声に出して、正直に
「なあ、ミズクチ。今日の放課後時間もらってもいい?」
ある日の朝、俺はミズクチに声をかける。
ミズクチは笑顔で「いいよ」と答える。
「じゃあ、放課後にまた声かけるよ」
「うん。でもなんの用?」
「ここじゃ言いづらいから、また後でな」
「わかった、またね」
そして席へと戻るとトウヤがニヤニヤしながらやってきた。
「なに、サトリ。ついにミズクチの気持ちに応える気になったわけ?」
「応えるって言うか…やっぱりまだそう言うのよくわかんないから、そのことを伝えようと思って」
「それ伝える必要あんの?」
「中間報告的な」
「ますますいらなそうなんだけど」
「俺が勝手に言いたいだけだからいいんだよ。ほっとけ」
「いやさ、好きな男に呼び出されたらやっぱり女の子は期待するじゃん。
それがその内容だとミズクチ、がっかりするんじゃねえかなって」
「がっかりされたらされたで仕方ないよ。それまでの仲だったってことだ」
「サトリはドライだな」
「かもな。ミズクチの好意に応えてやれないのは申し訳ないけど、でも今すぐどうこうなんて俺できないし」
結局それがすべてだ。
今すぐにミズクチの好意になんて対応できない。
恋を知らない俺にはどうしようもできないんだ。
朝のホームルームの開始を告げる鐘が鳴り、担任が教室へとやってくる。
トウヤは不安そうな顔をしたまま自席へと戻っていった。
そして放課後。ホームルームが終わった瞬間に立ち上がり、ミズクチの元へと急ぐ。
「ミズクチ、いい?」
「うん」
2人で連れだって図書室へ行く。図書室の奥の書庫までやってきた。ここなら人が来ない。
「で、なに?」
「あのさ、前にミズクチ、俺に好きだって言ってくれたじゃん。で、俺はそれに対して友達としてやっていこうって頼んだ。
覚えてる?」
「覚えてるよ、忘れるわけないじゃない」
ミズクチは微笑んでいる。
このまま、笑顔のまま話を聞いてほしい。
「でさ、あれからしばらくたって、俺の気持ちも少しは変化したからそれを聞いてほしい」
「…うん」
「はっきり言うけど、やっぱり今すぐ付き合おうとか恋人になろうとかは思えない」
「……」
ミズクチの笑顔が陰る。やっぱりミズクチにとっていい気分のする話じゃなかったよな。
それでも俺は話を続ける。
「だけど、だからってずっと友達のままでいようとも思わない。いつかは、いつかはミズクチと付き合いたい」
「!!」
「俺考えたんだけどさ、例えば恋人になって手をつないだり、キスをしたりすることを考えたときに、ミズクチ以外の女子とそういうことをするの考えらんないんだ」
「きっ、ちょ、なに言って…」
「だけど、今俺がミズクチのこと異性として好きかって言われるとそれはまだそうは思えない。
だからもうしばらく友達でいてくれないか?わがまま言ってるのはわかってる。それでミズクチのこと傷つけてるのもわかってる。
でも、それが俺の今の正直な気持ちだから」
「……話はわかった。まだ、友達でいてほしいってことだよね」
「うん、だけど、付き合うことを前提に友達でいてほしい」
ミズクチがうつむいた。
やっぱり図々しかっただろうか。
「…いいよ」
「いいの?」
「いつか付き合うことを前提に、でしょ。そんなの嬉しいに決まってるじゃん」
顔を上げたミズクチは微笑んでいた。その笑顔がかわいくて、なんとなくドキドキする。
もしかしてこれが恋心というやつなのだろうか。
「なんかゴメンな。俺のわがまま押し付けちゃって」
「いいって言ってるじゃん。いつかは付き合ってくれるんでしょ?
じゃ、私、オイガセの彼女予約ね!」
「じゃあ俺も。ミズクチの彼氏予約させてくれ」
「どうぞ、どうぞ」
「ありがとうな」
「こちらこそ」
にこっと笑ったミズクチはやっぱりかわいくて。
俺は人生で初めて異性にときめいてしまった。
「あ、ねえ、オイガセ。お願いがあるんだけどいい?」
「なに?」
ミズクチがくいっと首をかしげる。なんか小鳥が首をかしげているみたいだ。
そして少し赤くなって視線を泳がせた。
「その…名前、下の名前で呼んでもいいかな」
「ああ、構わないよ。それなら俺もそうしようかな。サクラだったよね?」
「!!うん!そう!もう一回、もう一回呼んで!」
「サクラ」
「ありがと…わーなんか恥ずかしいなあ」
「なあ、俺のことも呼んでみてよ」
「さ、サトリ…?」
「うん、いいじゃん」
「えへへ、やっぱり恥ずかしいや」
照れたように笑うミズクチ…いや、、サクラは、何度も言うけどやっぱりかわいい。
いつかはこの子が俺の彼女になるのかと思うと、嬉しさで頬が緩んだ。
「で、サクラ、この後どうする?帰る?」
「少し勉強していかない?今日の数学でわかんないとこあったから、サトリに教えてほしい」
「いいよ、じゃあ、ちょっと教室戻って教科書取ってくる」
「私、図書室で待ってるね」
「わかった」
駆け足気味に図書室から出る。
まだ彼女じゃないけど限りなく彼女に近いサクラ。
まさかサクラの笑顔であんなにドキドキすることになるとは思わなかった。
ちゃんと気持ちを言えてよかった。
トウヤが懸念した不安は起こらなかったし、むしろこれはいい感じになったと言っていいだろう。
俺は頬が緩むのを必死でこらえて、教室へと向かった。
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