君のいいところを上げてみよう

「サトリ、アライグマって実は凶暴って知ってた?」


「知らなかった」


トウヤと二人の帰り道。

防波堤の上を自転車を引きながら歩く。

だいぶ涼しくなってきた夕暮れ時。

柔らかい風が強く吹き抜ける。


「あんなにかわいいのにな」


「どっかの動物園のマスコットキャラになってたな」


「マジでか、知らなかった」


どうでもいい話をしながらダラダラと歩く。


「他になんかないの?」


「なんかって?」


「そういう雑学的なこと」


「…全身麻酔のかかる理由は判明してない、とか?」


「あー、それは聞いたことあるわ」


なんだっけ。

なんかの本でそんなことを読んだことがあるような気がする。


「……雑学だったらむしろサトリの方が詳しいだろ」


「そうでもないよ。俺、テレビとか見ないし」


「は?テレビ見ないの?」


「見ない。興味ない」


「サトリ、本当に今時の高校生かよ」


トウヤが驚いたように目を見開く。

俺は軽くため息をついた。


「本当にってなんだ。まあたしかにトウヤの方が今時っぽいのは認めるけど」


テレビは見ないけど本は読むんだからそれで十分だろ。

別にテレビが嫌いなわけではなく本当に興味がないだけなんだ。

テレビ見るくらいなら、その時間を読書に当てたい。


「たまにはテレビ見ろよ。世間に置いてかれるぞ」


「それは思わなくはないんだけどな」


「朝ニュース見るだけでもいいじゃん」


「なんでそんなにテレビ押しなんだよ。トウヤ、そんなにテレビ好きだったか?」


「いや、そう言うわけじゃないけどさ。

そうやってサトリは世間から切り離されていくんだろうなと思ったら放っておけなかったんだよ」


まったくトウヤはお節介だな。

それがトウヤのいいところなんだけど。

そのお節介さにササイ先輩も心を許しているのだろうか。


「考えておくよ」


きっと俺はテレビ見ないだろうけど。

そのトウヤのお節介だけはありがたく受け取っておこう。

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