彼女はそこから歩き出す
「さくら。沙斗子。私今まで嘘をついてたの」
昼休みの教室。
ブロッコリーをつつくさくらの手が止まり、沙斗子が首をかしげた。
「なに?」
「どうしたの、有里依ちゃん」
2人の視線に耐えられず下を見てしまう。
「私、ずっと恋したいしたいって言ってたけど、実は全然恋なんか興味なかった」
何とか思いを口にする。2人は無言のまま。
「恋を知らなきゃクラスの中でハブにされるって思ってて、わざと私もそういうことに興味あるふりしてたの。
ずっとそういう風に見せかけてた。
でも本当はそんなの全然興味なくて意味わかんなくて…。ごめん」
「あんたバカね」
私が言い終わるや否やさくらが大きくため息をついた。
「う、ごめんなさい」
「そんなのずっと知ってたっての」
「え…?」
意味がわからなくて顔を上げると、さくらは笑顔で私を見つめいてる。
沙斗子に目をやれば彼女も同じように微笑んでいて。
「私もだよ。有里依ちゃんが恋に興味ないけど、あるふりしてたの、知ってるよ」
「なんでそんなふりをしてたかまでは知らなかったけどさ。
別に有里依が恋とか愛とかに興味なくたって関係ないよ。友達でしょ。
だいたいあんたがそういうこと言いださなければ、そういう話しないんだから問題ないじゃない」
「そう…だった?」
「そうよ」
さくらが言い切る。そう言えば、そうかも。
恋の話を始めるのはいつも私で。私が言いださなければそんな話題にはならなくて。
「有里依ちゃん。私だって同じだよ。前までずっと恋にも愛にも興味なんてなかったし、むしろ嫌いだったんだもん。
だから、有里依ちゃんが恋に興味なくたって私は有里依ちゃんと友達だよ?」
「…ありがとう」
胸がいっぱいで泣きそうになる。
私はなんてバカな思い込みをしていたんだろう。
恋に興味のない女子高校生なんていなくて、興味がないことがばれたら嫌われる気がしてた。
でもさくらも沙斗子もそんなこと全然気にしてなんていなかったんだ。
「私、バカだね」
「本当にバカよ。別にいいじゃない。恋なんてその内降って湧いてくるんだから。
そしたら、そのときに悩めばいいの」
そうだね。そうだよね。私もいつか興味があるなしに関わらず、唐突に恋に落ちるときが来るんだろう。
そしたら、そのときにまた悩もう。
「さくら。沙斗子。友達でいてくれてありがとう」
2人の笑顔がまぶしかった。
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