僕の役目、君の役目

「はー、今日も美味かったなー」


学校からの帰り道、防波堤の上でトウヤが言う。

今日はサクラとアサカに調理部で夕飯をごちそうになってきた。

メニューは餃子だ。手作りの餃子があんなに美味いとは思わなかった。

なにしろ皮から手作りしたらしい。


「そうだな、美味かったよな」


「な!俺、一から手作りの餃子なんて初めて食べたよ」


「だいたい既製品を買ってきちゃうもんな」


「今度家でも一から作ってもらおっかな」


「いいんじゃない?俺も作ってみようかな」


俺の家は両親共働きのため、食事に関しては一切俺がまかなっている。

そのため何か食べたいと思ったら自分で作るしかないのだ。


「そっか、サトリん家ってサトリが料理してるんだっけ。大変だな」


「慣れだよ、慣れ。慣れちゃえばどうってことないよ」


「だって今日も今から帰って飯作るんだろ?お腹いっぱいなのに面倒じゃね?」


「まあな。でも今朝の内に仕込みはしてあるからさ。後は火を通すだけだし」


「メニューなに?」


「からあげ。ご飯はタイマーセットしてあるし、味噌汁は昨日大量に作ったのが残ってるし、あとはキャベツ千切りにしてからあげ揚げるだけ」


「へー、ちゃんと主婦してるんだな」


「そうしないと食いっぱぐれるから」


大変とか面倒とか思わないわけじゃないけど、やらないと自分の食事が無いのだ。否が応でもやるしかない。

食費はちゃんともらってるが、そんなにたくさんもらってるわけではないので、レトルトばかりにするとあっという間に足りなくなる。

それで結局手作りにすることになる。


「トウヤの家も、母親働いてなかったっけ?」


「うちも働いてるけどさ、パートだから食事はちゃんと作ってくれてるよ。

家で俺がやってることつったら掃除と自分の服の洗濯くらいだな」


「それでも十分偉いじゃん。俺掃除苦手なんだよね」


「意外だな。サトリはそういうとこきちっとしてると思ってた」


「そうでもないよ。掃除するのが面倒だから物を増やさないだけ。

俺の部屋、一見片付いてるように見えるけど、よく見ると埃だらけだし」


掃除って本当に苦手だ。なにしろ面倒臭い。

なので普段やる掃除と言えばせいぜいクイックルワイパーで床の埃をとる程度だ。


「俺はサトリと逆だな。料理すんのは面倒で苦手だけど、掃除は結構するかも」


「そうなんだ。それはそれで意外だな」


「失礼な。こう見えて、俺結構きれい好きよ?」


「まあ確かにそうだな。トウヤが体操着とか洗わずに持ってきてるの見たことないし」


「机や鞄の中とかも結構きれいだろ?」


「いやそれは見たことないから知らねえけど」


「見る?」


「見ない」


「なんだよ、見とけよ」


「いらないよ。そんなもんいちいち見てどうするんだよ」


「俺を褒め称えるとか」


「称えねえから」


なんでそんなことで褒め称えなくてはいけないんだ。

鞄の中を見せようとしてくるトウヤを押し返す。

でもトウヤがきれい好きとは意外だった。

性格からして部屋の中とか机の中とかとっ散らかってそうなのに。


「そういやササイ先輩もさー」


「うわ、出た。ササイ先輩語り」


「いいじゃねえか、ちょっと語らせろ。

ササイ先輩もきれい好きでさあ、几帳面なんだよね。

部活中に飲むスポーツドリンクとかきれいに並べておいてないと嫌がるし、ユニフォームや体操着もしわ一つないしさ。

先輩の家も両親共働きだから先輩とケイスケの2人が家事やってるらしいんだけど、先輩が洗濯と料理でケイスケが掃除と風呂って言ってた。

俺料理できないから将来は先輩に料理してもらって俺が掃除して洗濯は当番制がいいな。

先輩かなり料理うまいらしくてさ。アサカやミズクチと比べたらどうなのかはわからないけど、でもケイスケの弁当いつもうまそうじゃん?

あれ、先輩が作ってるんだってよ。いいなあ、俺にも作ってくれねえかな。

付き合うようになったら、お願いしたら作ってくれるかな。

サトリどう思う?」


長い。長すぎてなんだかわからなかった。

要するにササイ先輩の手料理が食べたいってことか?

そんなの知らないよ。作ってもらいたきゃお願いしてみろ。


「…付き合うようになってからお願いしたら作ってくれるんじゃない」


「やっぱそうかー。なんにせよ付き合わなきゃ難しいか」


「ただの後輩にいきなり作ってはくれないと思うけど」


「そうだよな。ただの後輩のままじゃ難しいよな。

でもなー、告白かー。緊張するわー」


「告白するときになってから緊張しろよ」


告白することになってすらいないのに緊張してどうする。

今までも何回か告白してるんだから、今さらそんなに緊張するようなことでもないだろうに。


「告白することを考えただけでも緊張するもんなの。鈍感サトリにはわからねえだろうけど」


「悪かったな。俺にはわからないよ」


「まあ、そう拗ねるなって。

お前もミズクチと話すときドキドキしたりするだろ?それと同じだよ」


「それは…たしかにそうだな。なんでだろうな、前はそんなことなかったのに」


「そりゃ、サトリがミズクチのこと異性として気にしてるからだろ」


そうなのかな。最近サクラに話しかけられるとドキっとするのも、一緒にいると何だか嬉しいのも、異性として気にしてるということなんだろうか。

俺はまだその感覚を持てあましていて、どう対処すればいいかわからない。

サクラも同じように思っているのだろうか。


「わかんないな」


「これからゆっくりわかっていけばいいさ」


トウヤの笑顔がまぶしい。

暗い夜道を電灯がうっすらと照らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る