君を守るには
小鳥遊君からの告白を断ってから数週間。
私は非常にイライラしていた。
「…」
なぜなら小鳥遊君が何か言いたげにしょっちゅう私を見つめているから。
この間ちゃんと断ったじゃない。あなたと付き合うのは、いや、誰かと付き合うのは無理だって。
「有里依ちゃん、大丈夫?」
沙斗子が気遣わしげに私の顔色を伺う。
さくらも言葉にはしないもののイライラしているようだし、ここは一つ、もう一度落ち着いて話をした方がいいのだろうか。
「有里依、あんたバカなこと考えてないわよね?」
「バカなこと?」
「小鳥遊ともう一度話そうとか考えてるんじゃないかってこと」
さすがさくら。鋭い。
確かに何度話したって結果は変わらないのかもしれない。
それでも。
「でもこのままにしておくのはちょっと…」
「だったら私が話をつけてくる」
「さくら、それもちょっと…。やっぱり私がちゃんと話さないとダメなんじゃないかと思うよ」
さくらは不機嫌そうに眉をはね上げた。
「何度話したって同じよ。前回はなんとか逃げられたから良かったようなものの、今度もそうできるって保証はないんだよ?」
それはたしかにそうで。
前回は腕を軽く掴まれるだけで済んだ。
次もし、小鳥遊君がもっと強硬な手段に出たら私はどうされてしまうかわからない。最悪暴行を受けるなんてこともありえる。
「だから絶対にダメ。有里依を危険な目になんて合わせられないわよ」
「さくら…」
息巻くさくらに反論なんてできない。危険は犯したくない。
「ねえ、さくらちゃん、有里依ちゃん」
沙斗子がやんわりと口をはさむ。
「さくらちゃんの言うとおり小鳥遊君と有里依ちゃんを2人きりにするのはたしかに危険だと思うよ。
でもこのままで良いわけないのもたしかでしょう?
だったら話し合いの場に私たちも同席したらいいんじゃない?」
「それだ!」
さくらが食いついた。
それはたしかに良い案かもしれない。でも女の子だけで大丈夫かな…。
「それでね、一応念のため勅にも影で待機してもらったらって思うんだけど」
「いいね!それならいざって時に有里意をちゃんと守ることができるよ!」
私の意見は聞かれることなく話が進んでいく。
まあ、別に良い案だしいいんですけどね…。
その後の昼休み、私たちは田無君、追瀬君、藤崎君に事情を説明して助けを依頼した。
「マジかよ、朝霞、なんか面倒なことになってんなー」
はあ、と呆れたように藤崎君が溢す。
「隠れて見守ることは俺は全然かまわねえよ。むしろその状態で朝霞だけじゃなくて沙斗子や水口にもなんかあったら困るし」
「なんだったら俺も行こうか」
それまで無言だった追瀬君が口を開いた。
「男手が多くて困ることなんてないし、いざってときに勅1人で女子3人守るのは難しいだろ。
冬弥は部活があるから無理だろうし」
「田無君、追瀬君、お願いします」
私は2人に頭を下げた。
たまに昼食を一緒に食べるだけの仲なのに面倒事を押し付けてしまって本当に申し訳ない。
それでも2人に頼るしかないんだ。
「気にすんなって。小鳥遊だろ?あいつそんな無茶するような奴じゃねえって」
「あまり油断はしないようにな」
「うん、ありがとう」
「俺も行けたら良かったんだけどな、ゴメンな、いざってときに助けらんなくて」
「いいよ、藤崎君」
「田無も追瀬も、しっかり私たちのこと守りなさいよね!」
さくらがにかっと笑った。
さて、話し合うとは言ったもののどうしようか。問題はどこを着地点とするかだ。
自室のベッドで転がりながら考える。
私の希望としては私が誰かと付き合う気が無いってことを理解してほしい。
その上で小鳥遊君にどう行動してもらいたいかが重要だ。
私に一切関わらないでほしい?
友達ならOK?
メル友から?
個人的にはメル友くらいなら構わないような気もするけど、前回話した限りではかなり私に執着してたから鬼のようにメールが来たら怖いしなあ。
それにさくらの希望は「小鳥遊君が私に一切関わらない」だろう。
いや、今はさくらの気持ちは置いておこう。大事なのは私がどうしたいかだ。
でも正直なところを言ってしまえば、私はもう小鳥遊君に関わりたくない。
愛だの恋だので執着なんかされたくない。
私は異性になんて興味ないんだ。
小鳥遊君だけじゃない。誰とも付き合う気はなくて、きっとそこが私の望む着地点なんだ。
「でもなあ…小鳥遊君がそれで納得してくれるかどうか…」
そこが頭の痛いところだ。
先日の小鳥遊君の様子からして、あっさり身を引いてくれるとは思えない。
私からしたらただの感情の押し付けでしかないけど、彼にとっては切実な願いなんだろう。
それに応えてあげられないのは本当に申し訳ないんだけど、少なくても今は本当に無理なんだ。
今の私は恋愛に興味が無さすぎる。
じゃあどこが現実的な着地点か?
やっぱりお友達からってのが彼も納得してくれるのかな。
お友達になったら、今の校内ストーキングも止めてくれるだろうか。
むしろお友達なのを口実に悪化したりしないだろうか。
それに現実的に考えて、今の私には小鳥遊君に構っている余裕はない。
さくらや沙斗子、クラスの友人らと関わるだけで手一杯なのだ。
「うーん、お友達も難しいなあ」
考えても考えても真っ当な案が出てこない。
こういう時は誰かに相談した方がいいのかな。
でもさくらに相談したらきっと
『着地点なんて有里依と小鳥遊が永遠に関わらないことに決まってるでしょ』
とか言いそうだ。
沙斗子にきいても、
『有里依ちゃんが一番納得できる落としどころを探すのが大事だと思うよ』
と言うに違いない。
なら、私の気持ちは。
お友達にはなれないし、ましてや付き合うなんて論外だ。
だったらちゃんと断ろう。
そう決心して私は眠りについた。
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