気持ちはちゃんと伝わっている
ある日の放課後。図書室での勉強を終えた俺は校庭へと足を運ぶ。
校庭の隅の方へ向かうと、トウヤが走っているのが見えた。
相変わらず楽しそうに走る奴だ。
適当なところに腰を下ろして陸上部の練習風景を眺めていると、ふいに声をかけられる。
「サトリ君?」
「ササイ先輩。お疲れ様です」
「お疲れ様、こんなところで何してるの?」
「暇なんでトウヤが走ってるところを見に来ました」
「そうなんだ。最近トウヤ君調子いいんだよ」
それはきっとあなたが元気になったからでしょう。
そう思いながらも口には出さない。
「ササイ先輩は…」
「うん?」
「ササイ先輩はトウヤと付き合う気はないんですか」
ふと思ったことを口にする。
余計なことを言ってしまったかな。
トウヤにばれたら怒られるだろうか。
「……そうだね、まったく付き合う気が無いってことはないんだよ」
「え?そうなんですか?」
「意外だった?でもトウヤ君かっこいいし、頑張ってるし、なによりずっと私のこと支えてきてくれた。
だからその気持ちには答えたいんだ」
なんだ、良かった。
トウヤの思いはちゃんとササイ先輩に伝わってたんだ。
「トウヤには、それ言わないんですか?」
「いつかはちゃんと言おうと思うよ。いつまでも待たせるわけにはいかないものね」
「きっとトウヤ喜びますよ」
「そうだと…嬉しいな」
大丈夫、間違いない。
トウヤなら跳ね上がって喜ぶだろう。
そんな日が早く来るといいな。そう願わずにはいられない。
ササイ先輩は「部活に戻らないと」と笑顔で手を振って走り去っていった。
「おい、サトリ、お前笹ササイ先輩となに話してたんだよ」
トウヤの部活終了後。いつもの通り自転車を引きながら防波堤の上を歩く。
ササイ先輩と話していたところをトウヤはばっちり見ていたようだ。
なに話してたかって言われてもな。
素直に答えるわけにもいかないし…。
「なにって…、トウヤの話してたんだよ」
「俺のこと?ササイ先輩なんか言ってた?」
「部活頑張ってるって、最近調子いいってさ」
「おー、そうなんだよ、最近調子いいんだよ。でもそっかササイ先輩見てくれてたんだ」
「ササイ先輩はちゃんとトウヤのこと見てるよ」
「ははっ、なんか嬉しいな」
明るくトウヤが笑う。その笑顔がまぶしくて。
トウヤとササイ先輩はちゃんとお互いのことを見つめあっている。
そのことが俺には喜ばしい反面羨ましい。
家に帰って、風呂の中で考える。
…俺のことだってちゃんと見てくれている人はいる。
俺がそれに答えられていないだけだ。
そろそろちゃんと見ないとな。いつまでも目をそらしているわけにはいかない。
先日トウヤにも言われたけど、いつまでも待たせるわけにはいかないんだ。
彼女の気持ちにきちんと答えなくてはいけない。
とはいえ、俺は彼女のことをどう思う?
嫌いじゃない。むしろ好きだ。でもそれは友達として。
だいたい異性として好きってどういう気持ちだ?
大事に思うとか大切にしたいとかそういうこと?
キスしたり手をつないだりしたいか?
それはもしかしたら悪い事ではないのかもしれない。
じゃあ彼女以外の女子にそう思うか?
…それは嫌だな。彼女以外の女子とキスをしたり手をつないだりと言うのは考えられない。
でも悪くないってだけで積極的にそうしたいかと言われるとそうでもない。
………。
これ以上考えてもいい考えは浮かばなそうだな。
一度、今の気持ちをミズクチにちゃんと伝える必要がある。
明日の放課後にでも話をしてみよう。
ミズクチは嫌がらずに聞いてくれるだろうか。
ミズクチを嫌な気持ちにはさせないだろうか。
それでも…ちゃんと話さないと、俺が前に進めない。
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