最期の時を君と

「なー、サトリ。もし明日地球が滅亡するって言われたら何する?」


夕暮れ時の帰り道。

トウヤが突然そんなことを言いだした。


「明日?そうだな、家帰って家族とご飯食べて…その後はごろごろするかな」


「特別なことはなんにもしねえってこと?」


「うん。特に何もしないと思う。ていうかなんだよいきなり」


「別に何ってわけじゃねえけどさ。ふと思いついただけ」


「じゃあトウヤは何するわけ?」


「俺?俺はササイ先輩に告白する」


「トウヤらしいよ」


「だろ?滅亡する瞬間もきっとササイ先輩のこと考えてると思うから、そのときに後悔しないようにしたい」


後悔…か。

滅亡する瞬間、俺は何を考えるだろう。

きっと何も考えてないんだろうな。

ふとミズクチのことを思い出す。彼女は俺のことを思い出すのだろうか。

明日、地球が滅亡するってなったら彼女は俺にまた告白してくれるのだろうか。

もし告白されたら俺は……。


「サトリ?どうした?」


「いや、なんでもないよ」


「ミズクチのこと考えてたろ」


「なんでわかるんだよ」


「俺がササイ先輩に告白するって聞いて、「ミズクチはもう一度俺に告白するのかな」とか考えてたんだろ?

わかるよ、それくらい」


「お前は変なところで鋭いよな」


「サトリがわかりやすいんだよ。

で?もう一度告白されたらお前どうすんの?やっぱり断るの?」


「どうだろうな。逆に受け入れるかもな」


「それって同情から?」


「たぶんそう。最後の最期くらい誰かの願いを聞き入れてやってもバチは当たらないだろ」


トウヤは何とも言い難いような顔をしている。

もしササイ先輩に同じような態度を取られた時のことでも考えているんだろう。

トウヤだって十分わかりやすい。


「同情で付き合ってもらって、ミズクチは嬉しいのかな」


「さあな。トウヤだったらどうなんだよ」


「たぶん付き合えるってなった瞬間は嬉しいと思う。

でもよく考えて同情だってわかっちまったらむなしくなるかもしれない」


「むなしい、か」


「そう、むなしいんだと思う。切ないでもいいかもしれねえけど、しゃくぜんとしないんだろうな」


それってどんな気持ちなんだろう。

付き合えるのは嬉しい。でも相手は自分のことを好きなんじゃなくて、ただ最後だから願いを聞き入れてくれただけ。

それは同情とか優しさとかそんな類の気持ち。

好意と厚意は相容れない。


「だとしたら、最後まで俺はミズクチのこと傷つけてしまうんだな」


「なあ、サトリ。そのことについてどう思う?」


「なにが?」


「最後までミズクチを傷つけちまうことについてだよ」


「いい気分じゃないな」


「そっか」


「なんだよ」


「いや?お前がちゃんとミズクチのこと考えられてるってわかって良かったよ」


バカ言え。俺だってミズクチについてなんにも思ってないわけじゃない。

今すぐ付き合おうとかは思えないけど、もし進学とかで離ればなれになるとしたらそれなりにさみしいとは思うだろう。

でもそれはミズクチの求めている気持ちとは違う。

親愛とか友情とかそんな気持ち。


「ミズクチのことなんも考えてないわけじゃないよ。

ただ今すぐ付き合おうとか恋とかそういう風に考えられないだけ」


「まあ、ミズクチもなにがなんでも今すぐ付き合って欲しいって思ってるわけでもないだろうし、そこはサトリのペースで考えていいとは思うけどね」


「トウヤはどうなんだよ」


「俺?そりゃできることなら今すぐササイ先輩と付き合いたいよ。

でもササイ先輩の気持ちを無視するなんてことできない。だから我慢してるの」


「偉いな」


「偉くなんかねえよ。いつかは付き合いたいと思ってる。ただの我儘だ」


「でも今は我慢してるんだろ?ちゃんとササイ先輩の気持ちを考えてさ」


「いつまでもつかはわからねえけどな。いつかまたちゃんと告白したい。

本当はいつだって言いたいんだよ。好きだって、大好きだって」


それを我慢してるのは偉いと思うけどな。

普段はあんなにササイ先輩、ササイ先輩うるさいのに、本人にはちゃんと我慢してる。

そのつらさを俺は理解してやることができない。


「ま、なんにせよ地球は明日滅亡しないし、同じような毎日が、同じように続いていくんだろうな」


「トウヤ、いつかはちゃんとササイ先輩に告白しろよな。

俺もいつかはミズクチとちゃんと話す。きっとこのままにしておいて良いことなんてない」


「なんだよ、サトリ。いやに真剣に考えてるじゃねえか」


「トウヤの話聞いてて思ったんだよ。いつまでもミズクチに我慢させたくないってさ」


「じゃあ付き合うの?」


「それはまだ考え中」


「そっか、まあせいぜい悩め。ミズクチや俺と同じくらい悩め」


言われなくてもそうするさ。

俺も、いつまでもミズクチの好意に甘えてるわけにも行かないもんな。

ゆっくりと自転車を引きながら、俺はミズクチについて考える。

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