その時心が揺れた

ある日の放課後。部活中に練習がひと段落したところで俺はササイ先輩に声をかける。


「ササイ先輩」


「トウヤ君。どうしたの?」


「あの、話があるんで部活後、時間もらってもいいですか」


「うん、いいよ。部活後ね」


「はい。それじゃ部活後にまた」


俺は決心したんだ。

今日こそ、今日こそ再びササイ先輩に告白するんだ。

もしかしたらまた振られてしまうかもしれない。今度こそ決定的に降られてしまうかもしれない。

それでも言わずにはいられないんだ。

サトリはミズクチとの関係を着実に前に進めている。

だったら俺にだってできるはずだ。

俺も前に進まなくてはいけないんだ。



部活後、シャワーと着替えを済ませて昇降口でササイ先輩を待つ。

ちゃんと来てくれるだろうか。

これで無視されたら俺相当へこむぞ。


「トウヤ君、お待たせ!」


ササイ先輩がポニーテイルを揺らしながら駆け寄ってくる。

そんな姿がかわいらしくて愛おしい。


「先輩!大丈夫です。そんなに待ってないです」


「それで、話って何かな?」


「あの…前々から何度か言ってますけど、俺、ササイ先輩が好きです。付き合ってください」


「トウヤ君…」


…先輩を見ると困惑したように瞳が揺れている。

これは…

今回も…


「いいよ」


「え…?」


「だから、付き合ってもいいよ」


「いいんですか!?」


「そう言ってるじゃない。今までずっと待たせててごめんね。

でも、ずっと私のこと好きでいてくれてありがとう」


「そんな、とんでもないです。俺ササイ先輩のことずっと好きです。

これまでも、これからも」


きっと今の俺は顔が真っ赤になってしまっているだろう。

かっこ悪いな。それでも、先輩は俺と付き合ってくれるって言ってくれた。

嬉しい。

どうしよう。

この後なんて言えばいいんだ?


「トウヤ君?」


「はいっ」


「私はトウヤ君の彼女になったし、トウヤ君は私の彼氏になった。だから、その敬語止めよう」


「はいっ…じゃなくて、えと、うん、わかった」


「あと先輩って呼ぶのも禁止」


「じゃあ、ササイ?いやでもそれだとケイスケと被るな、だったら…」


「ショウコでいいよ」


「……」


「ほら、呼んでみてよ」


「し、ショウコ…?」


「はい、トウヤ君」


か、かわいいいいい、先輩が、いやショウコが照れてる。

どうしよう、俺幸せすぎて昇天するかも。


「一つ、聞いていいですか…いい?」


「なにかな」


「なんで俺と付き合う気になったの?」


「前々から付き合ってもいいかなとは思ってたんだよ。

部活頑張ってるトウヤ君は格好良かったし、なによりトウヤ君が私の事本気で好きでいてくれてるのはわかってたし」


「そうだったんだ…」


「うん。だからどっかのタイミングで言おうかとは思ってたんだけど先越されちゃった」


そう言ってにこっと笑う、ショウコ。

俺幸せすぎて爆発するんじゃないの?

なんだか現実のように感じられなくてぼうっとしてしまう。

そんな俺を見てショウコは呆れたように笑っている。


「トウヤ君、帰ろうか」


「はい、じゃなくて…うん!」


ここは手の一つでも握った方がいいのか?でもさすがにまだ早いかな。

悶々と考えながら昇降口を出て自転車置き場へ向かっているとショウコが俺の袖口をきゅっと握った。

なにそれかわいい、小動物みたいだ。

ここは男を決めるんだ、トウヤ!

袖口を掴むショウコの手をそっと振りほどいて、その手を握る。

ショウコと顔を見合わせてお互いはにかんだ。


「俺自転車なんだけど、ショウコは?」


「駅まで歩きだよ」


「だったら後ろ乗ってく?」


「いいの?重いよ?」


「そんな小柄で何言ってるんだよ。いいから、乗って」


「じゃあお言葉に甘えて…」


おずおずとショウコが自転車の後ろにまたがり、両手を俺の腹に回してくる。

やばいめっちゃ密着してる。

ドキドキしながらも自転車を必死に漕ぐ。

合間合間で部活のこと、授業のことクラスメイトのこと、ケイスケのことなどぽつぽつと会話しながら駅まで向かった。


「よっと、着いたよ」


「ありがとう」


「どういたしまして。それじゃ、また明日」


「うん、また明日ね」


ショウコは自転車から降りると、ひらひらと手を振って駅の雑踏の中に消えていった。

あー、幸せだった。

この幸せが当分続くのかと思うと顔が緩んで仕方ない。


俺は自転車を旋回させて、にやけた顔のまま、家路へとついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る