくいったんだと思っていいのかな?

さくらが友達で良いって言うなら、きっとそれでいいんだ。

追瀬君がさくらの気持ちを断らなくて良かった。

本棚の陰でそっとため息をつく。


追瀬君は懐が広いなあ。

私とは大違いだ。

今でもたまに後悔する。小鳥遊君と関わる全てを拒絶したこと。

追瀬君みたいな対応してたらなにか違ってたのかな。


…そろそろ出ていってもいいかな。

本棚の陰から出て、2人の元へと戻る。


「有里依、遅かったじゃない」


「いやー、なかなか探してた本が見当たらなくてさ」


あははと笑ってごまかす。

あんな話してるとこに出ていけるわけないじゃん!どんだけ空気読めないと思われてるのよ!



「さくら、あれで良かったの?」


勉強会を終えて校門で追瀬君と別れたのち、駅へと向かいながらさくらに問いかける。


「なによ、聞いてたの?」


「うん、ごめん」


「まあ別にいいんだけどね。私はあれでよかったって思ってるよ。

本当に今は付き合うっていうより一緒にいられるだけで十分だし」


「さくらがいいならいいんだけどさ。良かったね、おめでとう」


「ありがと。これからゆっくり距離を縮めていければそれでいいよ」


さくらがにかっと笑った。まぶしい位の笑顔だった。

私もいつか…そんなふうに人を好きになることができたらいいな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る