きちんと気持ちを伝えよう

朝一で5組の小鳥遊君のところへ向かう。

彼は私と目が合うなり嬉しそうに微笑んだ。


「おはよう、小鳥遊君」


「おはよう、朝霞さん。朝霞さんから会いに来てくれるなんて嬉しいな。どうかしたの?」


「うん、ちょっと話したいことがあるの。放課後、この間のところに来てくれるかな」


「もちろん!喜んでいくよ。でも話しって?」


「今はちょっと言えない。あと水口さんと三日月さんもいるから」


さくらの名前を出すと小鳥遊君の顔が曇った。

やはり先日引っ叩かれたことが気になるのだろうか。


「2人きりじゃダメなの?」


「この間のことがあるから、私は2人きりで小鳥遊君と話す気にはなれないよ」


「…ごめん。わかった」


「それじゃあ放課後に」


身をひるがえして5組を出る。

10組に戻りさくらと沙斗子に小鳥遊君から了承を得たことを伝えた。


「そう、ちゃんと来るのね。いい度胸だわ」


「小鳥遊君は有里依ちゃんのお願いなら断らないだろうとは思ったけど…私とさくらちゃんがいてもOKとはね」


「うん、意外だったけどちゃんと了承してもらえたから大丈夫」


「で?有里依は結局どう落とし前つけるつもりなの?」


「私にもう関わらないでくださいって言うつもりだよ」


さくらと沙斗子は心なしほっとしたような顔をした。


「有里依ちゃんはそれでいいんだね」


「うん。興味もない人に関わりたくないし、私はこれ以上友好範囲を広める余裕もない。

だからお友達とかメル友とかそういうのもちゃんと断る」


「わかった。有里依がそれでいいなら、その方向で話をしよう」


「じゃあ、私、勅と追瀬君に話伝えてくるね」


「よろしく、沙斗子」


沙斗子はぱたぱたと田無君たちの方へ向かっていった。

あっちは任せて大丈夫だろう。

私は気合を入れるために、自分の頬を軽く叩いた。




「お待たせ、朝霞さん」


放課後。校舎裏の杉の木の下でさくら、沙斗子、隠れている田無君と追瀬君と待っていると小鳥遊君がやってきた。

わずかばかり緊張しているようにも見える。


「来てくれてありがとう」


「どうってことないよ。それより話って?」


「あのね、もう私に関わらないで欲しいの。10組の教室にわざわざ来たり、放課後待ち伏せたりすることもやめてほしい」


「でも、僕は君が好きだ。君と離れるなんて嫌だ!」


「それがウザいって言ってんでしょうが!」


さくらが怒鳴る。

それをなんとかなだめて私は話を続けた。


「小鳥遊君。君が私を好きだということは理解しているよ。でも私にはその気持ちに答える気はないの。

小鳥遊君だけじゃない、他の誰に好きだと言われても私は誰とも付き合う気はないのよ」


「それは…なぜ…?」


悲しそうに問う小鳥遊君に心が揺らぎそうだが、ここはきっぱり言わなくては。


「私、恋愛に興味ないの。好きとか恋とかそう言う気持ちが理解できない。

だから誰とも付き合う気はない」


「そんな…でも、付き合ってみたら気が合うってことも…!」


「それは無理。私、今は今の友好関係で手一杯なの。これ以上他の人と関われる余裕はないよ」


「じゃあ…本当に無理なんだね…」


「うんゴメン」


小鳥遊君はうつむいて無言になってしまった。

でも私が言うべきことはちゃんと言った。これ以上言うことは…一つだけ残ってた。


「ねえ、小鳥遊君」


「なに?」


「小鳥遊君はなんで私のこと好きなの?」


「それは…一年の時の林間学校で朝霞さんを見かけて…

すごくきれいな笑顔で頑張ってる姿を見て好きになったんだ」


「そんな前からだったんだ。本当にごめんね。気持ちに答えてあげられなくて」


「いや、いいんだよ。僕の方こそごめん、しつこくつきまとったりして…」


「もういいよ。それじゃあ、さようなら」


「うん、さようなら」


とぼとぼと小鳥遊君は去っていった。

私は力が抜けてしまい、その場にへにゃりと座り込んでしまう。


「ちょっと、有里依!?大丈夫?」


「うん、大丈夫。ちょっと疲れちゃた」


ぱたぱたと足音がして田無君と追瀬君が駆け寄ってきた。


「おい、朝霞!大丈夫かよ」


「朝霞、お疲れ様」


「田無君も追瀬君もさくらも沙斗子も付き合ってくれてありがとう。

これで…終わったんだよね…?」


「うん、これできっともう終わりだよ、有里依ちゃん。お疲れ様」


はーっと大きくため息をついた。

それからゆっくりと立ち上がる。

これで、終わったんだ。

思ったよりもあっさり小鳥遊君が引いてくれて良かった。それも私を気遣ってくれてのことだろうか。


「小鳥遊君には悪いことしたかな」


「何言ってんのよ、有里依!あれでよかったのよ。これ以上関わっても絶対ろくなことにならないんだから」


「そうだぞ、朝霞。小鳥遊には小鳥遊の思いがあったんだろうけど、それを全部朝霞が抱え込む必要なんてねえんだよ」


「そう…だよね。私には小鳥遊君にしてあげられることなんて何もないんだよね」


「有里依ちゃん疲れてるんだよ。今日はもう帰ろう?」


沙斗子がそう言うと、みんなも疲れたように頷き教室へと鞄を取りに戻った。

沙斗子は田無君と2人で早々に帰っていく。


「それじゃあ、また明日ね!」


「お先ー」


2人にひらひらと手を振り見送る。

私はと言えば、またもや力が抜けてしまい、机に突っ伏していた。


「なに、有里依。あんたまだ気にしてるの?」


「そういうんじゃないんだけどさー。言いたいことをはっきり言うって力使うよね」


「それはそうね。気に病んでない?小鳥遊のこと」


「小鳥遊君については、悪かったとは思うけどそこまで気にしてないよ。

相容れなかった、それだけ。冷たいかな?」


「朝霞は別に冷たくないだろ」


一緒に残ってくれていた追瀬君が口を開く。


「朝霞の言うとおり、朝霞と小鳥遊は相容れなかった。

相容れない相手を好きになってしまった小鳥遊は不憫だとは思うけど、朝霞が必要以上に気にする必要はないんじゃないの」


「ありがとう、追瀬君。そう言ってもらえると少し気が楽になるよ」


顔を上げて追瀬君にお礼を言う。

追瀬君は無口だし無愛想だけどとても優しくていろいろちゃんと考えてる人だったんだな。知らなかった。

私と小鳥遊君もこうやってゆっくり知り合いになれていたら、結果は違っていたのかもしれない。

今となっては考えるだけ無駄なのだけど。


「追瀬はこの後どうするの?帰る?」


さくらが首をかしげる。


「うん、今日は帰るよ。冬弥のやつは笹井先輩と帰るって言ってたし。

明日、冬弥に今日の結果話してもいい?」


「有里依がいいのなら」


「うんいいよ。藤崎君にも心配かけちゃったしね」


「有里依はそろそろ帰れそう?」


「うん!もう大丈夫!心配かけてごめんね、帰ろう」


こうして、小鳥遊君に関する騒動は幕を閉じた。


…本当はさくらと追瀬君を2人きりで帰してあげたかったけど、私にそんな余裕はなかった。

ごめん、さくら。

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